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30話 禁断の果実

「という訳で、このあときっとその方々が引き渡しに来ると思います。

ここに寄るかどうかは分からないんですけど……

一応報告入れておきますね、ヴァンスさん。」



冒険者ギルドで、ギルド長であるエルフのヴァンスさんに盗賊の件を報告した。

久しぶりの再会だったので、ついでに今の自分の状況も簡単に説明しておいた。



「オリオンよ、報告ありがとう。

まさかオリオンが暁の翼を辞めて、

新しいパーティを組んでるとは思わなかったのう。

しかも、相手が相手じゃろう?何が起きるか分からないものよのう。」


「ははは、俺もまさかこんなふうになるとはって感じでしたけどね。

暁の翼ではいっぱい勉強させてもらったので、

これからはそれを活かしてって感じですかねぇ。」


「うむ、そうかそうかぁ。ついにオリオンも独り立ちかぁ。

初めてこの町に来たときはほんの10歳、赤子同然だったのにのう。」



ヴァンスさんとも古い付き合い。

だからこそ、俺の今の状況に驚くのも無理はない。

少し前まで、俺はただの荷物持ちだったんだから……


そんな俺が魂と出会って、家族になるなんて誰が思うだろう。

ヴァンスさんにラミンたちが魂という話をしたら引かれるかと思ったけど、さすが長寿のエルフ。

稀に魂を飼いならす者がいると言って、特別変な目で見られることはなくて安心した。


こういう内部事情は人に話すものじゃないって分かってはいるけど……

ヴァンスさんとハルクさんは、俺にとっては本当に特別な存在だから隠したくなかった。



「なんだか今はすごく良い顔になったのうオリオン。

ライオネル……ではなく、ライオウ殿とラミン殿とコハクのおかげかのう?」


「そうかもですね。俺の大事な家族です!」


「そうかそうか。お前さんの家族、ちゃんと見つけられたじゃのう。

安心したぞオリオン。」


「ありがとうございます、ヴァンスさん。」



ヴァンスさんは、俺にとってライオネル王と同じ“じいちゃん”みたいな存在だ。

そんな人に「安心した」と言われると、胸の奥がじんわり温かくなる。



「それで、先ほど言っておった話じゃが……」


「そうそう……

なんか、精霊魔法を使ったら、黒い液体が体から出てきて、

パンッて割れて無くなったんです。」


「うーむ……」



盗賊の報告ついでに、リンたちの異変についても少し話した。

ヴァンスさんは眉間にしわを寄せ、何か考え込むような表情をしていた。

俺には何が起きたのか全く分からなかったけど、

ヴァンスさんは何か心当たりがあるのかもしれない。



「オリオン、もうすぐここを発つ予定かのう?」


「多分、そうだとは思いますけど……依頼主次第って感じですね。

……何かあったんですか?」


「そうか……ちいと頼まれごとをしてはくれんか。」


「え?俺にですか?まぁ、俺に出来ることでしたら……」



突然の依頼に少し驚いたけど、ヴァンスさんからの頼みなら断る理由もない。

ラミンとライオネル王の顔を見ると、

ライオネル王は「世話になった者の頼みは受けておきなさい」と頷き、

ラミンは「鍛錬になるなら良いのではないか」と、

相変わらずよく分からない理屈で背中を押してきた。

その様子に苦笑しつつ、俺はヴァンスさんの話を聞くことにした。



「実はのう、ここ最近若者たちが治癒院に運ばれるケースが増えておってのう。

この町には小さいがダンジョンがあるじゃろう?

そのダンジョンの中で倒れている若者が多く見つかるようになったんじゃ。

聞けば、闇市やダンジョン内で売人から小瓶を購入して、

それを飲んだ者が犠牲になっておったんじゃ。」


「闇市で購入した小瓶……ですか?」


「そうじゃ。ほんの僅かじゃが、小瓶に液体が残っておるのを見つけてな。

解析した結果、その液体にはブルーアップルの成分が検出されたのじゃ。」


「ほう……ブルーアップルとな。」


「ブルーアップルか……懐かしいな。」


「二人とも、その果実知ってるの?」



ヴァンスさんの口から出た“ブルーアップル”という単語。

その瞬間、ラミンとライオネル王が同時に反応した。



「見た目は宝石のように美しい青い果実で、リンゴにに似ていて古くから存在する実だ。

元々は我ら竜族、そして竜の魔力を吸って実をつける果樹なのだ。

我らは膨大な魔力が暴走せぬよう、その果実を食べて調整したり、

竜のブレスの威力を増すためにも好んで食べておった。

いわば鎮静剤であり、燃焼剤でもある。

世間一般では猛毒とされる成分だが、我ら竜族にとってはただの果実なのだ。」


「へぇ……そんなものがあったんだ。」


「私からも話そう。

ある日、竜族以外がたまたまそれを口にしてな……我らの友だったのだが。

食した瞬間、のたうち回って死んでしまった。

調べた結果、竜族以外が口にすると猛毒になると判明したのだ。

すぐに対応できておれば精霊魔法で治せたのだが……時すでに遅しというやつだった。


だから竜族と我ら王族で厳重に管理し、

竜族以外が採取・摂取することを禁じていた。

今もその決まりは変わらぬはずだが……まさかここでその名を聞くことになろうとは。


……ブルーアップルは一度実がなると枯れることはない。

いわば永遠にあり続ける果実。

だからこそ、一般の人の手に渡らぬよう我々で管理していたはずなんだがな……」


「さすが、ライオウ殿とラミン殿。とてもお詳しいですな。

今、お二人が話した内容がブルーアップルじゃ。」


「……恐ろしい果実だな。」



ラミンとライオネル王の説明を聞き、背筋が少し冷たくなる。

そんな危険な果実が存在するなんて。

そもそも、王家が管理しているはずのものが、なぜ闇市に流れているんだろう。

そんな疑問が頭をよぎった。



「我らが見つけた小瓶じゃがな、ブルーアップルの成分とは別に、聖水の成分も見つかった。

おそらくブルーアップルを絞り出し、聖水に混ぜることで毒を中和させたのだと考えられる。

それを“能力強化薬”として売り出しておるんじゃ。

飲めば一時的に驚異的な能力向上が得られるとうたってな。」


「いやいや……聖水に混ぜたところで同じ毒じゃないの?」


「そうじゃな。

だが聖水を混ぜることで毒性が弱まり、

同時に一時的に凄まじい能力向上が得られるようじゃ。

まるで自分ではないほどにな。

しかし、体内に残るのはブルーアップルの毒性のみ。

聖水は体内で消えてしまうからのう……

毒が臓器にこびりつき、ある日突然、内側から体を破壊し始める。

そして最悪の場合は死に至るという訳なんじゃ。」



毒薬を“強化薬”として売るなんて、あまりにも悪質だ。

聖水の力を利用して、若者たちを危険に晒すなんて許せない。

そう感じた時、ふと気になっていたことを口にした。



「……今までそれを飲んだ人たちは、今は大丈夫なんですか?」


「そこが一番の問題じゃ……

運良く生き残った者もおるが、それは“助かった”とは言い難い状況じゃ。

ほんの僅かだけ口にし、運よく魔力量が通常より多かった者は、

今のところ何とか私生活を送れておる。

が、己の魔力とブルーアップルの力が反発したのか、魔法を使用できなくなった。

他には、呼吸をするだけで激痛が走る者もおる。

そして何より悲劇なのは……

良かれと思って施した聖魔法が、

彼らの命を奪う引き金になってしまったケースがあることじゃ……」


「……酷いな……」



液体を飲んだ人たちのその後を聞いて、胸がギュッと締めつけられた。

純粋に強くなりたかっただけの人。

誰かより優位に立ちたかった人。

理由はそれぞれ違うだろうけど、きっと皆、

ほんの小さなきっかけで手を伸ばしてしまったんだろう。

その気持ちにつけ込んで金儲けをするなんて、あまりにも悪質すぎる。



「オリオン、可能であれば調べてみてはもらえんか?」


「……分かりました。具体的にはどうすればいいですか?」


「そうじゃのう……一度、こちらの治癒院に一緒に来てはくれんか?

精霊魔法を試して欲しいんじゃ。

そのあとは、ダンジョンに潜ってもらえると助かる。

見回りのようなもんじゃな。報酬は出す。頼めるかのう?」


「分かりました。じゃあ、今受けてる護衛依頼があるので、

ちょっと聞いてきますね。また寄ります。」


「そうか、助かるよオリオン。」



ヴァンスさんの依頼を聞いた瞬間、俺は自然と二つ返事をしていた。

俺で何とかなるなら、少しでも力になりたい。

そんな気持ちが真っ先に湧いたから。

もちろん、俺が動いたところでどこまで出来るかは分からない。

でも、何もしないで見ているだけなんて、もっと嫌だった。


まずはドロシーさんのところに戻って、事情を説明しよう。

そう思い、俺はドロシーさんの友人の家へと向かった――……


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