37話 復活の王
「貴様のような男が王を名乗るか、ゴイル。
貴様のその腐った野望ごと、私が焼き尽くしてくれる」
「ハッ! ただの鎧野郎に何ができる?!
私にはこれがある! こうなったら私自らが最強兵器となってやるわ!!」
「なっ……」
ライオネル王の怒りに満ちた声が響いた瞬間、
ゴイルは手にしていたブルーアップルの小瓶を次々と開け、
狂ったようにゴクゴクと飲み干し始めた。
(あの劇薬を多量に飲めばどうなるか分かっているのか?!)
止める暇もなく、小瓶はすべて空になり、ゴイルの体が小刻みに震え始める。
まるで邪悪な魔法をかけられたかのように、
黒い靄のようなオーラが全身から立ち上り、筋肉が不自然に膨れ上がった。
その顔は、もはや“人”とは呼べないほど狂気に染まっていた。
「この力を使って国を滅ぼし、新しい国を建国してやるわ!
その初代王は――私だっ!!」
カキンッ!
「貴様のような愚者に……この国の王が務まるわけがないだろうが!!」
「なにっ?!」
ゴイルは力を得たと勘違いし、腰の剣を抜いてライオネル王へ切りかかった。
だけど、ライオネル王もすぐにホーリー・テスタメントを抜き、その一撃を軽々と受け止める。
ブルーアップルで一時的に能力が上がっていようと、
王として鍛え抜かれたライオネル王の前では無意味だった。
「私を誰だと思っている。
貴様ごときが能力を向上させたところで何も変わらんわ。
私は許さない。民を思い、民のために働いてきた王家を愚弄し、
その力さえも奪おうとした貴様を……」
「何言ってんだっ……ただの鎧野郎がっ……!!」
怯えながらも虚勢を張るゴイル。
だけど、ライオネル王の怒りはさらに高まっていく。
その姿は、かつて国を築き上げた“初代国王”そのものだった。
優しさと誇りを持ち、民を守るために剣を振るった王の気迫が、今この場に蘇っていた。
太った男もその圧に飲まれ、足がすくんで動けなくなっている。
「すまぬオリオン。私にはこの男を生かす選択肢はできない。
王として、民を護る者として、この手で葬ることを……どうか許してほしい――」
「ライオネル王……ねぇ、ラミン」
「ああ、アイツの好きにさせろ。
今、アイツは初代国王、ライオネル王に戻っておるのだ」
「分かった。……ライオネル王、思うようにやって」
「ありがとう、オリオン。ラミン殿」
「コハクもいるでしゅよ?!」
「はは、そうだな。コハクもありがとうな」
「はいでしゅー! 悪者をやっつけてくだしゃい! じぃじ!」
ゴイルを処罰すれば、俺は後で尋問を受ける可能性が高い。
それでもライオネル王は、自分の手で終わらせたいと願った。
その覚悟を前に、止める理由などどこにもなかった。
俺もラミンもコハクも、
ライオネル王の背中を静かに見守ることを選んだ。
その時――
ライオネル王が握るホーリー・テスタメントに埋め込まれた小さな精霊石が、
突如として赤く光り始めた。
パリンッ――! と鋭い音を立てて精霊石は割れ、砕けた欠片が剣に降り注ぐ。
次の瞬間、
精霊石が元の2倍……いや、3倍もの大きさになり再生された。
そして――
【――我が名はイグニス。王の道を照らす者。
幾千の時間を経て今、再び貴殿の魂と共に歩もう。
待たせたな、ライオネル王よ――】
「え?! イグニス……?」
「ようやく復活したか。
あの精霊石の中で、魔力の回復を待ちながら眠っておったからな。
オリオンの魔力、そしてライオネルの“王としての覚悟”を感じ取り、復活したというわけだ」
「すごい……なんだかすごく感動してるよ俺」
大きくなった精霊石から、ボワッと光が溢れ出し、
火の最上位精霊――イグニスがその姿を現した。
その存在感は圧倒的で、俺の契約精霊ルミエールよりも遥かに大きく、神々しく、
思わず身震いするほどの尊さに、涙が滲んだ。
(これが……王となった人の力なのか……)
ライオネル王は静かに手を伸ばす。
イグニスはその手を受け取り、丁重に手の甲へ誓いのキスを落とした。
まるで“王の即位”を祝福する儀式のような光景だった。
「ななななな、なんだ?! イグニスだと?!
イグニスは我が王国の初代国王、ライオネル王が契約していた最上位精霊だぞ?!
何故その最上位精霊が貴様のような鎧野郎と契約しているのだ!! おかしいだろうが!!」
「……貴様がその目で見ているものこそが真実。
……我が名はライオネル・イグニス・ウィンエバー。
かつてこの地を統べ、守護した者。
この国に仇なす逆賊には、王としての裁きを与えよう。
覚悟せよ――」
「はあああああっ!? ば、バカなことを!!
3000年も前の王が目の前にいるはずがないだろう!!」
「ゴ、ゴイル陛下! お、落ち着きなさいっ!
これは何かの罠に違いないですから!
いくら何でも死人が蘇るなんてことは……そ、そうですよね?!」
突然の神聖な光景に、信じられないのは当然だ。
ゴイルは震える手から剣を落とし、必死に否定の声を上げる。
隣の男も必死に現実を否定しようとしている。
だけど――
今この場に立つライオネル王の風格と威厳は、本物であることを証明していた。
空気が震え、自然とひれ伏したくなる。
これが王。これが、国を築いた者の気配。
「なんでっ……そんなっ」
「そんなバカな事がありますか?!
初代国王が復活など有り得ない!
死者蘇生の禁術でもない限り……そんなことは……あってなるものか!」
「……そのようなこと、どうでも良いわ。
己の間違った野望により兄だけでなく、その兄が愛する民たちをも利用するなど言語道断。
今、私の手で全て終わらせる。
――この国は、私が護る!」
ライオネル王は静かに、しかし揺るぎない決意を込めて剣を構えた。
これはただの処罰ではない。
初代国王による正式な断罪――処刑。
誰であろうと、この裁きを止めることは許されない。
俺は息を呑み、ライオネル王の背中をただ見つめていた――……




