第31話 謎剣とコスプレグッズ
謎剣の力で神獣を食い殺し、ひとまず私たちは感動の再会を果たしたはずなのですが……どういうわけか私の前では激しく落ち込んだ美少女が夏姫とアンリに慰められておりました。
「落ち着いて、マキにゃん。こういう時に小春が美化されるのはボクたちも経験したことがあるけれど、まず間違いなく、ただの幻想だから」
「あいつは天然のスケコマシだからな。性癖まで捻じ曲げられたらショーコ姉の思うツボだし、今のは悪い夢だと考えるんだ」
なにやら私が悪者扱いされているみたいで……マキにゃんの背中を擦るアンリと夏姫からは強い連帯感が発せられていて、気軽に近づくことができません。
「あのー……そろそろ私も輪に入っていいですかね?」
せっかくまた四人でダンジョン攻略できるのですから、私も仲良ししたくて声を掛けますが、夏姫とアンリが片手を上げて制止してきます。
「今はダメ」
「症状が落ち着くまでお前は下がってろ」
バイ菌扱いされてるみたいで傷つくんですけど?
「うう……私ももっとマキにゃんに抱き着きたいのに……」
「……くっ!?」
しかし私が呟くとマキにゃんは胸を押さえて苦しみ出しました。
「おい!? やめろっ! これ以上マキナを刺激するなっ!」
「小春はあと五メートル離れてて!」
「ええ……」
さっきまでいい感じの雰囲気だったのにどうしてこんなことに……。
なぜか幼馴染たちのガードが本当に堅いので、仕方なく私はマキにゃんが落ち着くまで少し離れて、暇つぶしに神獣を食べちゃった謎剣を調べることにします。
ショーコ姉にもらったこの剣は鞘の上から見る限りだと両刃の直剣らしく、よく見ると西洋剣らしい鍔や柄頭の部分だけに真新しい部品が使われておりました。
なんというか……日本の古い刀剣を無理やりファンタジー風に改造した感じ?
装飾の華やかさと実用的な剣身の重さからはチグハグな印象を受けます。
試しに鞘から引き抜こうとしてみますが、柄を握って力を入れてみても謎剣はビクともしなくて、私は唇を尖らせました。
「選ばれしなんちゃらじゃないと抜けない仕様ですかね?」
と、ちょうどそこでマキにゃんが復活したらしく、立ち上がって、少し頬を赤らめたままみんなといっしょに私のほうへとやってきました。
「……ごめんなさい、小春。かっこ悪いところを見せてしまったわ」
なにやらいつもより二割増しくらいでキリッとしているマキにゃんに、私はさっそく急接近します。
それはもう大型犬の如く。
「マキにゃんはいつもかっこいいですよ? それに美しくもあります!」
「っ!?」
また昨日のように精神が不安定になっているのではないかと心配して褒めに行くと、なぜかマキにゃんは余計に顔を赤くしました。
「……しばらく褒めるのはやめてくれないかしら? 心臓にとても悪いから」
「……それ、どういう症状ですか?」
やはり左胸を押さえて苦しそうにする彼女の顔を、私は心配して覗き込みます。
褒めると心不全を起こす奇っ怪な病気とか、それはもう呪いの類ではないでしょうか?
そうして私がマキにゃんの身を案じて顔を近づけたり、背中を擦ったり、抱き着いてみたりしていると、どんどんマキにゃんが赤くなっていって夏姫とアンリが慌てて止めにきます。
「こら! トドメを刺そうとしないの!」
「お前が感染源なんだから、マジでそういうとこ治せ!」
やはり小春菌扱いされているらしい私は再び引き剥がされて、マキにゃんが何度も頭を振りました。
「……薔薇の花びらが消えないわっ!?」
「……ああ、うん。それもただの幻覚だから」
「……ときどき小春の後ろに見えるよな?」
……それどんな病気ですか?
わかるわかる、と頷く夏姫とアンリ。
首を傾げる私。
そうしてダンジョンの中で騒いでいたせいか、流石に近くにいた魔物が寄ってきたらしく、前方の曲がり角から一匹のゴブリンが顔を出します。
「グギャギャギャギャッ!」
もちろん私はそいつに急接近して、謎剣で鞘ごと緑の頭をぶん殴りました。
「せいっ!」
「ギャッ!?」
バッキーン、と私のフルスイングによってゴブリンの首がもげ、石造りの回廊の奥へと飛んで行きます。
《――16SPを回収しました》
おや? 昼間よりもSPを多くもらえるということは、同じゴブリンでも強くなっているのでしょうか?
瞬殺したので違いがまったくわかりませんでしたが。
「いや、なんで鈍器として使ってんだ……」
すかさずアンリが突っ込んできたので、私はみんなのところに戻りながら、ゴブリンの変化よりも先に謎剣のことを相談してみます。
「それがですね……姉さんにもらったこの剣がまったく抜けないんですよ」
いったいどんな聖剣かと思ってアンリへと渡してみると、謎剣を観察したアンリは眉を顰めました。
「これ……どこかで見た覚えがあると思ったら、ショーコ姉がバスタオル掛けに使ってる物干し竿じゃねえか……」
アンリの発言を聞いた夏姫も、謎剣の記憶を思い出します。
「ああ……そういえば昔、姉さんがコスプレしたいとか言って年代物の剣を弄ってたよね? セ◯リーなんとかって名乗りながら、際どい格好をして、ボクたちに写真撮影をさせてきたやつ」
それを聞いた私もハッキリと当時のことを思い出しました。
「セ◯リー・キャンべル」
「そうそれ!」
姉さんは定期的に赤髪ヒロインのコスプレをして、うら若き乙女の性癖を歪めようとしてくる醜い生態を持っているので、コーポ・イワトにはコスプレグッズがたくさん転がっているのです。
ヨ◯コ・リットナ―の超電導ライフルとか。
惣流・ア◯カ・ラングレーのプラグスーツとか。
あ、いや……赤いプラグスーツは茶髪の夏姫に着せようとして嫌がられたやつでしたっけ……。
そこまで記憶を掘り起こしたところで、私は姉さんが剣をコスプレグッズへと改造している光景も思い出して首を傾げます。
「あれ? あのとき姉さんは普通に剣を抜いていたような……?」
いちおう太陽神だから神剣や聖剣の類でも余裕で抜けるということでしょうか?
主な用途がコスプレと物干し竿とか、剣の扱いとしては最低最悪ですから、普通に嫌われてそうですけれど……。
そうして私が悩んでいると、武器に詳しいマキにゃんが横から剣を覗き込んできます。
「少し触ってみてもいいかしら?」
「お願いします!」
こういう時はプロに見てもらうのが一番だと思って謎剣を手渡すと、マキにゃんは鞘口のあたりを観察したり、剣の柄を引いてみたりしたあと、鑑定結果を教えてくれました。
「これ、中で錆びついているわね。話を聞く限りだと、バスタオルの湿気が原因だと思うわ」
「……ほんとに鈍ら渡してきたんですか」
試しに夏姫とマキにゃんに鞘のほうを持ってもらって、アンリと私が全力で柄と鍔を引っ張ると、少しの抵抗のあと、謎剣はジャリッと抜けました。
「うわぁ……サビサビ……」
いちおう対ミノタウロス用の最終兵器として渡されたと思われる武器が錆だらけなことに、夏姫が乾いた感想を口にします。
それに続けてアンリも死んだ魚の目になって、なにやら怪し気な言葉を呟きはじめました。
「……『天照』が持つ『蛇の剣』つったら……【天叢雲剣】? い、いや……流石にショーコ姉も三種の神器をコスプレグッズに魔改造したりはしねえよな……」
「……姉さんならやりそうですけど」
「くっ……まったく否定できねえっ!」
そうしてアンリが「せめて失われた形代のほうであってくれ……」と姉さん以外の神様に祈ったところで、再び曲がり角からまた『練習台』が走ってきたので、私は推定神剣の使い心地を試してみることにしました。
「せいっ!」
本物の【天叢雲剣】ならゴブリンを軽く両断できると思って脳天から縦に真っ直ぐ振り下ろすと、しかし錆びた剣はゴブリンの頭を両断したあと、胸の中ほどくらいで肋骨に当たって止まります。
「ギッ……ギィ……ッ!?」
《――15SPを回収しました》
返り血を浴びないようにゴブリンを蹴っ飛ばしつつ剣を肉から引き抜くと、血に濡れた直剣は刃毀れこそしてないものの、特に不思議な力を発揮することもなく『ただの剣』として仕事を終えました。
攻撃力的には特殊警棒よりやや強いくらいでしょう。
「むうぅ……【錆蛇丸】は気難しい剣なんですかね? まったく力を貸してくれる気配がありませんよ……」
いちおう抜けはしたものの、剣に認められなければたとえピンチの時でも、そのまま見捨てられそうな予感がしました。
姉さんが言っていた通り日本の神々というのは、たとえ神剣でも優しくないのかもしれません。
私がそんな考察をしていると、アンリが少し遠巻きに突っ込んできます。
「おい……それに適当な名前をつけるな……なんかちょっと怖いから」
続けて夏姫が蒼白い顔で。
「……ねえ、それよりさっきからゴブリンの扱いが酷くない? 命が冒涜されている気がするんだけど?」
魔物にも慈愛の心を向ける夏姫の指摘を受けて、流石に私も『今のは乙女らしくなかったか』と反省しつつ死んだゴブリンのほうを見ると、そこではマキにゃんがしゃがみ込んで真面目に死体の観察をしておりました。
「この個体……夕方に現れたゴブリンよりも一回り大きいわ。おそらく【上位種】に進化しているのではないかしら?」
「「え……」」
そのゲームらしい発言に私と夏姫が反応して死体に近づくと、確かに両手に二つのナイフを握った子鬼は【ゴブリン・アサシン】とでも呼ぶべき雰囲気を持っていて……初出の敵を雑に殺めてしまった私の脇腹を、夏姫が軽く抓りました。
「謝って? せっかく初登場したのに剣の練習台にされたこの子に謝って?」
「ごめんなさい……あまり強さが変わらなくて気づけませんでした……」
「なんでお前は魔窟の異常を上回る速度で成長してんだよ……」
それは古武術道場の娘だからじゃないですかね?
古武術使ったことありませんけれど。
そうして私がアンリに突っ込まれながら塵に変わる魔物へと合掌していると、【ゴブリン・アサシン】がドロップしたナイフをマキにゃんが拾います。
「……使えそうね」
軽く観察して悪くないと判断したのか、すぐにマキにゃんは木の棒を捨てて、ポケットから取り出した紐でゴブリンナイフの鞘を縛り、器用にそれを腰のベルトへと括り付けました。
「あ! マキにゃんの武器も持って来てますよ!」
そこでようやく自動小銃とかを預かっていたことを思い出した私は、マジックバックからマキにゃん用の装備を取り出して返却します。
「ありがとう。これでまともに戦えるわ」
テキパキと自動小銃やコンバットナイフを装備したマキにゃんは、武器を持ったことで謎の状態異常を克服できたのか、私の目を真っ直ぐに見つめてきます。
「小春、ひとつ約束して」
「……なんですか?」
真剣なマキにゃんの雰囲気に押されて表情を引き締めると、マキにゃんは夏姫とアンリにも視線をやってから、再び私を見つめて言いました。
「――絶対に、私よりも先に死なないで」
それは私たち三人へと向けた言葉なのでしょうけれど……特に私が危ないと思われているみたいです。
夏姫とアンリもそれには共感しているのか、『ちゃんと答えろ』と私の背中を押してきます。
だから私はできるだけ頼もしく思えるような笑顔を作って、目の前にいる美少女の手を握りました。
「大丈夫ですよ! なぜなら私にはマキにゃんがついているのですから!」
お決まりの口説き文句でかっこつけると、なぜかマキにゃんがまた赤くなって、私のお尻を夏姫とアンリが叩いてきました。
「「そういうとこっ!」」




