第40話 彼は泣き、彼は祈る
彼が泣いている。
黒い魔力が魔物の体から漏れ漂うのも構わずに亡骸を抱きしめ、
ソーマは、まるで幼い子供のように声を上げて泣き続けている。
マルゼダは状況がつかめずに、
何かを呟いたようだが彼の声にかき消され、
起き上がってきたシアンとブラウも近づいてきたものの、ただ見守るばかり。
アルテナもまた、彼が泣き止むまでそっとしておくことにした。
彼とあの魔物との間に何があったのかはわからない。
けれども彼とあの魔物との間には、確かに何かがあったのだから。
風はなく、月明りが頭上で佇んでいる。
森を焼く炎がいつの間にか消えていた。
ブラウの風の魔法の影響だろう、とアルテナは判断していた。
*
「何がどうなっているんだよ……」
マルゼダは、ぽつりと呟いた。
彼が魔物の卵の密輸の話を知り、取引現場にいた者たちを始末した後、
魔物討伐依頼を出した村に行くと黒いヒナと魔物討伐の話を聞いて、
ここへやって来たわけなのである。
村での話の通りに黒い鳥のような魔物がおり、
村人や冒険者たちの死屍累々とした惨状を遠くから垣間見たため、
マルゼダは早急に、黒い魔物の討伐へと乗り出した。
彼らのおかげで魔物の動きが止まったため、
これ幸いと奇襲をかけ、無事に討伐できたことをマルゼダは喜んだのだったが、
その結果が、ソーマの号泣を目の当たりにするハメになるとは、
マルゼダは思ってもみなかったのである。
「ひっく……っく……」
泣き終えた彼が、しゃくりあげながらも顔を上げた。
また何かのきっかけで再び泣いてしまいそうな表情で、
それが、マルゼダの顔を背けさせてしまっていた。
(ああいう表情を見たくないから……)
マルゼダは今も、任務を忠実に こなしているはずだったからだ。
マルゼダを含め、この場にいる誰もが、
ソーマへかける言葉が見つかっていないようであった。
そして、ソーマが黒い魔物の死体へ手を合わせて祈るのを、
ただ静かに見守っているのであった。
*
「う……うぅ……」
彼らがソーマの祈る姿を見ている時、バーントは意識を取り戻した。
焦げ茶色の髪色をした頭を振った後に周囲の現状を見た彼は、
ソーマの祈る姿に何やら不思議な感覚が芽生えるのを自覚し、立ち上がった。
背中に背負っていた槍筒と槍の2本が、へし折れて落ちた。
(あぁ、木に激突しても無事だったのはコレのおかげか。)
バーントはそう判断し、使えなくなったそれらを捨てて、
彼らのもとへ、ソーマのすぐそばへと歩いていった。
いつの間にか、森の火事が鎮火していたことを不思議に思いながら、
「魔物の討伐、ご苦労だった。感謝する。」
バーントは本気でそう思ったがゆえの発言だったが、
返ってきたのは、各々の複雑な心境からなる無言だった。
「? 」
その反応に内心首を傾げながら、
「しかし魔物相手に祈るだなんて、君は変わっているな? 」
ただの興味本位からソーマへ話しかけた。
そして、手を合わせるのをやめて振り向いた彼を見て、
バーントは驚いた。
(泣いていた……のか? 魔物が死んで? )
「……っ ――」
「―― おっと!? 」
じっと見上げていたソーマが無言で立ち上がるのを見ていたが、
彼が立ち眩みを起こしふらついたのを、バーントは咄嗟に抱き留めた。
「ソーマっ!? 」「ソーマさんっ!? 」「ソーマ君っ!? 」
アルテナ、シアン、ブラウの三人が慌てて駆け寄り、
マルゼダも無言ながら、そばへと近づいてきていた。
(思った以上に背が低い……子供か? いや、そんな場合ではないな。)
高身長のためソーマと体格差があるバーントは、
気を失ったソーマを横抱きにし、そんな感想を抱いた。
彼の身を案じ、全員で急ぎ 村まで戻ることにした。




