42話 大切な家族がいるから
それは――とても長い沈黙だった。
怖いほどの静寂が王座の間を支配し、
誰もが固唾をのんでリアム陛下の言葉を待っていた。
そして――
「オリオン、ライオネル王、ラミン殿。そして、コハクよ。
我が王家の恥さらしにより、多大なる迷惑をかけてしまったことを深く詫びよう。
この件については、必ず皆が納得できる結論を出す。……少し、時間をくれないだろうか。
私はもう、間違えはしない――」
その声音には、重く深い決意が宿っていた。
「リアムよ。王としての判断――それがこの国を護る盾となるのだ。
辛い決断を下さねばならぬ時もある。それも王の務め。しかと受け止めよ」
「はっ。承知しております。もう、誰にも甘い答えは出させません」
リアム陛下の覚悟を受け、ライオネル王はかつての王としての言葉を静かに伝えた。
これから下される判断は、確実にゴイルとあの男の命を終わらせるものになる。
仕方のないこととはいえ、実の弟に極刑を宣告するのはあまりにも辛い現実だろう。
母である先代王妃の想いも捨てねばならない。
情だけでは国は護れない――その厳しい現実が突きつけられた瞬間だった。
「それでは、失礼する。
リアムよ。そなたは立派な王だ。それは間違いない。……この国を任せたぞ」
「……もったいなきお言葉にございます。
建国の父、ライオネル王より賜りしこの国……必ずや護り抜いてみせます。
そして、さらなる繁栄を築くことを、ここに誓いましょう」
話を終えたライオネル王が帰る旨を告げると、
リアム陛下の表情はどこか寂しげだった。
「うむ。頼りにしているぞ。何かあれば連絡を寄越すが良い。
……応えられるかは分からんがな。
では、失礼する。オリオン、行くぞ」
「あ、はいっ! では、失礼いたします」
「ああ……ご苦労であった」
ライオネル王の圧倒的な王のオーラに、俺は思わず背筋を伸ばしてしまった。
リアム陛下、そして周囲の人々に深く頭を下げ、ライオネル王の後に続く。
扉が閉まった瞬間、
ようやくこの重たい空気から解放されたと思うと、 胸をなでおろしながら大きく息を吐いた。
(……これで当分ここに来なくて済む……!)
心の底から安堵が湧き上がる。
「はぁ……もうやだ。
ねぇ、美味しいご飯を食べに行くか、作るかしない?」
「賛成でしゅーーーっ!
美味しいもの、たっくさん食べるでしゅ!」
「だよね、コハク!」
王城を出た瞬間、俺は真っ先にそう提案した。
とにかく――この緊張感から早く解放されたい。
「そうだな。私も少しばかり腹が減ったような気がする」
「ねぇ、ラミン! コハクもライオネル王も賛成してくれたから、何か食べに行こうよ」
「バカたれ。いくら食事が出来るようになったからといって、我らのような者が食事処に入れるわけがなかろう。 己の手で作らんか」
「……まぁ、確かにそうだな。冷静に考えたら怖いか。
じゃあ、家の裏庭のスペースでBBQするか」
「しましゅーー!!」
ラミンに言われてハッとした俺は、 小さいけれど裏庭の畑の隅でBBQをしようと提案した。
一番はしゃいでいるコハクのためにも、食材をたっぷり買い込んで帰宅する。
そもそも、今まで魂のまま食事ができていたという事実の方が怖い。
普通じゃあり得ないし、もしそれが一般的なら――
この世の魂はみんな食事ができるという恐ろしい話になってしまう。
「オリオンよ」
「なに? ライオネル王」
「此度の件で、そなたにはこれから何かと面倒ごとに巻き込まれるやもしれん。
それが……なんとも申し訳なく思ってな」
「ライオネル王……」
コハクが外で火の番をしながら遊んでいる間、
俺はキッチンで下ごしらえをしていた。
そこへやってきたライオネル王は、どこか申し訳なさそうに言葉を落とした。
「俺がスローライフしたいって言ってたから、そう思ったんだよな……
こっちこそごめん。気持ちは今も変わらないけどさ。
暁の翼を辞めて、皆と出会って……得たものが沢山あった。
それってすごく特別なことだと思うんだ。 」
「オリオン……」
「だから、スローライフを送りたい気持ちはあるけど、
誰かの役に立てる瞬間があるなら、手を伸ばしたいって気持ちもあるんだよ」
「そうか……私はそなたの心に救われてばかりだな」
「ええ? そんなことないでしょう。
俺なんて一人じゃ生きていけないんだから。
ライオネル王、ラミン、そしてコハクがいて初めて“生きてる”って思えるんだよ。
だから、これからのことは何か起きてから考えようよ。
今はBBQを楽しむ時だよ。ね? ラミン」
暁の翼を辞めたあの日から、俺の生活は大きく変わった。
スローライフを目指したのも、自分だけの世界で静かに暮らしたかったからだ。
でも――
家族ができて、自分にもできることが増えて、 少しずつ考え方も変わってきた。
そのことを、ライオネル王にはちゃんと知ってほしかった。
「何をぬかすか。飯など食わずとも我らは死なぬのだ。
そんなことより貴様が死なぬよう鍛錬を積む方が大事だろうが」
「もう、いつもそれなんだから。
でも……ラミンがそうやって言ってくれるから頑張れてるかも?」
「……気持ち悪いことを言うな。さっさと支度を済ませて焼け」
「あはは、父さん照れた?」
「やかましい!」
ラミンは相変わらず鍛錬しろとうるさいし、 コハクは相変わらず可愛いし、 ライオネル王は本当に頼りになる。
そんな皆が俺の背中を支えてくれて、 俺を“ここにいていい存在”にしてくれている。
だから、スローライフとは言えないかもしれないけど、 今の生活も、案外悪くない。
むしろ、結構好きだなと思っているんだよ――




