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通学路には今日も、スライムが現れる。  作者: 森本みつき
新生ウエストスライマー
3/11

第3話 狐面と天狗と加護ラッシュ





 期待していた【雷魔法】はダメな子だったので、私は別の戦い方を模索することにしました。


 ほんの一瞬だけ他の魔法を取得してみる誘惑も湧きてきましたが、確実にダメな子と同じ末路を辿りそうだったのでロマンの探求は別の機会へと回します。


 けっきょく物理で殴るのが最も効率的なのです。


 そんな女子高生らしからぬ思考で【剣術】近くのスキルを読み漁ること一〇分。


 ようやく私はこの状況を打開できそうな力を見つけました。



《――【戦盾術】……取得SP:100SP。あなたは攻撃的に盾を扱う経験を得る。防ぐことよりも攻めることに重きを置いた戦場の盾は、殴れば槌として、振るえば斧として、時に剣よりも多くの命を刈り取る堅牢な武器と化す》



 問題は装備する盾をどうするかですが、緊急事態ですからここは教科書を盾として使わせてもらいましょう。


 子供の命を守るためなのですから、文部科学省も文句は言わないはずです。


 背中のスクールバックを下ろして、中からちょうどいい大きさと厚さのある教科書を選び取り、それをヘアゴムで左腕へとくくりつけます。


 何度か腕を振ってみて、簡単には取れないことを確認できたところで、私は残りSPのほとんどを使用して【戦盾術】を取得しました。


 盾としての防御面積はかなり狭いですが、スキルがあればなんとかできるはず。


 これでダメならかなり危なくなるので、半ば祈るような気持ちで私はスライムへと近づいていきます。


 そして青いプルプルとの距離が残り二メートルほどになったとき、スライムが私の接近に反応して体当たりをしてきました。



 ――ぷるっ!



 高速で飛来する軟球を、私はスキルがもたらした経験を頼りに、左腕の即席盾で上へと弾きます。



「ほっ!」



 微かな衝撃とともに舞い上がった球体は、ゆっくり私の前へと落ちてきて、



「せやっ!」


 スパンッ!



 と、心地良い斬撃音とともに、私が振り下ろしたブナの棒が見事にスライムを両断しました。



《――1SPを回収しました》



「――やった!」



 はじめてノーダメージでスライムを倒すことができた手応えに、私は思わずガッツポーズします。


 これならなんとか残りの通学路を踏破することができそうです。


 もともと三分の二くらいは歩いていましたから、ゆっくり慎重に残りの道のりを進むことにしましょう。



《――1SPを回収しました》

《――1SPを回収しました》

《――1SPを回収しました》



 急がず焦らず、スライムを倒しては歩き、また一体倒しては歩きを繰り返していきます。


 途中で二体同時に飛びかかってきた時には少しヒヤリとしましたが、優秀な【戦盾術】は盾以外の物でも使うことができるらしく、ブナの棒と教科書で弾き上げたスライムを地面に落ちたところを狙って一体ずつ仕留めることで安全に撃破することができました。



《――1SPを回収しました》

《――1SPを回収しました》

《――1SPを回収しました》



 そうしてかれこれ三〇体以上のスライムを倒したところで、私は山道の向こうに待ち望んでいた人工物を見つけます。



「あっ! 赫狸(あかり)様!」



 赫狸様はこの山道の始まりと終わりに置かれている木製の赤い鳥居です。


 あれが見えたということはもうすぐ山道は終わりということですから、その姿に希望を見出した私は急いで赫狸様まで駆け寄ります。


 先にこの道を通っていたはずの幼馴染は、けっきょく道中で姿を見ることはありませんでしたから、無事に通学路を抜けて登校することができたのでしょう。


 そして親友の無事に安堵しながら鳥居をくぐった瞬間、



「――んえっ!?」



 なにか薄い膜のようなものを抜けた感触がして、私は不思議に思って振り返りました。



「……お、おお…………」



 すると背後の景色からは森の至るところに点在していた青いプルプルが消えていて、私は自分が窮地を乗り切ったことを察します。



「……赫狸様を越えたらスライムは出ないんだ」



 どうりでうちの村人から様付けで呼ばれているわけだと納得して、自然と私は赫狸様へと手を合わせます。


 パン、パン、ペコリ。


 地元にある神社の子の話によれば、あまり赫狸様には祈らないほうがいいらしいのですが、近所のお姉さんは『チャラい感じでいけば大丈夫だ』と言っておりましたので、私は正しい作法で感謝の気持ちをお伝えします。



「ありがとちゃんちゃんです」



《――【呪神・赫狸の加護(微)】を獲得しました》



 なにやら怪しいログと木影からこちらを見守る二人の狐面の少女たちが見えた気がしましたが、今はそれどころではありません。


 急いでブナの棒を鳥居の近くに置いて盾にしていた教科書をしまい、登山用に背中に装備していたスクールバックを肩へと掛け直したところで、私は猛ダッシュで学校へと向けて走り出します。



「ふにゃ―――っ! 遅刻―――っ!!!」



 不測の事態に備えて毎朝二〇分は余裕を持って家を出るようにしていますが、今日の件はいくらなんでも不測の事態がすぎました。


 体感ではかれこれ三時間くらいかかっていますから、すでに一限目が終わっているかもしれません。


 全力疾走で残りの山道を走りきった私は、古びた神社の裏側へと出て、神社の境内に咲き誇る桜の花びらを巻き上げながら表側へと駆け抜けます。


 神社の裏手には野良猫がいて、私のダッシュに驚いて逃げていきました。


 すまぬニャンコよ……今は顎下を撫でる暇がないくらい急いでいるのだ。


 小高い山の上に建てられたこの【古峰(こみね)神社】は、千段を越える階段の上にある小さな神社のため、滅多に参拝客の姿は見かけません。


 しかしどんなに小さな神社だろうと、挨拶もなしに境内を突っ切るというのも失礼なので、私は参道まで走ったところで拝殿へと向かって、パン、パン、ペコリ、します。



「通らせていただきます!」



 顔を上げたところで春一番が吹いて、桜吹雪の向こうに拝殿の上で坐禅を組む天狗さんが見えました。


 天狗さんはこの神社に祀られている神様なのか、やたらと神々しいオーラを放っています。


 ……ちょっと今朝はもう不思議体験を受け入れる心のキャパが残っていなかったので、私は静かに天狗さんから視線を逸らしました。


 なんなんですかねこれは……なんで今日に限って怒涛の如く超常現象が押し寄せてくるんですかね?


 スライムを倒してしまったせいなのか、それとも謎のスキルシステムに目覚めてしまったせいなのか、どうやら私の目は不思議なものを捉える力に覚醒してしまったみたいでした。


 幸い天狗さんは修行中なのか、山のようにどっしり構えて動き出す気配はなかったため、触らぬ神に祟り無しと私は踵を返します。



『――励め』



 なぜか背中に声をかけられてしまったので、私はどうしたらいいのかわからずシャウトしました。



「うぅ―――っ! にゃあ―――――っ!!!」



 気合いの入った私の鳴き声に満足したのか、天狗さんは神々しい低音ボイスで応えてくださいます。



『――うむ』



《――【山神・古峰坊の加護】を獲得しました》

《――御剣小春は【軽業】を手に入れた!》



 ……なにやら気に入られてしまった様子ですが、今は先を急いでいるので気にしないことにしておきましょう。


 参道の真ん中は神様の道らしいので、私は道の端を選んで、早足で境内の出口にある石鳥居まで向かいます。


 いちおう加護をいただいてしまったみたいなので、鳥居を出る前に回れ右して深々と頭を下げておきました。


 ……大丈夫ですかね?


 日本の神様には怖い神様もいるみたいですが?


 今度あの天狗さんのことをもうひとりの幼馴染に聞いておきましょう。


 私の幼馴染その二である神社の子は、いわゆる『見える人』なのです。


 そして混乱冷めやらぬ私は、もう一限目を完全に諦めて、気持ちを落ち着かせながら曲がりくねった参道の階段を下りていきます。


 天狗さんの加護のおかげなのか、坂道を下る足取りは羽が生えたように軽くなっていました。



「…………」



 試しに軽くジャンプしてみると、私の身体は二メートルくらい飛び上がって、くるりと回って一〇点満点の着地が決まります。



「……少し気合いを入れて叫びすぎましたか…………」



 ……天狗さんやりすぎぃ!


 今なら源義経の如く八艘飛びでもできる気がしました。


 こんな力を学校で使おうものなら、私はたちまち運動部に狙われてしまうことでしょう。


 まったくスポーツには興味がないというのに、なぜか中学のころにも勧誘ラッシュを受けたことがありますし……。



「運動部はダメ絶対」



 ちょうど今は部活動への加入を考える時期でもあるので、私は自重することを心に誓いながら、不思議に満ちた通学を続けます。


 参道を下りて行く途中で開けた木々の間から街を一望することができましたが、ヘンテコな世界に足を踏み入れてしまった私とは違って、街を行き交う人々は変わらぬ暮らしを続けておりました。


 ……ちょっとだけ世界がモンスターだらけになったのではないかと妄想していたのですが、どうやら今日も私は勉強を続ける必要があるみたいです。


 お気に入りの鯛焼き屋さんが無事なのは嬉しいですが、宿題やテストから逃れられなかったのは少し残念です。


 得したような損したような……皆勤賞は無くなったので損ですかね……。


 参道の麓にある小さな石鳥居のところでも、もう一度ペコリとしておきます。


 神社を出入りする時に頭を下げるのは日本人の美しい作法です。


 そして少しだけガッカリしながら学校がある【千灯町(せんとちょう)】へと下りたところで、道行く人々の姿を見て完全に落ち着きを取り戻した私は、農協前にある黄色い時計を見て時間を確認しました。



「はあ……やっぱり遅刻は確定ですか…………」



 現在の時刻は午前七時五〇分。


 うちの学校は八時四五分までに校門をくぐらないといけませんから――



「――あれっ!?」



 体感時間的に九時五〇分くらいだと思っていた私は、時計の短針を二度見します。


 目元をゴシゴシして何度見直しても短針は七のところを差していて……私は試しに近くで売られているお気に入りの鯛焼きを購入してから黄色い時計を見直しました。


 現在の時刻は午前七時五五分。


 それは遅刻どころか、いつもよりかなり早い時間です。



「………………あれぇ???」



 これが現実なのかどうかを確かめるため、サクッ、と齧った鯛焼きには、ほどよい甘さの餡子がたくさん入っていて……その優しい味に癒やされた私は、燦々と輝く朝の太陽へと向かって両手を合わせました。



 ――どうか夢ならカロリーゼロになりますように……。



《――【太陽神・天照大御神の加護】を獲得しました》

《――御剣小春は【持久力強化】を手に入れた!》



「なんでやねんっ!?」



 意味深なスキルに、ズビシッ、と入れた渾身のツッコミは、道行く人々の視線をたくさん集めました。






次回、幼馴染その一が登場です。

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お狐様の加護はのろい?まじない?どっちにしても面倒事に巻き込まれるのは確定でしょうね…
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