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7 神託の真相




 不思議と耳に残る童謡が、人にはひとつくらいあるだろう。

 私にとっては「ロンドン橋落ちる」がそのひとつだ。


 ラン ラ ランラン ランランラン 


 ランランラン ランランラン


 ラン ラ ランラン ランランラン


 ラン ラン ラ ラン


『ふん、ふ、ふんふん、ふんふんふん』


 教会から聞こえてくる歌を、鼻歌で模倣する。

 この歌はほぼ「ロンドン橋落ちる」のパクリだ。

 ……いや、この世界ではオリジナルだからパクリじゃないかも?


 くだらないことを考えながら、燦々と照らされる白亜の大理石を踏みしめる。


 一面が真っ白なこの都市は、まさに表社会の代表的な存在のひとつだろう。

 そして、ここには騎士が所属していたアイシュベルグ騎士団の本拠地がある。


 さて、なぜ裏社会の住人である私がここに来たのか。

 それには、騎士が深く関係している。


(勝手に元の場所に帰そうとしてたけど、あの人そういえば追放された身なんだよな)


 そう、帰して終わりだと安易に考えてはいけなかったのだ。

 帰した後、騎士がどういう目に遭うかを考慮していなかった。

 アフターケアをしていなかったから、騎士も帰りたがらなかったのだろう。

 うん、きっとそうだ!(そうじゃないと困る!)


『絶対に追放の真相を暴いてやる……』


 あの騎士が「悪魔憑き」という変な神託で追放されるなんておかしい。

 絶対に陰謀があるはず。


(真相を暴いて、騎士の濡れ衣を消し炭にしてやる!)


 そう息巻いていた私は気づいていなかった。

 背後から私を見つめている目があることを———。













「隊列を乱すな!」


「はっ!」


 右側の鍛練場では、行進の練習をする騎士たち。


「もう一本だ!」


「はい!よろしくお願いします!」


 左側の鍛練場では、剣の練習をする騎士たち。


(太陽がギラギラしている下で、すごい頑張ってるなぁ)


 物陰からそっと様子を窺っていた私は、彼らの熱中症が心配になる。

 しかし、そんな他人のことを心配している場合じゃなかった。


 外套の上からさらに羽織っている黄色いカッパ。

 明らかに目立つ格好をしているのに、周囲からは何の視線も向けられない。


 それもそのはず。

 これは、ボスから借りた透明化マントなのだ。

 時間制限も特にない優れモノ。


 ただ、私にとっては優れていなかった。


(あ、暑い……!!)


 そう暑い、暑いのだ。

 ただでさえ熱中症になりやすい体質なのに、通気性が抜群に悪い外套とカッパをダブルで着ている。これは地獄以外の何ものでもない。

 

 私の暑さ耐性によって、この透明化の持続時間が変動する。


(さっさと記録室を見つけないと!)


 室内の方が暑さはマシだろうと、急いで騎士団の建物の中へ入った。








 記録室はあっさりと見つかった。


 ただ、そこからが勝負だった。

 騎士の神託が一向に見つからない。

 他のどうでもいい人たちの神託は見つかるのに、騎士だけは見つからないのだ。


(もしかして、特別な場所に保管されてる?)


 これはいよいよ怪しくなってきたと、私は目を光らせる。

 隠し扉はないかと、探偵になった気分で探し回った。


 数十分後。


(ない……だと!?)


 お約束みたいに隠し扉を発見することはできなかった。


 項垂れていると、下の方でガコンッと音がした。

 急いでそちらに目を向けると、地下に続く階段が現れていた。


『え、マジ?』


 運よく何かしらの手順を踏めていたのだろう。

 秘密の通路を見つけることができた。


『レッツゴー!』


 声を潜めながらも、意気揚々と階段を降りる。


 その様子を、本棚の陰から見つめる人物に気づくことはなかった。














 降りた先には、大量の古い記録が保管されていた。

 地下なのにジメジメしていないのは、きっと何かしらの魔道具で湿度を調整しているからなのだろう。つまり、ここを管理している人がいるということを意味する。


(長居は危険だね)


 さっさと見つけてしまおうと、比較的新しい記録が保管されている本棚に行く。

 パラパラとそれらをめくっていると、騎士の名前を見つけた。


 “フォルセ 神聖騎士 アイシュベルグ騎士団第一部隊隊長”


(あの人隊長だったの?道理で戦闘能力が高かったわけだ……)


 侵入者確保の仕事を盗られるのも無理はなかったということか。

 仕事を盗られたことは癪だが、仕方ないと思えた。


 さらに読んでみると、目当ての記載を見つけた。


 “神託 「黒を纏いし真正の王」”


『……は?悪魔憑きとか言ってないじゃん』


 むしろ「王」とか言われてるよ。

 もしかして、「黒」って言葉で悪魔を連想したとか?

 なんて想像力豊かなんだ……。


 記録を手にしたまま頭を悩ませていると———。


「満足したか」


『ギャアアァーーー!!!』


「……大丈夫か?」


 背後から人の声が聞こえた。

 それも聞き覚えのある人物の声。


『な、なんで騎士がここに……!?』


 振り返ると、黒い軍服を着た騎士が立っていた。


 先程の神託を読んだせいだろうか。

 黒を纏った王に見えてしまうのだが。


 女神さま?もしかして神託で見た目のこと言及してたりしませんよね?

 そんな浅慮なこと、まさか神様がするわけないですよね?


『え、その服なに?』


「?黒子から支給されたものだ」


(黒子さんたち、わかってんなー)


 凄まじく似合っている。

 外で見た騎士たちの服は純白で、それもまた騎士に似合いそうだったが、やっぱりこの黒い軍服の方が似合っている気がする。


 普段は白いズボンに黒いシャツのラフな格好だったから、着飾った姿を初めて見た。


『に、似合って———じゃなくて!』


「アンタはこの恰好が好きなのか」


 何かを学習した様子の騎士を、慌てて問い詰める。


『な・ん・で、ここにいるの!』


 そう、ここにいるはずがないのだ。


『お使いは!?』


 この都市とは正反対に位置する街に行かせたはず。

 プリンとクッキーとチョコとアメとケーキとシュークリームとタルトとアイスクリームとその他諸々の甘いものを買ってくるように指示したはずなのに……!


「済ませた」


『あの量を!?』


 どうやら私は騎士を舐めていたようだ。

 まさかあの量を午前中で買えるとは思わなかった……。


「一旦荷物はアンタの部屋に置いといた。アイスは冷蔵庫に入れたぞ」


『な、なんて出来る子なの……!』


 そんな気配りをした上で、ここに来たというのか。

 なんというスピードだ。

 実は、光を司ってたりしない?


 思わず感心してしまうが、すぐにハッとする。


『いや、そもそもなんでここがわかったの?」

 

 今日は誰にも行先を言っていない。

 それなのに、どうしてここにいることがわかったのか。


 ランプに照らされた騎士の表情はよくわからない。

 揺らめく炎が、彼の顔に影をつくる。

 怖くなってきた私は目を逸らそうとして———逸らせなかった。


「アンタのことだから」


 短い言葉だったが、分かってしまった。


 “アンタのことだから、すべてわかる”


 私は騎士の執念を見くびっていたようだ。

 まさかここまでとは思わなかった。

 一体どこまで私のことを掌握しているんだ……!?


『そ、そっか。深くは聞かないでおくよ……』


 深くは聞かない方がいいと判断し、すぐに話を切り上げる。

 こういうのは、逃げたもん勝ちだ。


 そして、地下の記録室に長居してしまったことに気づき、急いで脱出した。





 

 


 

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