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第39話 彼を守るために

「ソーマ、今助けるからねっ!! 」


 アルテナが、剣を構え直して駆け出し、

グリフォンは翼を広げ、咆哮を放ち威嚇をして迎え討つ。



 ―― 違う、違うんだ……


 命を狙われた時から怖くて涙が出ていたけど、

今もまた目に熱い物が浮かぶ。


 拳を握りしめ、歯を食いしばり、震える体をムリヤリ叩き起こす。



 今 動けないとダメなんだ、今 動かないとダメなんだよっ!!



 アルテナは母鳥のまわりを縦横無尽に駆け回り、ひたすらに剣を打ちこむ。

母鳥は避け、受け、反撃し、おれから離すようにアルテナを誘導している。



 おれは一歩、また一歩と巣から立つ。


 アルテナたちは『おれを助けよう』として――

 大鷲と狼の混合魔物(  母鳥  )は『おれを守ろう』として――


 母鳥の攻撃でアルテナの肩鎧が壊れ落ちる。剣を振るう――

アルテナの攻撃で母鳥の片腕が斬り落とされる。カギ爪で突く――



 ―― どちらも、おれの『敵』じゃないんだよっ!!



「っ!? 」


 アルテナの、母鳥の息をのむ音が、おれのすぐそばで聞こえた。


 両者の目の前に駆け込んだおれの、胸のわずか数cmで彼女の剣が止まり、

胸鎧の背中側が一直線に裂かれて彼女の腕が止まった。



「もうやめてくれ……」


 動きを止めた彼女達の、腕と剣を掴んだ。


「ソーマ……どういうこと!? 」

「敵じゃないんだよ……おれにとっては……」


 アルテナの問いにそう答えて、母鳥へと顔を向ける。



「ありがとう……おれ、やっぱり人間だからさ……」


 この言葉が通じているかどうかは、わからないけど……


「人間でいたいんだ……

例え自分が、この世界の人間に受け入れられなくても……」


 おれは笑顔で……


「だからもう……おれを守らなくていいんだよ。『母さん』。」


 黒い魔物( 彼女 )に伝わるように願ったんだ。



 おれの願いが本当に通じたのかどうかはわからない。



 けどアルテナも母さんも、おれが目の前に立っているから、

おれを巻き込みたくなくて動けないんだろう、ってのが、わかったんだ。



(さて、アルテナたちに母さんのこと、どう話したものか……)


 呆然とこちらを見ているシアンさんとブラウさんも無事みたいだし、

アルテナも目立った怪我はしていない。


 後はどうにかして母さんが無害だってことを証明して、

森に居続けてもらうか、いっそ旅についてきてもらうか……



 そう考えていた時、朱い『何か』が 母さんの後方に見えた気がして、

おれは嫌な予感に、思わず手を放した。


 森の中から飛び込んできた何かは―― 剣を構えたマルゼダさんだった。


 マルゼダさんは背後から飛びかかると、母さんの背中に剣を突き刺した。

背中から腹部へと剣が刺さり、彼女は悲鳴を上げて彼を振り落とした。



「こいつは見たこともない魔物だな。っと、久しぶりだな、お二人さん。」


 返り血を浴びて振り落とされた彼の言葉が、おれの耳を通り抜ける。


 背中から血しぶきを上げた彼女が、おれに配慮して横たえた。


 それにつられるように、おれのひざの力が抜けて、

おれは体を、顔を母さんの顔へと近づけた。



「あ……ぅ……」


 声が出ない、涙が溢れそう。おれは……おれは――


「ん……」


 母さんは最期の力を振り絞って頬擦りをし、笑顔で息絶えた。





 生まれた時、巣から落とされた。


 ―― どうして? みんなと色が違ったから。どうして!?


 食われぬように、殺されぬように、殺して、食った。



 大きくなって巣を作った。卵を産んだ。


 ―― はやく、子供が出てこないかなぁ?

色が違って出てきても、巣から落としたりしないから。


 エサを取りに行ってる間に巣が壊された。

卵も壊された。子供が殺された。卵の数が足りなかった。



 ―― どこ? どこに隠した。どこにある!?


 卵を見つけた。巣に持ち帰った。


 ―― 今度は目を離さないから。


 あぁ、待ち望んだ子供が出てきた。


 ―― 今度は守るから。


 頭にだけ毛の生えた歪な(愛しい)我が子。

骨が歪んで、いつまでも飛べない醜い(美しい)我が子。


 このままずっと、巣にいて欲しい。


 ―― 母がずっと、育ててあげるから。母がずっと、守るから。



 巣に敵がやってきた。

母も、我が子をも殺そうとやってきた。



 ―― 殺せ殺せ殺せ!



 敵の数が多い、敵のツメが飛んでくる、敵のキバで殺されてしまう。


 ―― 我が子だけでも、守らなければならないのに……



 ―― 殺せ殺せ殺せ! 殺せ殺せ殺せ!



 我が子が母の前に立っていた。母を守ろうと立っていた。

あぁ、体が、足が震えて、こんなにも怯えているのに、健気な我が子よ。



 ―― 我が子だけは、死なせるものかっ!! 人族(人間)よっ!!



 ―― 殺せ殺せ殺せ! 殺せ殺せ殺せ! 殺せ殺せ殺せ!



 黒き力が思いに応え、母は人族たちを(ほふ)る。


 だが、あぁ、わかっていたのよ。認めたくなかったのよ。



 親を知らず、親になれず、親になったつもりでいたことに。



 我が子よ、声はすれどわからない。けれども、伝わった。


 人族(我が子)よ、魔物()をあなたの母だと認めてくれた。



 ありがとう。愛しい我が子よ。





「――っ……う、うぅ……ぁあぁ……」


 黒い粒子が母さんから漏れ出ていく。



 おれの視界はとっくの昔に滲んで涙が漏れ出ていて


「ぁあああああああああああああぁぁぁぁっっ!! 」


 おれは母さんを抱いて、声を上げて泣いた。



 マルゼダさんが飛び込んできた時、母さんは避けれたはずなんだ。

母さんは、おれを守るために避けなかったんだ。



 死ぬ最期まで、おれを見つめて……


 ―― おれは結局 最期まで、母さんに何もしてあげられなかったんだ……

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