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22 最後のピース



 騎士にかけられた光の首輪を外すため、“炎”の石を探し出すことに成功した。

 その石を吸収した首輪は、“炎”という文字が光った。

 残るところは、まだ光っていない“嘆き”という文字のみ。


 レテは“嘆き”の力を宿した石を探すことを目標に定めた。


 しかし、最後の鍵である“嘆き”の石の捜査は難航を極めることになる。




 バサッ


 ひらひらと舞う資料は、まるで雪のようにゆっくりと地面へ落ちる。


「え?びっくりするくらいわかんないんですけど?」


「落ち着け」


「他人事じゃないよ、騎士?あなた当事者だからね?」


 今さっき私が宙に投げた書類を拾い、騎士はそれを差し出した。

 差し出された紙には、大量のバツがついている。


「あれも違う。これも違う。これもこれもこれも」


「落ち着け」


「うわあーー!発狂しそうーー!」


「もうしている」


 伝説という伝説はほぼすべて探した。

 東では竜の宝玉を、西では妖精の涙を、北では追憶の水晶を。


「私はトレジャーハンターじゃないッ!」


 いろんな所で宝を探していたからか、私たちは世間で伝説のトレジャーハンターと呼ばれるようになった。


「騎士はなんでそんなに呑気なの!?」


 黒板に貼られた地図を眺めていた騎士は、こちらを向いて微笑んだ。


「次はどこへ行くんだ?」


「なに楽しそうにしてんだ!」


 旅行へ行くようなノリで言わないでほしい。

 今までずっと騎士と東奔西走してきたが、まさか騎士にここまで危機感がなかったとは。


 こちとら本気で探してるんだ。

 実態が一切掴めていない“嘆き”を。


「そもそも物体じゃない可能性が高い……」


 “炎”は、ラヴァ一族の力から抽出された。

 もしかして、“嘆き”もどこかの一族の力を抽出する必要があるのかもしれない。


「“嘆き”……」


「レテ、このカイーナという街はコキュートスの花が見頃だ」


「騎士ー?本気でその首輪外す気あるー?」


 呑気に旅行計画を立てている騎士にニッコリと微笑む。

 しかし、騎士にはこの程度の威嚇では足りなかったようだ。

 

「よし、次はカイーナへ行こう」


「行くわけないでしょ!!」






















「結局こうなるのか…………」


 紫色の花びらが舞い散る街。

 その大通りでは、人々が愉し気に行き交う。


 その様子を木陰のベンチで眺めていた。


「レテ、アイスを買ってきた」


「騎士、エンジョイしすぎでは?」


 紫色のアイスを持った騎士が、私の目の前に立っている。

 満足気な顔でこっちを見ないでほしい。


「コキュートスの花でできたアイスだ」


「え、それはすごい」


 食欲には勝てない。

 いそいそとアイスを食べる。


 甘い花の蜜が口の中に広がる。


 ふと、こんな穏やかな時を過ごしている自分を不思議に思った。

 隣では、穏やかな顔で行き交う人々を眺める騎士が座っている。

 かつて騎士の瞳の奥にあった焦りのような恐れのような光は、もうない。

 様々な場所へ共に行き、共に支え合う中で、騎士との間に何かが芽生えた。


 でも、それに名前をつけるわけにはいかなかった。


(多分、“嘆き”の正体は…………)


 隣を見ると、騎士と目が合った。

 幸せそうに笑う彼には、とても言えない。


 ————私が“嘆き”そのものだということを。








 「レテ」という名前は、私の名前じゃない。

 元の世界では、別の名前があった。

 この世界に来て、私は「レテ」になった。


 誰かに教えられたわけでも、名付けられたわけでもない。

 ただ私は、この世界に来た瞬間に「レテ」だと理解した。

 その名は、“消滅”の力を使うほど私の中に浸透していった。


 旅の道中で、ある儀式を知った。

 

 それは、「奉納の儀」。


 2つのある力を宿した人間を、天に捧げる儀式。

 2つのある力は、地上に存在してはいけない。

 そのため、一人の人間が人身御供となり天へそれらの力を返すのだ。


 2つのある力。

 “炎”と“嘆き”の力。

 これこそが、その儀式が天へ奉納すべきものだった。


 ラヴァ一族は“炎”をもっていた。

 そして、ラヴァという言葉は古代語で“炎”を指していた。


 では、“嘆き”という言葉を古代語にするとなんだったのか。







 ……………………答えは、「レテ」だった。







 私はどうやら、天に返る必要があるようだ。

 













 

 





 

「レテ、今日はゆっくり休むといい」


「…………うん、おやすみ!」


 宿の部屋のドアを閉じる。

 私はそのまま、ドアの前で立ちつくす。

 暫くすると、隣のドアが閉まる音がした。


 騎士が部屋へ行ったようだ。


 こうして違う部屋で過ごすようになったのも、本当に成長だった。

 もう騎士は私を病的に崇めようとする信者じゃない。

 自分の足でしっかりと歩きだせる、人だ。


「もう、いいかな」


 先延ばしにするのはやめよう。

 本当は分かっている。

 どうすれば“嘆き”が手に入るのか。


「ほんとに、酷い儀式だなぁ」


 『イドラのサーカス』から送られてきた古い本。

 この古の儀式のことも、この本で知った。

 そして、この本を送ってきたのはボスだ。

 

 あの人は、どこまで知っているのだろうか。


 儀式に必要な人間が二人いることも。

 片方が堪えがたい苦痛を味わうことになるのも。

 すべて知った上で、この本を送ってきたのだろうか。


「そういえば、ボスの名前ってなんだろう」


 知らないことが多い。

 けれど、すべてを知ることはできない。

 私にはもう時間がないから。


 月明かりが、窓辺を照らす。

 その光の下には、もう行くことはできなかった。

 














「…………レテ?」


 朝日が昇る前。

 騎士は、彼女の部屋をノックした。


 いつものように「何時だと思ってるんだ」と悪態をつきながら現れる彼女を想像し、ドアの前で待つ。


 しかし、彼女が現れることはなかった。


「…………っ!」


 昨夜から嫌な予感がしていた。

 いや、ここに来る前から予感はしていた。


 彼女の何かを決意したような様子。

 夢から覚めたくなくて、その予兆を無視した。

 覚めなければ、夢も現実になると思っていたのだ。


 バンッ


「レテ!」


 直観のままに部屋から飛び出した。

 彼女のいる場所が何となくわかる。

 首輪が導くままに、騎士はコキュートスの花が舞い散る道を駆けた。


 

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