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MR-019「聖域のメリッサ」


「さて、何から話した物かしらね……なにせもう15年ぶりぐらいかしら?」


「ああ。お前が俺を無理やり訪ねて来て以来だろうな」


 洗練された仕草で出されたお茶に、内心で舌を巻きながらも出来るだけ表情に出さないようにして向き合う。エルナは緊張からか固まっているように見える。まあ、これも経験だと思ってもらおう。貴族相手となると粗相をしたとたんに何か処罰が下ることも珍しくないからな。


「そうよね。一番これからってときだったわね……まだ痛むの?」


「ああ。そのあたりは後で相談したいこともあるが、一人じゃ無理だな。大天使以外なら粗方何とかなると思うが……俺のいた場所にはドラゴンなんかはいなかったからな。限界はわからん」


 若いメリッサの視線が絡みつくのは俺の右腕。包帯を巻いているが、その下には明らかに異常とわかるような彫り物のような模様があるはずだった。俺の祈祷術を危険視した天使による封印の呪い。ある程度以上の攻撃力を持つ術を使おうとすると発動する厄介な呪いだ。


「貴方以外からの攻撃を防ぐこともしないぐらい集中しての呪いだものね……仕方ないか。その意味ではおそろいかしらね。私もなのよ」


「え、メリッサ様も呪いを? あ……もしかしてだからそのお姿なんですか!?」


 お茶の温かさが緊張をほぐしたのか、丁寧な言葉ながらもいつもの元気さを取り戻したエルナの問いかけ。それに対して無言でメリッサは頷いた。俺はカップを持っていなくてよかったとこの時ほど思ったことは無い。


(呪い……だと!?)


「どこだ、見せてみろ!」


 咄嗟に向かいに座っていたメリッサに駆け寄り、肩を掴んで頭から足の先、手の先まで見て……視線が胸元に止まる。何故最初に気が付かなかったのだろうか? わずかにだが俺と同じような禍々しい気配が胸元にうごめいている。


「ひとまず今は大丈夫よ。だから離してちょうだい。それとも、お弟子さんの前で少女のような私を辱める趣味でも出来たの?」


「っ! すまん……ついな」


 恐らくその時の俺は必死な形相をしていたに違いない。そんな表情のまま、見た目は少女のメリッサの胸倉につかみかかるような姿勢だったのだ。他の目撃者がいなくて幸いだったと言えるかもしれない。その唯一の目撃者であるエルナは……ちょっと膨れていた。


「むー、なんだか二人がすごく仲がいい気がする」


「そうか?」


 メリッサとは敵対するような間柄ではないのは確かだが、少なくとも俺は彼女の手を一度ならず二度も振り払った人間だ。今さらどの面を下げて彼女と語れるというのか。俺はそう考えていたが……どうもメリッサにとってはそうでもないようだ。


「仲は良い方ね。彼ったら昔から一人で抱えこんで勝手に決めてしまうんだもの。苦労したわ。あれから会わなかったのも、下手に会いに行けばこじれるかなって思っただけだし……話がそれたわね。貴方と最後に出会ってすぐかしら? 国からの依頼で討伐に行った先にちょっと厄介な相手がいてね。攻撃を受け止める障壁の担い手を狙った呪いだったみたい。みんなに当たるところだった力場を防いだらそれが障壁を伝わってここにズドンよ。なんとか防いだのだけど……」


「担い手を若返らせる……いや、強制的に幼くさせることで無力化しつつ、さらに布教もしやすくさせるためか……」


 なんという恐ろしい呪いだろうか? 子供と言えばなんだかんだと人の影響を受けやすく、言葉巧みに騙されることだってよくある話だ。自分たちにとって厄介な祈祷術の使い手をどうにかするにはある意味最適解の1つだ。


「そのあたりは他の天使と共有してないのかしらね? 今のところその呪いを撃ってきたのはその時の1体だけだったわ。討伐には成功したけれど、同行していた戦士の1人は私に来た呪いの余波で子供どころか赤子にまで戻って自分の息子たちの元で育てられてるんだもの。悪いことをしたわ……」


「あれ? でもメリッサ様は記憶が残ってるんですよね?」


 鋭いエルナのつっこみに、寂しそうにメリッサは頷く。何かあったのか……俺の口から問いかけるのはなんだか怖い気がした。良い歳のおっさんだというのに、何を怯えているのか……まったく。自分を落ち着かせようと、深々と座りメリッサの発言を待つ。


「天使はこちらを洗脳のように攻めてくるのが結構いるのよね。だから事前にそういうのを防げそうな障壁は展開済みだったわけ。逆にしばらくは小さくなった自分に戸惑ってばかりだったわね。この胸の呪いも、浸透してくる直前にしっかり障壁で囲んで閉じ込めてるのだけど……さすがの天使というところかしらね? まだ完全には消えてないわ。これが消えたら私もまた歳をとると思うのだけど」


「なんだかもったいないようなそうでもないような……あっ、お話のお邪魔してごめんなさい!」


 慌てて手を顔の前で振るエルナをメリッサはまぶしい物を見ているかのような瞳で見つめている。その顔は俺が前に見た顔とそっくりだった。あれは……そうだな、俺がどんな大群でもなんとかなるって豪語した時だったとかだったな。


「いいのよ。まあ、そういうわけでこの姿なのよ。疑ってくる連中は実力で黙らせて……宿にいると色々面倒だからとこの屋敷に住むようになって……実のところは、天使の呪いを受けた英雄なんてのは国は使いにくいのかもね。話はあまり来なくなったわ。これ幸いにとあの子達を引き取っては育ててるわけ」


「そう……か」


 すまん、そんな謝罪の言葉が口から出ようとしたのをメリッサは視線で止めて来た。そんなことを聞きたいんじゃない、そう何よりも目が語っている。だから俺は隕鉄剣を鞘ごと机に置き、左手で月の光を呼び出した。


 ほのかで、太陽のそれと比べると柔らかな光。俺の戦い方とは対極にあるような優しい光だ。月夜は優しい姿と、無慈悲な姿の2つの面を持つ。俺はその両方を力として授かり、天使と戦えていた。今はそれが縛られている……が。


「エルナ、頼む」


「え? あ、うん……うまくいくかな」


 右腕を突き出して見せたことで、俺の意図を察したエルナは両手を俺の右腕近くに持ってくると、目を閉じて集中し始めた。メリッサはそんな俺たちの姿を最初は興味深そうに見、そして驚きの表情に変わるのはすぐだった。


「嘘……そんな!」


 叫ぶのも無理はない。俺が呪いを受けた当時、たくさんいた祈祷術士の中の誰もがこの呪いに干渉できなかった(・・・・・・・・)のだから。だというのに、今メリッサの目の前で俺の右腕で呪いの文様が苦しむように悶え、小さくなっていっている。何度かの瞬きの果て、ほとんどなくなった右腕の呪いを確かめるように俺は手を動かす。


「色々あってな。コイツを連れて旅をしている。いつかのような英雄はまっぴらごめんだが……コイツの力の秘密と、俺自身がやり直すためにな」


「そういうこと……わかったわ。滞在の間、彼女は借りるわよ」


 断言するメリッサに俺も頷き返す。天使の呪いをなんとかするのは俺たちだけの願いではない。世界には同じように何かしらの呪いを受けてしまった戦士や普通の人々がいる。一時的にせよ、その1つをなんとかする力を目の前の人間が持っているのだ。それを研究し、上手く解きほぐせば流用が効くかもしれないのだ。


「よくわからないけれど、しばらくよろしくお願いします!」


「こちらこそ」


 わからないものはわからないと割り切ることを覚えたエルナに吹き出しそうになるのを我慢し、俺もすっかり冷えたお茶を飲み干すのだった。




田舎に引きこもりだったので子供臭いぶぶんも同居してるのが表現できてれば良いなと思っております

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