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3 『イドラのサーカス』ツアー



 裏社会の朝は、とても静かだ。

 清らかな朝日を避けるかのように、どの建物も黒いカーテンで窓が遮られている。


 無論、『イドラのサーカス』も例外ではない。


 コンコン


『…………』


 『イドラのサーカス』で“悪魔”として働いている私もまた、朝は睡眠時間である。


 コンコン


 お気に入りのタオルケットからは柔軟剤の良い香りがする。

 その香りがまた、私を夢の世界へ誘————。


 コンコンコンコンッ


『うるさっ!』


 ベッドから飛び起き、鬼のようにノックされるドアを開けた。


 ガチャッと荒々しく開けたドアの前には、朝日並みに爽やかなイケメンが立っていた。


「おはよう、いい朝だな」


『全然よくない。活動時間は夜だって昨日教えただろ!』


 カーテンを閉め切った暗い部屋でもわかるほどの美貌。

 透き通るような水色の髪は短く切りそろえられ、瞳は琥珀色。


 昨日は気づかなかったが、騎士はこんな見た目をしていたのか。


『なんで私を起こした………』


 壁に頭を預け、耳だけ騎士に向ける。

 あ、なんかこのまま寝れそう。


「何をすればいいか指示をもらいに来た」


『あなたは私の部下なのか………?』


 普通、部屋に籠ってるだろ。

 なんで指示をもらいに来ているんだ。

 真面目?真面目くんか?


『部屋で大人しくしてろ』


「わかった」


 素直に部屋を出て行こうとする騎士に、私は思わず待ったをかける。


『待て!』


「?」


 振り返った騎士の顔には、何の不満も浮かんでいなかった。

 言われるままに従うその姿に、私は言い知れない感情を覚える。


『騎士にはその、いつもの日課とかないのか』


 我ながら変なことを聞いてしまった。

 それを聞いて私に何ができるというのか。


「そうだな…………剣の鍛練だ」


(すごく騎士っぽい、あと日課少ないな)


『そうか、ちょっと待ってろ』


 騎士を部屋に残し、私は隣の部屋のドアを開ける。

 そのまま中には入らず、ドアを3回開け閉めする。


 すると三回目の時、目の前には武器庫が現れた。

 様々な武器の中から、騎士が使いそうな剣を取り出す。

 そして、それを持って騎士が待っている部屋へ戻った。


『これを使え』


「これは……ロングソード?」


 騎士の問うような視線を手で払う。


『それで鍛錬でもしてろ』


 欠伸をしながら、ベッドへいそいそと戻る。

 うん、相変わらずいい匂いがするタオルケットだなぁ。


「…………了解した」


 邪魔者がやっと部屋を去り、私は至福の惰眠を貪った。












『なんで大人しく部屋で待機してるんだ!』


「?」


 闇が蠢く時間帯になり、地下にある騎士の部屋へ向かった。

 すると、そこには上半身半裸で剣を振っている騎士の姿が…………。


 不思議そうな顔をしている騎士がこちらを見ている。

 なにキョトンとしてるんだ。


『武器もやったのに、脱出しようとは思わないのか……!』

 

「俺はアンタの下僕になるのに、なんで脱出するんだ?」


『そういえばそうだった……!』


 そんなことも言ってたな。

 忘れてはいなかったけど、てっきり気の迷いかと思ってたんだよ。

 脱出の機会を与えたら、正気に戻ると思ってた私が悪かった。


 この騎士は最高に狂っていらっしゃる。


(ど、どうしよう……!)


 人の面倒なんてみたことないし、下僕なんていらないよ!

 どうにかして、元の住処にお戻りいただこう。


『きょ、今日はここを案内してやろう』


 今すぐにこの騎士を強制送還するのは難しい。

 いい案が思い浮かぶまで、時間を稼がないと……。


 こうして私は、騎士に『イドラのサーカス』ツアーを提供することになった。











「200!200万!」

「300!300万出す!」

「いいや、1000万だ!!」


『今日も盛り上がっているようだ』


 人がひしめき合うオークション会場。

 音圧もすごいが、香水の香りもすごい。

 酔ってしまいそうだ。


「そうだが……」


『なんだ、何か言いたいのか』


 会場の中央に立っている騎士が困惑した声を出す。

 まさか、このツアーガイドに文句をつけようとしているわけじゃあないよね? 


 まったく、ここまで手厚く案内してあげてるんだから感謝してほしいものだ。


「なんで音声ガイドなんだ?」


 襟につけたマイクに口を近づけ、騎士がこっそり話す。

 その様子を、私は会場を一望できるVIP部屋から見ていた。


『不満なのか?』

 

「いや、てっきりアンタが傍で案内してくれると思ってた」


『全く、考えてもみろ。私みたいな怪しい奴が歩き回ってたら営業妨害になるだろ』


「その黒いローブと奇妙な面は外せないのか?」


 騎士の質問に、一瞬だけ声がつまる。

 しかし、すぐに軽薄な声で話し出した。


『ハッ、私のこれはブランディングだから外さないんだよ』


「そうか」


 それ以上追求してこない騎士に、内心で安堵する。

 

(外さない……か)


 お面と顔の境界を指先でなぞる。

 肌に密着したそれは、とても外せそうになかった。


 

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