表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/54

39話 一緒に食べるという幸せ

冒険者ギルドに二人を連れて行き、ライオネル王が自らヴァンスさんへ事情を説明した。

ヴァンスさんは一言も口を挟まず、最後まで真剣に耳を傾けてくれた。

そのうえで、王城への報告は避けられないと判断した。



「はぁ……謁見したくない。誰か代わりに行ってくれないかな……」


「ことが事なのだ、仕方があるまい」


「すまぬなオリオン。私がきちんと話をつける。心配するな」


「それが心配なの! だってライオネル王だよ? 初代国王!

そんな人が魂とはいえ今この場にいるって、大問題じゃないの?!」


「はは、そうかもしれんな。しかし私はもう過去の残像。

今はオリオン、ラミン殿、コハクの家族として生きておる。

王族には介入させんよ」


「……そうだといいけどさ」



ヴァンスさんの判断で王家へ書状が送られ、返答を待つ間、ゴイルたちには眠りの魔法がかけられた。

数日持続する魔法をさらりと使うあたり、やっぱりヴァンスさんは只者じゃない。

俺は一度ドロシーさんの家に戻り、詳しくは話せないものの「近いうちに王都へ戻ることになりそう」とだけ伝えた。


その後の数日、通達が来るまでの間に再びダンジョンへ潜り、念のための見回りを続けた。

幸い、ブルーアップルに侵された若者は見つからず、胸を撫で下ろした。

強い力を求めたくなる気持ちは分かる。

でも、結局は自分を苦しめるだけだ。

どうかそれに気づいてほしい――そんな思いが胸に残った。



「これが片付いたらちょっとゆっくりしない? 依頼受けずにさ。

そうだ、美味しいものを集めて皆で外で食べようよ。BBQってやつ!」


「コハク食べたいでしゅー!

でも、器を抜け出さなきゃいけないでしゅ……」


「あ、確かに。それを外でやるわけにはいかないよなぁ」



どうしてもスローライフらしいことがしたかった俺は、この依頼が終わったら絶対にゆっくりしたいと願い出た。

頭上のラミンにはポコポコ叩かれたけど、コハクは大賛成してくれた。

ただ――

魂の状態では食事ができないという、どうにも理不尽な問題がある。

どうすれば皆と同じように食事ができるのか。

それが今の課題だった。


(どうにかならないかな……)


そう考えていた時だった。

ライオネル王の剣の精霊石が赤く光り、イグニスが姿を現した。


「イグニスよ、どうしたのだ? 何か危険の知らせか?」


「いやなに。先ほどからコハクの悲しい気持ちが伝わってきたからな。

皆が器に入ったまま食事が取れたら良いのだろう?

それであれば“魔力変換魔法陣マナ・トランス・サークル”という精霊魔法を使うがいい」


「魔力変換魔法陣? そんな精霊魔法、あったのか?」


「ああ。口にしたものを瞬時に魔力へ変換する魔法陣だ。

本来は弱った生命体に描くものだが、今の皆にも適応できよう。

味覚はそのまま、食べ物は魔力として吸収される。

美味しい食事を楽しみながら魔力も補えるというわけだ」


「なんと! そのような魔法陣が存在したのか。

それであれば我らはこのままで食事ができ、魔力も枯渇せぬというわけだな」



イグニスはコハクの悲しみを感じ取り、

今の状態でも食事ができる方法を教えてくれた。

精霊は相手の感情に寄り添う存在なのだと、少し胸が温かくなった。



「コハクが可哀想で見ていられん。我の力を持つライオネルなら可能だ。

やってみるといい。器の外側から魔法陣を描けばよい」


「そうか! では、早速やってみよう。コハク、こちらにおいで。

ラミン殿もこちらへ」


「うむ」


「はいでしゅーー! よろしくお願いしましゅ!」


「――力の根源たるユグドラよ

我が魂と精霊イグニスの魂をもってここに命ずる

命の糧を光に変え、清き魔力へと変換せよ

――魔力変換魔法陣マナ・トランス・サークル



ライオネル王の詠唱と共に、

三人の器に複雑な魔法陣が描かれ、すっと消えた。


(これで……食事ができるようになったのか?)



「コハク、これちょっと食べてみて」


「わぁ! お菓子でしゅね! 食べるでしゅー!

……んんーー! これはとっても甘くてサクサクして美味しいでしゅ!」


「おお、本当に食事が出来たのだな。どれ、私も。ラミン殿も食べてみてはくれないか」


「仕方があるまい」


「なんと! これは素晴らしい! 味覚があるぞ!

しかも食べた後すぐに魔力変換されていくのを感じる。

これは凄い術だ……」


「うむ。美味だな。まさかぬいぐるみの状態で食事がとれるようになるとは。

さすが精霊の力だな。感服した」


「すげぇ。本当に食事がとれるようになったんだ?

じゃあ、これで何の問題もなくBBQが出来るな! コハク!」


「はいでしゅー! コハク、今からとっても楽しみでしゅねぇ!」



クッキーを口にした瞬間、

コハクの顔がぱっと明るくなり、嬉しそうに走り回った。

ライオネル王もラミンも、派手に喜ぶタイプではないが、

その表情はどこか柔らかく、満足げだった。



「これからは皆で一緒に食事が出来るな! 楽しみが増えたよ」


「ご主人様と一緒にご飯食べられるの嬉しいでしゅー!

イグニスしゃん、ありがとうございましゅ!」



コハクの明るい声に、精霊石がピカッと光って応えた。

きっとイグニスも喜んでいるのだろう。

皆が幸せそうで、俺も自然と笑顔になった。


――この瞬間こそ、俺のスローライフの一部なんだろうな。


そう思ったのも束の間。

ヴァンスさんに頼まれていた俺は、

ブルーアップルの苦痛に耐えている残りの子たちを解放するため、治癒院へと向かった。


俺の力で少しでも皆が楽になれるなら、今のこの時間は目いっぱい協力しよう。

そう思いながら――……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ