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MR-026「のど元過ぎれば」

アクセスが増えていかない………投稿時間変えた方がいいのでしょうか?


「こんなことを言いたくはないが……そいつは正気なのか?」


「さあ? 私は狂人のことはわからないもの」


 ソファに深く腰掛けての問いかけに、メリッサもまた力無く答える。それもそうか、なんて思うほかない話だった。めぼしい相手だけは素材を剥ぎ取り、後は街の衛兵に譲る形で戻ってきた俺とエルナ。洗濯ぐらいしなさいとなぜか叱られ、今は似合いそうにない執事服を着こんでいるのが現状だった。


 むずがゆさを感じつつも、人間が魔獣を従えていたという情報をメリッサに伝えた結果、帰ってきたのはいくつかの領地でそんな研究をしているという話だった。お題目は魔獣を利用して安全な生活を、だとさ。

 天使共、そして魔獣の厄介さを知っている俺にとっても、同じように戦って来たメリッサにとっても到底実現不可能に思える話だった。


(だが、実際に襲撃はあった。と言ってもそれらとのつながりはまったくないわけだが……)


 何か証拠になるような物は何も持っていなかったし、身に着けてもいなかった。仮に俺じゃなくメリッサが

魔獣を操っていた男がいた、と言って回ったとしてもそれが特定の場所の仕業となることは無い。話自体は、昔からあるにはあったのだ。成功したという話は全く聞かないが……実際に見た物は信じる他ない。


 魔獣を操る、それ自体は一時的には可能か不可能かで言えば可能だ。祈祷術はそう言ったものも一応ある。が、あからさまに動きはおかしいし、長持ちしない。術が解けて術者が襲われるなんてことは当たり前のようにあった。それがどうだ……ゴブリンは術か何かが解けるまでホーンウルフを乗りこなしていたし、ゴブリンが襲われることもなかった。


「仮にあれだけの規模がいつでも用意できるとしたら……相当面倒なことになるな」


「事前に分かればともかく、急に来たら防ぎようは無いでしょうね」


「それに、利点はわかるがなんだってそんな研究を奴らはしてるんだ? 噂の1つや2つ、王の耳に入ってるはずだろう」


 他の聖女見習いな少女と一緒にけが人の治療に走っているエルナが情報を仕入れてくるということはまずないだろうが……その間何もしないというのもな。かといって、情報が足りなさすぎる。それに、魔獣相手のそんな研究、中央が許すだろうか?


 確かに今思えば、天使と見れば俺たちをそこに押し込むような、ちょっとどうかと思う王だったが……それでも民の平和のためと考えれば間違いではない。自分の保身のためという部分も結構あるはずだが、逆に言えば危ない手を打つような人間ではなかった。


「そうね、英雄の首には縄がつけられないから……じゃないかしら。表立って許可は出せないけれど、英雄と違って魔獣はいつの間にか沸いてくるものね……それが使えるならってとこ?」


「ふざけた話だ。そんな自覚があるなら対価は払えってんだ」


 文句を言いながらも、いつの時代も人は自分に出来ないことが出来る相手には、力を持つ者には対価より義務を押し付けるのだろうな、と考えていた。英雄だから、人より力があるから、そんな理由で命を戦場に放り込む。もちろん、対価として金はいらないなんていう奴もいる。俺だってかつてはそうだった。稼ぎは勝手についてきたからな……だが、それということを聞かせるとは別の話だ。


「魔獣は魔獣、いざとなれば天使並みに厄介な相手だってことを人は忘れてるのかもね」


「物忘れが激しいって話じゃないが……ここで言ってても仕方ないな。今回のが先走りか、それとも実験か……制御できずに滅ぶのは自由だが、放っておくのもな」


 俺一人だったら見捨てていたかもしれない。が、今はエルナに未来を見せるという役目を自分自身で選んだ状態だ。師匠らしいことをしてやらんとな……と言っても潰しに行けばいいのか?

 中央であるアースディアから四方の統治を任され、さらにその中でも細やかに国が別れている状況ではあるが行き来はある程度自由だ。建前上は全ての国民はアースディアの物、だからな。


「一番近いところでその噂があるのは南東にあるノヴムだけど……行くの?」


「すぐのつもりはない。が、メリッサが行くのは無理だろう」


 ノヴム……湿地帯と火山を抱える、自然の驚異があふれる土地だ。逆にそれらの土地から得られる様々な動植物を利用して、多くの薬や……毒を生み出しているやや不気味な土地でもある。噂によれば、住んでいる間に毒が効かなくなるような生活をする街があるとかないとか。


 自信なさげなメリッサの表情が語るように、望んでいくような土地とは言えなかった。奥地ともなれば普通の獣ですら、下手に食べると慣れない者は腹を下す……内包する毒によってだ。少なくとも、育成中の聖女見習いやメリッサ本人が行くわけにはいかない場所だ。


「あの子はついて行くわよ? 大丈夫なの?」


「ついてきたいというのなら頑張ってもらうさ」


 話の内容は全く違っても、こうして2人きりで話していると昔を思い出してしまう。あの頃は俺も若かった。ただひたすらに剣を振り、祈祷術を放ち敵を倒せば楽だった。碌に依頼金を貰わずとも勝手に素材が金になったような生活だった。いつだったかな、俺が依頼を受けすぎだと叱ってくれたのはメリッサだったな。


「お金が使いきれないならお金が死んだも同じ、か」


「懐かしいわね。目的もなく貯金する結果になってた貴方によく言ったわよね」


 くすくすと笑うメリッサは当時より若い姿だ。だというのに、あの頃に戻ったような、同時にやはり俺より年上だという妙な説得力も感じるのだった。やり直そう、なんて言葉は俺が言うべきではない。もしかしたら断られないかもしれないが、それは彼女への誠意に欠けるというものだ。


「必ず、顔を出す」


「お土産、期待してるわ」


 この街を出る。その話はこれで終わりだった。いつ出ていくかは決めていない。まだやるべきこと、エルナにやってもらうことはいくつかあるからな。その日までは……この柔らかい空気の中で過ごすのも大事だろう。


 日も落ち、そろそろ誰か呼びに来る頃かというところで2人して自然と皆のいる広間へと向かうべく歩き出した。体格差を考えると俺がメリッサをエスコートしているようなほどに差がある。そのことがなんだか今さらながらにおかしくなり、一人微笑む。


「なあに、そんな顔をして」


「いや……昔の連中が今のメリッサを見たらどう思うか、今さら思ってな」


 冗談を飛ばし合いながら広間に顔を出すと、忙しく走っていた聖女見習いな少女たちが気が付き、わらわらと集まって来ては口々にメリッサに報告を始める。俺はその横で話を聞きながら、ふとエルナを探している自分に気が付いた。集まってきた中にはいない……ああ、来たな。


「おじ様、全部終わったわよ」


「そうかそうか。いい経験になったな」


 じゃらりと音を立てて差し出されるのは魔獣どもの素材を換金した結果だ。思ったよりも多いのはエルナが頑張ったおかげだろう。ただの代理人だと思った商人は驚いただろうな。

 いつまでも終わりそうにない騒がしさを沈めたメリッサの声に従い、やや遅いながらも食事が用意される。満腹感と若干の疲労による眠気と戦いつつ、いつ頃この街を出るか、それを考えているうちにいつの間にか眠っているのだった。




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