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通学路には今日も、スライムが現れる。  作者: 森本みつき
新生ウエストスライマー
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第4話 幼馴染とステータス





「ぐぬぬ……おのれ天照っ! 痩せたければ走れということですかっ!」



 鯛焼きを完食したら夢から覚めたなんてことはなく……公衆の面前で赤っ恥をかいてしまった私は、下手に祈ることをやめて学校までの残りの通学路を歩きました。


 農協から一〇分も歩けば校門が見えてきて、【私立千灯北星(せんとほくせい)女学園】と書かれた銘板の横に、そして私はあの魔道へと先に入った幼馴染の姿を見つけます。



「――夏姫っ!」



 怪我していないかと心配していたので、私は親友の名前を呼びながら駆け寄りました。


 腕に風紀委員会の腕章を付けて校門を通る生徒の手荷物チェックをしていた彼女が、ゆっくり私のほうへと振り返ります。



「あれ? 小春?」



 遅咲きの桜を背にした我が親友の姿は、まるで一枚の絵画のようでした。


 風になびく亜麻色のショートカット。


 常に微笑みを絶やさない人懐っこそうな顔立ちに、カラコン不要の大きな瞳。


 萌え袖がかわいらしいカーディガンからは短いスカートと長い足がスラリと伸びていて、彼女のスタイルの良さを際立たせています。


 どうしてこんなに早く登校しているのかと小首を傾げる彼女へと駆け寄り、そしてあと少しで親友へと抱きつけそうな距離まで来たところで、



「無事で――」



 私の右足が地面のわずかな段差へと引っかかりました。



「――うぷっ!?」



 ボフッ、と顔が柔らかい何かに包まれて、上から感情を無くした親友の声が響きます。



「……どうだいボクのクッションは?」



 早乙女夏姫(さおとめなつき)、15歳。


 職業は誰にでも優しくフレンドリーなボクっ娘JK。


 胸のサイズはEよりのDカップ。


 それが私の幼馴染にして親友にして悪友が持つ、やたらとハイスペックなステータスでした。


 彼女の胸をエアバックにしてしまうのはいつものことなので、私は慣れ親しんだ柔らかいクッションから顔を上げて、その感想をお伝えします。



「素晴らしい性能です。おかげ様で無痛でした」



 私はどうも『トラブルエッチ体質』というやつらしく、たびたび美少女のおっぱいへと特攻してしまう謎の特性を持っているのです。


 百合の気はまったく無いのに。


 お乳の性能を褒められた親友は、遠い目をして呟きます。



「同性幼馴染の衝撃緩衝材とか……こんなに虚しい性能が他にあるだろうか……」



 夏姫はこれまで何千回、あるいは何万回と私の特攻を食らっているため、大きなお乳が私のエアバックとなるために成長したのではないかと日頃から嘆いておりました。



「相変わらず小春は無駄にラブコメ主人公してるねぇ……それも少女漫画じゃなくて少年誌の」


「不本意ながら」



 どうしてこのようなクセがあるのか本当に謎です。


 いつものやり取りを終えた私たちは、お互いに相手の乱れた服装を直します。


 私がぶつかった拍子に夏姫のワイシャツが第三ボタンまで外れてえっちぃことになっていたので、急いで第二ボタンまで締め上げました。


 仲の良い姉妹みたいに育ってきた夏姫も私の髪を手ぐしで整えてくれて、周囲から「ほぅ……」とどこか恍惚としたため息が漏れてきます。



「「…………」」



 いつの間にか校門まわりにいる風紀委員や生徒の皆様が「尊」と鼻血を流しながら両手を合わせていました。


 あ、やめてください。


 拝まないでください。


 私と夏姫はそういう関係じゃありませんから!


 なにやら盛大に勘違いをされてしまった私たちは、サッ、と互いに距離を取って自分たちの関係がドライであることを示します。



「――ああ、今日も『コハ×ナツ』しか勝ちませんわ」


「――今のは完全に事後の動き……頑張って星女(ほしじょ)に入学してよかった……」


「――爽やかボーイッシュ美少女の夏姫様と、正統派黒髪美少女の小春様……きっとあのお二人は神がこの世に与えたもうた奇跡なのですわ」



 ふぐっ……まだ入学して二週間しか経っていないのに……すでにカップル認定されているのですね……もう手遅れなのですね……。


 私は中学の時同様に、自分たちが女子生徒の崇拝対象にされたことを悟ります。


 というか『正統派黒髪美少女』って誰ですか?


 こちとら小さい頃には『村一番のワンパク坊主』の勇名を馳せていた女ですよ?


 ……そもそも完成された美少女である夏姫たちに囲まれて育った私は、小さいころから女としての格の違いを思い知らされているため、自分の容姿がそれほど優れているとは思えないのですが……どうやら学校の皆様からは過分な評価をいただいているみたいでした。



「おほんっ……それで? 小春はなんでこんなに早く登校したの? まだボクが到着してから一〇分くらいしか経ってないけど」



 桃色の視線に耐えられなくなった夏姫が聴衆を散らすために咳払いして、私のスクールバックを荷物検査しながら話しかけてきます。



「あー……それはその…………」



 夏姫の質問に私はどう答えようかと迷いました。


 私の親友は友達思いのいい女です。


 もしも彼女があの魔道を通って来たのならば、まず間違いなく私に怪我がないかと心配してくれるはずなのですが……どうやら夏姫はあの通学路が超常現象の巣窟と化したことに、まだ気がついていないみたいでした。


 彼女との付き合いが長い私は、ひとまず頭の中で会話をシミュレーションしてみます。


 もしも私がここで正直に答えたとしたら……。



『――通学路にスライムが出たんです!』


『――は? え? それはヌルヌルの物体を指す比喩かなんか?』


『――違いますよ! 本物のスライムです! 青くて、プルプルしてて、RPGとかで最初に経験値を1だけくれる例のアレです!』


『――ああ、うん……鳥山先生って偉大だよね。洋ゲーだとスライムってけっこう強敵だったりするんだけどさ。ドラクエのモンスターデザインが秀逸すぎるせいで、日本ではスライムと言えば雑魚の代名詞みたいになっているというか』


『――だ・か・ら! そのスライムが私たちの通学路に出たんですよ! ゆるキャラみたいな顔は付いていませんでしたけれど! 戦闘中は時間の流れがおかしくなる『精神と時の部屋』みたいなシステム付きで!』


『――なるほど! それで小春はこんなに早く学校に来たのか!』


『――そうです! すべてはスライムのせいなのです!』


『――……脳みそバグった?』



 ダメだ……本気で心配した夏姫に精神科と脳神経内科に連行される未来まで見えました。


 そうしてどう説明したものかと悩んでいると、荷物検査をしていた夏姫が私のスクールバックから、折りたたまれた鯛焼きの紙袋を検出します。



「「あ…………」」



 続けてバックの中からは、香ばしい小麦粉の香りが漂ってきました。


 風紀委員の夏姫がミニスカートを穿いていることからわかる通り、うちの学校の校則は基本的におおらかなのですが、入学早々に電車の中で食事を取った新入生がいたとかで、生活指導の先生から『四月のうちは厳しく買い食いを取り締まる』と、全校集会で告知されておりました。


 まあ、私はあっさり欲望に負けて、幾度となく鯛焼きを貪ってきたわけですが……。



「「…………」」



 やっちまったぜ!


 あわや反省文コースかと焦る私に、夏姫が、シャッ、と鞄のファスナーを閉めながら怖い笑顔を向けてきます。



「ふぅ……どうせ小春のことだから、また目覚ましのセットを間違えたんだろ? 昔っから小春は抜けてるからなぁ!」



 ビキビキィと額に青筋を浮かべながら不正を働いてくれる新米風紀委員に、私は心の中で合掌しました。



「そ、そうなんですよ! い、いやー……最近のスマホは取り扱いが難しくて……」



 このままだと頭が残念なことを理由に病院へと連れて行かれそうなので、私はヤバいブツが入ったスクールバックを抱きしめて、そそくさと校門を後にします。


 そして夏姫のおかげで窮地を脱し、靴箱でトレッキングシューズを上履きへと履き替えて、まだ人通りの少ない廊下のゴミ箱へと例のブツを捨てようとしたところで、



『――シャオラァアアア』



 ……しかしそれを見計らったかのようにスマホが鳴りました。


 バックの中から光る薄い板を取り出した私は、受信したメッセージを開きます。



『夏姫:それゴミ箱に捨てないでね? 昼休みに美化委員と合同でゴミ箱検査するから。食べ物のゴミは自分で持ち帰るようにとも、全校集会で言われたでしょ?』


『小春:……私のこと盗撮してます?』


『夏姫:そんなことしなくても君の行動なんて手に取るようにわかるよ。何年の付き合いだと思ってるのさ』


 そっと鯛焼きの紙袋をスクールバックに戻した私は、窓の外に見える運動部用のトイレから手を振る幼馴染へと短いメッセージを送ります。



『小春:結婚しましょう』


『夏姫:もうしてるだろ?』



 きっちり私の介護をして、颯爽と校門まで戻っていく夏姫。


 どうやら私へとメッセージを送るために、わざわざ行きたくもないトイレに行ってくれたみたいです。



「相変わらず気が利きますねぇ……」



 今日も私の親友は、頭の回転が早くて頼もしい、ウルトラパーフェクト美少女でした。




     ◆◆◆




 それから始業時間の三〇分前に『1‐A』と書かれた教室へとたどり着いた私は、窓際の一番後ろにある自分の席に座り、誰もいない教室の中でどうしたものかと考えます。


 夏姫はまだスライムのことを知らないから相談できないし……。


 かと言って先生に相談したところで信じてもらえないだろうし……。


 最も頼りになりそうな神社の子は、今日は家の用事があるとかで学校を休んでいるため、下手に電話することもできません。


 もしも大切な儀式の最中にスマホを鳴らしてしまったら、流石に申し訳ありませんから。


 いちおうあの子はこれまで山道を使うことを避けていましたから、なにか知ってるとは思うのですが……。


 他に相談する候補としては近所のお姉さんが浮かびましたが……あの人はただのヒキニートですから、相談したところで、



『そこにスライムがいるならレベルを上げるだろ。常識的に考えて』



 とか、適当に言われるだけでしょう。



「むーん……これは自分で解決策を見つけるしかないのかもしれません……」



 まあ、放課後に通るころにはスライムが消えて、ただの山道に戻っている可能性もありますし、今後もあの現象が続くかどうかを確認するのが先でしょう。



 え? またスライムに襲われたらどうするのかって?



 そんなの返り討ちにするに決まっているではありませんか。


 相手が敵意を持って襲いかかってくるならば、百体でも千体でも剣の錆にしてやるのが、戦乙女の嗜みというものなのです。


 ……というか、そこにスライムがいるならSPを集めますよね?


 常識的に考えて。


 近所のお姉さんと私は、基本的に思考回路が似通っておりました。



「……装備を整えれば安全に冒険できそうですし……もうちょっとだけ刺激的な通学路を楽しんでもいいですよね?」



 喉元すぎればなんとやら。


 親友の無事も確認できましたし、私の心はもう少しだけ降って湧いた非日常を楽しみたいと叫んでいるのです。


 冒険心もJKの基本装備ですから。



「真面目な夏姫にこんなことがバレたら、すぐにでも『危ないから電車バス通学に切り替えよう』とか言い出すに決まってますし……むしろまだ気づかれていないのは幸運だったかもしれません……」



 こうして新たな戦いを求めてしまうのもまた、狂戦士の血のしからしむるところなのでしょう。


 そしてロマンに生きる乙女である私は、放課後もあの通学路にアタックする方向で計画の立案をはじめます。


 とりあえず夏姫には適当に言って安全なバスと電車で帰ってもらうとして、今度はきちんとホームセンターで武器と防具を整えてからスライムと戦うことにしましょう。


 棒切れと教科書であそこまで戦えたのですから、ちゃんとした装備を整えれば一〇匹でも二〇匹でも同時に相手にできるはずです。


 他に必要なものがあるとすれば……やはりステータスが欲しいところですが、無いものは仕方ないと諦めかけた私は、しかしすぐに、キュピン、と素敵なアイデアを閃きました。



「ふっ……ステータスが無いなら、自分で作ればいいのです!」



 そしてさっそく机の中からルーズリーフを取り出した私は、そこに自分の特徴と、これまで獲得したスキルや加護を書き連ねていきました。



【ステータス】


 名前:御剣小春

 年齢:15歳

 性別:女

 状態:正常

 身長:163センチ

 体重:禁則事項


 職業:【女子高生】【剣士】


 加護:【太陽神・天照大御神の加護】

    【山神・古峰坊の加護】

    【呪神・赫狸の加護(微)】


【所有スキル一覧】

 体術:【剣術LV1】【戦盾術LV1】【軽業LV1】

 強化:【持久力強化LV1】

 魔法:【雷魔法LV2】


 所有SP:37SP



 完成した自作ステータスを見て、私はムフフとします。


 なかなかどうして良い出来栄えではありませんか。


 今は豪華な加護欄に比べると職業欄やスキル欄が寂しいですが……スライムと戦う冒険を続けていけば、いずれは一騎当千の英雄らしいステータスに……――



「――……御剣さん……御剣小春さん?」



 と、そこまで考えたところで、私は自分の名前を呼ぶ声に気がついて顔を上げます。


 するとそこにはいつの間にかクラスメイトの皆様と、担任教師の藍沢先生が勢揃いしていて……全員が私のほうへと好奇の視線を向けておりました。



「さっきから楽しそうなところ申し訳ないんだけど……もう朝のホームルーム始まっているわよ?」



 ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がった私は、羞恥心で顔を真っ赤にしながら一礼します。



「御剣小春っ! 出席しておりますっ!」


「知ってます」



 嘆息する藍沢先生。


 教室を満たすクラスメイトたちの笑い声。


 そして私は静かに座って他の生徒が点呼されるのを聞きながら、ステータスの状態欄を『悶絶』へと書き換えました。





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黒髪正当派美少女…え!?
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