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40話 初代国王の帰還

ヴァンスさんの手配によって、俺たちは王都から差し向けられた王国騎士団と共に、王都へ戻ることになった。

ドロシーさんの件について事情を伝えると、意外なほどあっさり「任せておきなさい」と引き受けてくれて、胸を撫で下ろした。


馬車の車輪が刻む規則正しい音を聞きながら、窓の外を流れていく景色をぼんやりと眺める。

膝の上ではコハクが「お仕事したでしゅ! 帰ったらBBQするでしゅ!」とはしゃぎ、

頭の上ではラミンが「面倒ごとは早く終わらせねばな」と欠伸をしている。


そんな賑やかさの中で、俺だけが少しだけ肩に力が入っていた。



「緊張しているのか、オリオン」



ライオネル王の穏やかな声に、俺は苦笑いを返した。



「……そりゃあね。だってこれから王城に行くんだよ?

ここで緊張しないでいつするのさ」


「ははは、まぁそうだな。しかし案ずるな。

オリオンはただ、真実を語れば良い。……それに、私も共にある」



その言葉は心強かった。

だけど――この国の王と謁見するという事実は、どうしても胃に重くのしかかる。


(というか、俺の隣にいるのも“王”なんだけど……)


そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた。



「心配するな。私が責任をもってこの件は片付ける。

オリオンはじっと黙って見守っておれ」


「うん……分かった。じゃあ、頼むね、ライオネル王」


「しかと引き受けた」



何を考えても状況は変わらない。

俺にできるのは、ただ真実を話すことだけだ。

それよりも――

今の王家が、ライオネル王の存在をどう受け止めるのか。

それが気になって仕方がなかった。


果たして俺は、何事もなく謁見を終えることが出来るのだろうか――……










ドロシーさんをギルド付近で降ろしたあと、俺たちはそのまま王城へと連行――ではなく、連れられて行った。

王城に来るの自体は初めてではないけれど、いつもは門の外で待たされていたから、中の景色を見るのはこれが初めてだった。


(……っていうか、見てる余裕なんて全然ないんだけどさ)


重厚な扉が開くと、そこには赤い絨毯の先に座るリアム陛下と、居並ぶ側近たちの姿があった。

逃げ場のない空間。本当に来てしまったのだという実感が、猛烈な胃の痛みとなって襲いかかる。


(早く終われ……終わったら美味しいもの食べるんだ。本当に頼むから早く……)


心の中で必死に現実逃避をしながら、俺は片膝をついて深く頭を下げた。

緊張で膝がガタガタと笑っている俺を余所に、隣のライオネル王はガシャン、ガシャンと迷いのない足取りで進んでいく。


そして、彼が俺の隣で同じように膝をついたところで、リアム陛下が重々しく口を開いた。



「面を上げよ、冒険者オリオン。それと……其方そなたは、何者だ?

その重厚な鎧……もしやセルリア製か。なぜ、貴様のような者がそれほどの鎧をまとえているのだ?」



リアム陛下は、俺よりも隣に立つライオネル王の存在が気になって仕方ないらしい。


(……やっぱりわかるのかな。国を統べる王同士、惹かれ合う何かがあるのかもしれない)


そう思っていると、ライオネル王がちらりとこちらに視線を動かした。



「……オリオン。早速で悪いが、私はこれからすべてを話す。よいな」


「……うん。分かった(っていうか、全部任せたよ……!)」



陛下の問いかけに対し、ライオネル王は小声で俺にそう告げると、スクッと立ち上がり陛下を真っ直ぐに見上げた。

王の御前で、許可なく立ち上がる。

それは明らかな不敬罪――ご法度のはずだ。

周囲の騎士たちがピリついたのが分かり、俺は息を呑んでその場を見つめることしかできなかった。



「久しいのう、我が末裔よ」


「……末裔? 何を言っておるのだ?」


「私はそこにいるオリオン・カムエルの手により、魂を拾い上げられた者だ」



ライオネル王の言葉に、誰一人として理解が追いつかない様子で眉間に皺を寄せた。

それはそうだろう。魂を拾うなんて、有り得ない話なんだから。



「我が名はライオネル・イグニス・ウィンエバー。この地を建国せし王なり」


「なっ……! 何を言っているのだ?! 初代国王の名を騙るなど、不敬にも程があるぞ!

オリオン! こやつは一体何者なのだ?!」



陛下が激昂し、俺に鋭い視線が飛んでくる。

ヒッと喉が鳴りそうになるのを必死にこらえ、俺は声を振り絞った。



「……発言をお許しください。

こちらにおられますのは……間違いなく、初代国王ライオネル王なのです。

ダンジョン内で彷徨っていた魂を、私が偶然にも解放してしまったのです」


「なに? ダンジョンで……? そんな馬鹿げた話を信じろと言うのか?!」


「オリオンの言うことは真実だ」



ライオネル王が、リアム陛下の怒りを静かに受け流すように言葉を続けた。



「私はあの日、イグニスと共に命を終えた。だが、魂となって今日まで現世を浮遊していたのだ。

それをこのオリオンが救い出し、今は彼の家族として共に歩んでいる」


「な、何故そこまででたらめを……そんな話を、誰が信じると……!」



陛下が信じられぬと首を振り、周りにいる騎士団たちが腰の刀を抜こうとした、その時だった。



【お待ちなさい、リアム。彼が話していることは本当ですよ】


「シルフィ?! 今、何と……?」



陛下の側から、透き通るような風が吹き抜けた。

実体化した風の最上位精霊の姿に、俺は思わず目を奪われる。



「わ、綺麗な精霊だ……」


「ライオネル王、お久しぶりね。まさか貴方と再びまみえる日が来るとは思わなかったわ」


「シルフィ。久しいな。……元気そうで何よりだ」


「ええ。……それで? 貴方は姿を見せないつもりかしら。イグニス」



シルフィがライオネル王の剣を覗き込むように問いかける。



「――久しぶりだな、シルフィ。

表に出ずとも話はできると思っていたが、お前に呼ばれては仕方がないな」



ライオネル王の剣から、爆発的な熱量と共に紅蓮の炎が溢れ出した。

火の最上位精霊、イグニスのお出ましだった。



「なんっ……! あれは……間違いなく最上位精霊イグニス……!?

……では、貴方は、本当に……」


「信じられぬのは当然だ。3000年前の魂が現代に蘇るなど、有り得ぬことなのだからな。

しかし、これは紛れもない事実。私の魂とイグニスは、ここに復活したのだ」



静まり返る謁見の間。

リアム陛下は、まるで心臓を掴まれたかのように、呆然と立ち尽くしていた。


(……そりゃあ、そうなるよね。俺だって未だに不思議だもん)


歴史の教科書から飛び出してきたようなライオネル王と、最上位精霊たちの再会。

今この場所で「歴史的瞬間」が刻まれているのは間違いない。

だけど、俺の視点から言わせてもらえば、平穏なスローライフがまた一歩……いや、百歩以上、音を立てて遠のいただけのような気がする。


(はぁ……俺、今日中に帰れるのかな……)


一刻も早くこの場を立ち去りたい。そんな本音が喉まで出かかっている。

だけど、久しぶりの再会を喜ぶイグニスとシルフィ、そしてどこか晴れやかなライオネル王の横顔(顔は見えないけど)を見ていると、彼をここへ連れてきたことは正解だったのかもしれない。


そんなことをぼんやりと考えていた、その時だった――




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