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36話 突き止めた犯人は

コツッ、コツッ――


足音だけが響く通路は、妙に静かで不気味だった。

探知スキルを維持しながら進むと、前方に二つの反応があるのを捉えた。



「二人いる。そんなに多くなくて良かった……拘束魔法でいいよね?」


「向こうが何もしてこなければの話だ」


「じゃあ、遠隔魔法で拘束してもいい?」


安全に済ませたい俺は、できれば戦闘なしで片付けたい。

だけど、頭の上から聞こえてきたラミンの声は、あからさまに不満げだった。



「貴様は本当に……楽しようとするな」


「ええ? だってその方が安全じゃんか」


「時には戦わんかバカたれ」


「何でだよ! ねぇ、ライオネル王はどう思う?」


「うーむ、そうだな。安全にいくのであれば遠隔魔法が最適だが……

しかし、相手がどう出るかも分からぬからな。対話してみようじゃないかオリオン」


「うへぇ……ライオネル王もラミンの味方か……」



皆に危険が及ばない方が絶対にいいし、楽できるならしたい。

そんな俺の願望は見事に却下され、結局、二人がいる場所まで直接向かうことになった。


(ライオネル王もラミンも、もっと楽を覚えた方が絶対に楽しいのに……)


そんなことを考えながら歩いていくと、通路の先に二人の男が姿を現した。


一人は、ボロボロになった高級服をまとい、狂気じみた目でこちらを睨みつけている。

もう一人は、対照的に仕立ての良い服を着た太った男で、冷静で計算高い目をしていた。



「……誰だ、我々の邪魔をするゴミめ。さては兄上が差し向けた刺客か?」



震える手で、男はブルーアップルの瓶を抱え上げた。

この二人が売人であることは、ほぼ間違いない。



「貴様は……ゴイル・ウィンエバーではないか?」


「なっ、なぜその名を?! 貴様何者だ!!」



俺たちは誰もこの二人を知らない。

だけど、隣にいたライオネル王が男の名を呼んだ瞬間、

ゴイルと呼ばれた男の顔がみるみる強張った。


(今、ウィンエバーって言った? ってことは……王家の人間?)


疑問が浮かんだその時――



「……まさか、現国王の弟がここまで落ちぶれるとはな」



ライオネル王の冷徹な声が響いた。

ゴイルは心臓を掴まれたように目を見開き、後ずさった。



「き、貴様……っ! なぜその名を、私の過去を知っている?!

私は死んだことになっているはずだ!!」


「ああ、思い出した……ゴイル・ウィンエバー。

確か数年前、実の兄である現国王、リアム陛下の暗殺を企て、

共謀した派閥の貴族とその一族もろとも処罰された……あの事件の主犯か」



俺の頭の中で、かつてギルドの隅で聞いた噂話が繋がった。

王都を揺るがした大事件。

王位継承権を奪うため、当時絶大な信頼を得ていたリアム王太子を毒殺しようとした第二王子。

母であるナイア王妃の懇願で命だけは助けられ、表向きは死んだことになっているはずだ。

しかし実際には、奴隷落ちとなり、一生魔法を使えないよう封印の術をかけられ幽閉されていたと聞いてたけど――

その元王子が、今、なぜ目の前にいるのか。



「お前たち、自分が何をしたか分かっているのか。

多くの若者を苦しめ、その未来を奪ったのだぞ。

それでもウィンエバー家の血が流れているのか?!」


「うるさいっ! 貴様は何なんだ?! 兄たちと何か関係があるんだな?!」


「我がウィンエバー家からこのような輩が出てくるとはな……

兄であるリアムとは天と地の差だな」


「なんだと?! 私の方が王に相応しいのだ!

兄はただ優しいだけのバカ男!

兄上のように民の顔色を伺うなど王のすることではない!

圧倒的な武力こそが国を強大にするのだ!

だからこそ、無能な兄を始末する必要があったというのに……

王家は見る目がなさ過ぎて呆れるわ! 私が真の王なのだ!!」


「何を馬鹿なことを……優しい王のどこがバカだというのか。大切なことだ」


「優しい王など、他国に利用され、食われるのを待つ貧弱国家に過ぎんわ!

我はこの薬で最強の軍隊を作り、大陸すべてを支配してこの国に復讐をしてやるのだ!

そのためにガキどもで試していたが……思うような成果は得られん。

やはりただの貧弱なガキではダメだったな。どうあがいても最強の戦士にはなれん」


「なんということを……仮にもウィンエバーの血筋は聖魔法の使い手……

命を粗末にしていいわけがないだろう!!」


「ライオネル王……」



元王族のゴイルは、あまりにも愚かで身勝手な理由でリアム陛下を暗殺しようとしていた。

本当に自分が王に相応しいと思っているのだろうか。

リアム陛下は常に民を気にかけ、不安を取り除こうと尽力し、他国からの信頼も厚いと聞く。

そんな陛下と正反対の思想を持つ男が「真の王」を名乗るなど、理解に苦しむ。



「オリオン、ここは私に任せてはくれぬか。

王家の不始末は、私がしりぬぐいをするのが当然のことだ」


「……気を付けて」


「何なんですか? さっきから貴方は……

王の御前です。失礼な発言は許されませんよ」



太った男がゴイルの前に立ちはだかり、ライオネル王を睨みつけた。

しかし、そんな威圧などライオネル王の前では意味はない。

ライオネル王は一歩も引かず、拳をゆっくりと握りしめながら言葉を返した。



「貴様は……見かけぬ顔だな。王家に仕える貴族ではないな?

このバカ男を利用して金儲けがしたかったただの賊だろう?」


「私はゴイル様の野望のお手伝いをしたいと思っただけですよ。

それに、ブルーアップルの適合者が現れたら、その体を使って大量に生み出すつもりです。

そうすればゴイル様のための最強兵器が誕生するのですよ。素晴らしいでしょう?」


「貴様……どこまで私を怒らせば気が済むのだ……」


「貴方は一体……王家と何の関係があるのです?」


「貴様には関係のないことだ。今すぐブルーアップルを捨てて降伏せよ」



王家の血を持つ者が、ここまで命を軽んじる――

その事実が、ライオネル王には到底許せなかったのだろう。

怒りが静かに、しかし確実に膨れ上がり、肌を刺すような圧となって空気を震わせていた。


王家の不始末は、自分で片付ける。

ライオネル王の背中から伝わる覚悟は、俺がこれまで見てきたどんな冒険者よりも重く、揺るぎなかった。

それは、一国の主として生きた者の、逃れられない義務なのだと、俺は肌で感じていた。


俺もラミンもコハクも、ライオネル王の決意を理解し、

その場の主導権を完全にライオネル王へと預けるように、静かに一歩後ろへ下がった――……


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