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34話 力よりも、大切なもの

「本当にありがとうございますオリオンさん!

この事は絶対に口外しませんから。

ヴァンスさんとも約束したし、ちゃんと契約を交わしました。」



寝かせてもらっていた部屋を出て1階へ降りると、一人の少年と目が合った。

少年はぱっと顔を明るくし、勢いよく駆け寄ってきて深々と頭を下げた。


契約まで交わしたと言っていたけど、それは本来かなりの負担だ。

約束を破れば、契約の名のもとに罰が与えられる。

内容によっては、耐えられないほどの痛みを伴うこともある。


そんな重い契約を、わざわざ俺のために結ばせてしまったと思うと、胸が少し痛んだ。



「すまなかったな。契約までさせてしまって……」


「いえ。ヴァンスさんから事の重大さは聞きました。

俺たちは、命の恩人を売るような真似はしたくないです。」


「そうか……ありがとう。

あの、さ……俺もずっと荷物持ちやってたからさ。

早く強くなって追いつきたいって焦る気持ち、痛いほど分かるんだ。

でも、楽をして手に入れた力って、肝心な時に言うことを聞いてくれない。

それに、劇薬はいつか必ず『毒』として自分に返ってきちゃうから。


同じ痛みなら、泥臭くあがいて、周りに助けてもらって……

そうやって刻まれた傷や痛みの方が、ずっと君たちの財産になると思うんだ。

王都のSランクパーティの人たちだって、みんな自分を信じて泥臭い努力を積み上げてきた。

だからこそ、今あんなに堂々と誰かを護れてるんだよ。


君たちがいつか、本当に大切な人を護るために……

今は自分の力を、自分自身を大切にしてほしい。

――なんて、俺もまだ修行中の身なんだけどさ。

……一緒に頑張ろうな?」


「オリオンさん……」



お説教をするつもりなんてなかった。

ただ、この子たちにはどうか“自分の力”を信じてほしかった。


偽物の力ではなく、自分で掴んだ力なら、きっと前を向く支えになる。

しんどくて嫌になる日もあるだろう。

それでも、諦めずにいてほしい――そんな気持ちが自然と口をついて出た。



「それじゃあ、俺はこれから依頼人の家に行ったあとで、

ヴァンスさんのところに行ってくるよ。またな。」


「はいっ!ありがとうございました!」



柄にもないことを言ってしまったせいか、急に顔が熱くなり、

俺は逃げるように病院を出た。


すると、ミラノさんの自宅へ向かう途中、

頭の上のラミンがポンポンと俺の頭を叩きながら言った。



「貴様がお説教をするようになったとはな。」


「いや、別にお説教をしたかったわけじゃないんだけどさ……」



頭をかきながら苦笑すると、ラミンはさらに眉間に皺を寄せた。



「酷なことを言ったな。

暁の翼が努力してだのなんだの。よくそんな嘘がつけるな。」


「……何が嘘なんだよ?本当のことだろう?」


「あいつらは貴様をコケにし、自分たちの欲望のままに追放した。

それに、実際に劇薬に手を出していただろうが。」


「いやいや、確定じゃないだろう?

まぁ、本当に手を出していたとしたら、

今の強さじゃダメって思ったんじゃないの?

前に依頼された邪竜討伐の時、結構危なかったって聞いたからさ。」


「はぁ……何故そうなるのだ。

貴様のその相手は悪くないみたいな考え方をするお花畑な脳みそ、どうにかせんか。」


「ええ?何それ。」


「ラミン殿はそなたが優しすぎだと言いたいのだよオリオン。

まぁ、そこがそなたの良きところではあるんだがな。」



ラミンに言われて首を傾げていると、ライオネル王が穏やかに補足してくれた。

俺は自分が“優しすぎる”なんて思ったことはない。

ただ、スローライフを送りたいだけの男なのに。


そんなことを考えていると、コハクが勢いよく尻尾を振りながら胸を張った。



「ご主人様は優しいでしゅよー!

コハクを家族にしてくれまちたからぁ!」



場の空気なんて関係ない、その無邪気な声に、自然と空気がふっと和らいだ。

コハクはいつも俺を持ち上げてくれる。

その優しさに救われている俺は、微笑みながらコハクの頭をそっと撫でた――









「オリオン君、本当にもう大丈夫なんだね?」


「ドロシーさん、それに、ミラノさんたちもご心配をおかけしてすみません。

すっかり良くなったので安心してください!」



ミラノさんの家に行くと、心配そうな表情のドロシーさんたちが出迎えてくれた。

もう大丈夫だと伝えると、皆ほっとしたように微笑んだ。



「王都に帰るまでの護衛依頼なのに待たせてしまって申し訳ないです。

こちらのギルドでも依頼がありましたので、これからでも良ければ、一度王都に戻って、

それからまたグロリアに来ます。どうしましょうか?」


「そのことなんだけどねぇ。

ミラノたちがオリオン君のお仕事が終わるまで ここに置いてくれるっていうんだよ。」


「え?そうなんですか?」


「ドロシーとはね、まだまだ沢山お話がしたいの。

だから、オリオン君はこちらのことは気にせずここでの依頼を受けてきてちょうだい。」



一度王都に戻るつもりでいたけれど、

ミラノさんたちの温かい言葉に甘えることにした。

俺は深く頭を下げた。



「……ありがとうございます!そう言っていただけると助かります。

ダンジョンの偵察依頼なので、そこまで時間はかからないと思いますので、

終わり次第こちらにお伺いしますね。」


「うんうん、そうしてね。

それじゃあ、これはダンジョンの中で食べて?」


「わぁ!お菓子でしゅ!コハク食べるでしゅー!」


「コハクーはしゃがないのー!

ああもう!すみません……ありがとうございます!

では、行ってきますね。」


「ふふっ、気を付けていってらっしゃい。」


「はーいでしゅ!」



ダンジョンに行くと伝えると、ミラノさんお手製のお菓子を持たせてくれた。

元々食べたがっていたコハクは大興奮で尻尾をぶんぶん振っている。

そんなコハクをなだめながらお菓子を受け取り、行ってきますと挨拶して家をあとにした。


ドロシーさんの周りは本当に優しい空気で満ちている。

きっとドロシーさん自身の人柄が優しいから、同じような人を引き寄せるのだろう。

その温かさに触れると、こちらまで心がぽかぽかしてくる。


そんなことを思いながら、俺は冒険者ギルドへと向かった――

本作品を読んでくださり、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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