47話 コハクの想い
「キースしゃんにたくさん遊んでもらったでしゅ~」
「コハク……良かったな?」
「はいでしゅ~。ところでご主人さま、なんだか元気がないでしゅねぇ」
「……」
あれから拘束されたエドたちは、リアム陛下の指示でさらに取り調べを受けることになった。
俺たちは応接間に戻り、キースさんに抱かれたコハクと再会し、ゆっくりと地面に降ろされた。
(俺のことを心配してくれる優しいコハク……
こんな子に、どうやって伝えればいいんだよ……)
胸が苦しくて言葉が出ない。
どう話せばいいのか分からず黙り込んでいると、
頭の上からラミンがヒョイッと飛び降り、静かにコハクの前へ立った。
「コハクよ……貴様に話さねばならぬことがある」
「なんでしゅか? ラミンパパ」
「貴様の親についてだ。……何か覚えていることはあるのか?」
「コハクのパパしゃんとママしゃんのことでしゅか?
ん~、あんまり覚えてないでしゅ。
でも、パパしゃんは大きくて優しくて、あったかかった気がしましゅね。
ママしゃんも優しい声をしていたでしゅ」
「そうか……」
ラミンが代わりに切り出してくれた。
コハクの記憶の中に、両親の姿はもうはっきり残っていないらしい。
だけど――温もりだけは覚えている。
それが余計に胸に刺さる。
「どうしたんでしゅか?
もしかして、会えるんでしゅか?!」
「いや、会えるというか……
よいかコハク。貴様の父親だがな……討伐されていたようだ」
「え……とう、ばつ……でしゅか?」
「先ほどオリオンがもらい受けた瓶の骨の粉が、コハクの父親の骨だと分かった」
「パパしゃん……殺されたでしゅか?」
「ああ……母親の方は不明だが、父親はお前を想いながら亡くなった。
オリオンが、この骨から父親の最期を汲み取ったのだ」
「…………そう、でしゅか。
パパしゃん……お空の上でしゅか」
“お空の上”
そう呟いて、コハクは大きな窓の外に広がる空を見上げた。
その小さな背中が、いつもよりずっと小さく見えた。
「コハクよ。大丈夫か?」
「コハクも死んでましゅからねぇ。
でも……もう一度会えるなら、会いたいでしゅ」
「……オリオン、確かあの男、頭部は埋めたと言っていたな。
その場に行ってみるか」
「あ……そう、だね。
エドたちが場所を教えてくれるなら、行ってみようか」
コハクの「会いたい」という小さな願いに、
ラミンはエドの証言を思い出した。
もし――
埋められた頭部に魂が残っているのなら。
もし俺が触れることで、その魂を救えるのなら。
(どうして俺が魂を取り出せるのかは分からないけど……
今回ばかりはやりたい)
そう思った瞬間、リアム陛下がすぐ側にいた側近へ声をかけた。
「チャイよ。邪竜の資料はまだ残っているな?
暁の翼から頭部を埋めた場所を聞き出し、資料をオリオンたちに渡すのだ」
「はっ。すぐに持ってまいります」
「リアム陛下……」
「ライオネル王、ラミン殿……この件に関しては、我々にも落ち度があると考えます。
どうか、我々も同行させてはもらえぬだろうか」
「うむ……あまり大所帯で行くのもな。
誰か一人だけにしてもらえるか」
「分かりました。では――騎士団長エリックを。
邪竜解体の際、現場に立ち会っておりましたので。
キース。エリックを呼んでこい。
暁の翼の取り調べは、副団長ダリオ、お前に任せる」
「御意」
「承知いたしました」
ラミンの提案を受け、リアム陛下は次々と指示を出し、
俺たちの手元に“邪竜の住処の資料”が渡された。
ほどなくしてエリックさんが応接間に戻り、改めて事情を聞くと、深く頭を下げて言った。
「ぜひ、同行させてください」
その声には、責任と覚悟が滲んでいた。
「お出かけででしゅか?」
「ああ。コハクのお父さんに会いに行こう。
最後のお別れをしなくちゃな」
「はいでしゅ……」
最後のお別れ――
その言葉の意味を、コハクはきっと理解している。
自分も魂だけの存在とはいえ、寂しさはあるのだろう。
小さな表情が曇っていくのを見て、そっと抱き上げて頭を撫でた。
「ごめんな、コハク」
「どうしてご主人さまが謝るでしゅか?」
「いや……俺、何もしてあげられなかったから」
「ご主人さまはコハクを助けてくれて、名前をくれて、家族になってくれまちたよ」
「……まぁ、そうかもしれないけど」
「パパしゃんにもご報告しましゅ。
コハクは元気だよって。……コハク死んでましゅけど」
「…………ありがとな、コハク」
本当はきっと、胸の奥に辛い気持ちがあるはずなのに。
それでもコハクは、俺や周りを気遣うように笑ってみせた。
その健気さに、その場にいた全員の胸がぎゅっと締め付けられ、切なく、悲しみに満ちた表情へと変わっていく。
「コハクよ。強き子に育っておること、御父上は誇らしく思うぞ」
「じぃじ! コハク、強いでしゅよ~!」
「そうだな。そなたはいつでも強く、誇り高き竜の子。私も誇らしいよ」
「えへへ~」
ライオネル王の言葉に、コハクはいつものように明るく笑った。
その笑顔に、俺たちは少しだけ救われた気がした。
さぁ――
コハクの父親に会いに行こう。
その魂に、最後の言葉を届けるために。




