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通学路には今日も、スライムが現れる。  作者: 森本みつき
新生ウエストスライマー
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第32話 深夜の迷宮探索





 装備の確認を終えて冒険の準備を整えた私たちは、夕方と同じ隊列を組んで、ようやく夜のダンジョンを進みはじめました。


 先頭は夏姫が喚び出した信玄ちゃん。


 二番手が私で、三番手から後ろはマキにゃん、夏姫、アンリの順番で、今度は走らず慎重に歩いていきます。


 どうやら私たちがいる場所のあたりはまだ魔物が少ないらしく、上位種に進化していたとしても単体のゴブリン程度なら、マキにゃんの投げナイフだけで簡単に仕留めることができました。


 そんな道中を見て、しばらくは安全に進めそうだと判断したアンリが、後ろを警戒しながらみんなへと話しかけます。



「今のうちに状況確認しておくぜ? そのうち悠長に話してる暇もなくなるだろうからな」



 アンリの言う通り、私たちが目指す迷宮の奥からは、濃度の高い魔力が流れてくることが素人目にも感じ取れて、ゴブリンなど比べ物にならないその波動に冷や汗を掻きながら私たちは頷きます。


 先ほどまではマキにゃんとの再会にイチャイチャしておりましたが……私たちが今いるのは危険度が極限まで高まっている『深夜の魔窟』なのです。


 みんなが人外魔境にいることを理解して緊張感を取り戻したと判断したアンリは、落ち着いた声で情報を整理してくれます。



「マキナに取り憑いていた神獣こそ祓えたが、久遠岳が置かれている状況は何も変わっちゃいねえ。この場所は魔物たちが外へと溢れ出す一歩手前で、あたしたちがミノタウロスを倒せなければ【百鬼夜行】が起こって多くの人間が死ぬことになる」



【百鬼夜行】――現代風に言い換えるならば魔物の大氾濫(スタンピード)でしょうか。


 命を刈り取るために【伊邪那美】によって生み出された魔物が何千、何万と魔道から溢れてくるということは、私たちが止められなければ久遠岳の周辺地域には、それこそ大災害クラスの被害が出るのでしょう。


 さらにかつて【百鬼夜行】が起こった平安時代は『最も日本の闇が深かった時代』とマキにゃんが言っていましたから、その後も日本各地で現世に現れた魔物による被害が続くのかもしれません。


 これまでに私が知った情報を思い返すだけでも国難級だと解る現状に、私は緊張して冷や汗を流しました。



「……なんだかとんでもない事件に巻き込まれてしまいましたね……私たちは普通の女子高生のはずなのに……」



 私の呟きに、後ろでアンリが頷くのがわかります。



「お前は決して『普通の女子高生』ではねえけど……とんでもねえ事件に巻き込まれてるのはその通りだな。あたしたちの行動には数十万人の命がかかってるんだから」



 その言葉に夏姫が、生唾を飲んで喉を震わせます。



「あ、あれ……おかしいな? ボクだけは普通の女子高生のはずなのに、いつの間にか大事件に巻き込まれてたんだけど……」



 そうして戦々恐々としながらも、後ろから現れたゴブリンへと器用に魔力を飛ばし、水球を作って溺死させる普通の女子高生……。


 目の前に二匹の子犬がいることを確認した私は、さらっ、と新しい力を使う夏姫へと確認します。



「……今の【水狼召喚】じゃありませんよね? もしかして【水魔法】とか取りました?」



 戦闘用にスキルを取得したのかと確認すると、しかし夏姫はなんてことないようにトリックの種を明かします。



「ううん、SPはまだ使ってないよ? 今のは【水狼召喚】の魔力の流れを解析して、『水を作り出す部分』を【魔力操作】で再現しただけ」



 姉さんから『超が付くほどの大天才』と称される才能の片鱗を見せるJKに、アンリがドン引きした声を出しました。



「夏姫も絶対『普通』じゃねえだろ……」



 まあ、一番普通じゃないのは『最高神の愛弟子』であるアンリだと思いますけどね。


 そうして私たちがお互いの異常性を認識して、自分こそが普通だと考えていると、最もアブノーマルな『いちごジャム職人』という特性を持つマキにゃんが会話に加わってきます。



「……この中で最も平凡なのは私だと思うから、いざという時はやはり私が人柱になるわ」



 まだ『命を捨ててみんなを救う』という選択肢を捨てていなかったらしい美少女に、私たちは即座に否定の言葉を繰り返しました。



「ダメですよ、マキにゃん」


「うん、そのやり方はボクも悪手だと思う」


「念のために言っておくとこれはべつにお前を気遣ってるとかじゃなくて、マジで生贄という選択には悪い予感しかしねえんだよ」



 完全に生贄を否定する私たちに、マキにゃんは戸惑った顔をしました。



「……ずいぶん確信を持っているみたいだけど、それは何を根拠にしているのかしら?」



 訊かれた私たちは、声を揃えて生贄を否定する理由を口々に伝えます。



「だってショーコ姉が働いてましたから」


「姉さんがまともに仕事してる時点で、もっとヤバい何かがあるんじゃないかと疑っちゃうよね?」


「おまけに今夜はマキナを救うために『外出』までしてたからな……あのヒキニートが嫌々外に出るってことは、それだけここで起こってることが異常だってことだ」



 ヒキニートの異常行動から、おそらくこの土地に【百鬼夜行】以上の異変が潜んでいるのではないかと疑う私たちに、マキにゃんは唖然と呟きます。



「……みんなは【天照大御神】様ではなく、【御神照子】を信頼しているのね」


「ええ、あの駄女神のダメダメっぷりは本物ですから!」


「たとえテレビで降水確率がゼロパーセントだと予報していようとも、姉さんが部屋の掃除をしていたら『明日は大雨だ』と思っちゃうくらいには、ショーコ姉のダメダメっぷりは本物だからね……」


「これがまた怖いくらいに当たるんだ……」



 そうして今まで培ってきた経験則から今回の件は『槍が降る』レベルだと推測する私たちに、マキにゃんは真面目に熟考をはじめました。



「……【八咫烏】としての使命からは外れることになってしまうけれど、現場の判断を無視するほうが危険かもしれないわね……ここは私も照子さんを信頼して動くべきなのかしら……?」



 どうやら天照本体と分体の判断の間で気持ちが揺れ動いているらしいマキにゃんですが、ショーコ姉が与えてくれた今日一日の楽しい経験のおかげか、その天秤は駄女神の方へと大きく傾いているみたいです。


 後ろをチラ見して『これなら大丈夫そうだ』と判断した私は、マキにゃんの後ろにいる親友たちと頷き合って、マキにゃんが自らの意思で生贄になってしまう可能性を減らせたことを喜びました。


 少なくとも今のマキにゃんならば、私たちに何も言わずにミノタウロスへと突撃して『自害からの【道連れ】コンボ』を決めることはないでしょう。


 そうして天照本体すら知らない危険が潜んでいる可能性を告げて、真面目な仕事人に慎重な行動を促したところで、私たちは状況確認を終えてダンジョン探索に集中します。


 深夜とはいえ迷宮の中は光る苔によって明かりが十分に確保されており、戦闘や索敵に困ることはありません。


 目的としているミノタウロスまでの道のりも、ときどき通路の角に顔を出す狐面の幼女が教えてくれるため、私たちは深夜のダンジョンでも最初は楽に進むことができました。


 しかし現在の久遠岳には特大の異常も発生しているわけで、一〇分ほど少数のゴブリンを倒しながら進んだ私たちは、三体同時に現れた武器持ちの魔物を相手にすることになります。


 曲がり角の先に現れたのは、両手剣、棍棒と盾、弓を装備したゴブリンたち。


 夜の迷宮で三体以上の敵と遭遇するのはこれがはじめてだったため、私たちは油断せずに曲がり角で作戦を立ててから接近しました。



「盾持ちは任せて」



 夏姫がすぐに重装備の個体を狙ってくれたので、私は両手剣持ち、マキにゃんは弓持ちを狙いに行って、アンリは万が一に備えて夏姫のガードに回ります。


 夏姫が水を生み出して盾持ちの口と鼻を覆い、マキにゃんが弓持ちへとナイフを投擲するところまでは順調だったのですが、投擲されたナイフが半分ほど飛んだところで、ゴブリンたちが私たちの奇襲に素早く反応しました。


 真っ先に動いたのは盾持ちのゴブリン。


 夏姫の魔法を受けたことで他の個体よりも早くこちらに気づいたのか、自分の呼吸器が塞がれていることにも構わずに、そいつはマキにゃんと弓持ちとの間へと入ってきます。


 ガギンッ、とゴブリンはラウンドシールドでナイフを防ぎ、それと同時に弓持ちが私へと矢を放ちました。



「おおっ!?」



 幸いスライムの体当たりで目が慣れていたのか、首を曲げて攻撃を躱すことはできましたが、私のほっぺたを矢が掠めて視界の端に赤い血が飛びます。


 さらに一拍遅れて両手剣持ちのゴブリンが体勢を崩した私へと剣を振り下ろしてきて、咄嗟に私は【錆蛇丸】を相手の剣の側面に叩き込むことで、剣撃の軌道を逸らしました。



「ギャッ!?」



 そうして初撃を躱すとマキにゃんが投げた二本目のナイフが両手剣持ちゴブリンの喉へと刺さったので、私は盾持ちとは反対側の壁を走って弓持ちへと走ります。


 すかさず後衛のゴブリンは次の矢を放ってきましたが、そちらは剣の鞘で【戦盾術】を発動させて防ぎ、私が弓持ちの首を斬り落とすのとほぼ同時に、信玄ちゃんたちに噛みつかれて足止めされていた盾持ちも窒息して倒れました。



「おお~……」



 少し手応えのある戦いを経験した私は、頬を流れる血を拭い、赤くなった手の平を見つめます。



「いま明らかに連携してきましたよね!?」



 魔法攻撃を受けつつも、盾持ちがタンクとしての役割をまっとうしたり。


 弓持ちは前衛と攻撃のタイミングを合わせるために、わざわざ私に矢を向けてきたり。


 知性を感じるその行動に、私はマキにゃんのほうを向いて目をギラギラさせます。



「すごく戦闘してる感じがしました!」


「……どうして小春は嬉しそうなの?」



 だって『魔力循環』を教わってからというもの、あまり敵に手応えを感じませんでしたから。


 SPだけでなく戦闘経験値もくれる敵のほうが、戦っていて楽しいではありませんか。


 そうして私が命の危機に瀕して脳内麻薬をドパらせていると、夏姫とアンリが合流してきて、すかさず私を取り囲みました。



「ちょっと大丈夫!?」


「怪我しただろ!? 見せろっ!」



 私の頬に触れたアンリが【癒しの手】を使ったらしく、ほっぺたがじんわり温かくなります。


 ものの十秒もすれば傷は塞がったらしく、夏姫がハンカチで残った血を拭いてくれました。



「ああ、よかった……傷は残ってないよ?」


「ちゃんと薄皮一枚で躱しましたからね!」



 自慢気に胸を張る私に、アンリがジト目を向けてきます。



「今のはちょっと肝を冷やしたけどな……」



 ……まあ、軽く油断していたとはいえ、確かに今のは私もヒヤッとしました。


 上位種のゴブリンたちには連携するだけの知性があり、単体では敵にならなくとも、数を増やせば増やすほどその脅威度は増していくということでしょう。


 私の治療中、周囲を警戒してくれていたマキにゃんが、アンリと交代で私の前にやってきます。



「小春……」



 冷えた指先で私の頬を撫でたマキにゃんは、続けて制服に付着した血を見て確認してきました。



「……どうする? まだ進む? 小春たちはここで引き返してもいいのよ? 資料が正しければ、久遠岳の魔窟には出口が二つあったはずでしょう?」



 どうやら彼女は血を見て心配を爆発させてしまったみたいです。


 いちおう夏姫とアンリのほうを確認してみますが、二人はアイコンタクトで『小春に任せる』と伝えてきてくれたので、私はここぞとばかりに狂戦士の血を滾らせて、かわいい美少女を勇気づけました。



「――マキにゃん、いくらなんでも今諦めるのは早すぎますよ? 私たちにはまだやれることがあるのですから」



 そう言って私は目を閉じ、目蓋の裏に表示される数字を確認します。



【所有SP:254】



 マキにゃんたちが【魔導智(グリモア)】と呼ぶ不思議な力の根源には、夕方から二〇体以上のゴブリンを倒したからか、それなりのポイントが貯まっておりました。


 敵が強くなったということは、それだけSPが貯まるのも早いということ。


 特に夜の魔窟ではゴブリンを一体倒すだけで15SPくらいはもらえるのですから、ここから先はガンガンSPを使うことで、魔物たちを超える速度で強くなっていけばいいのです。


 今こそショーコ姉からもらった『チート能力』の使い時だと判断した私は、目を開いてみんなへと力強く冒険の続行を提案します。



「どうせ私たちも強くならなければ、いずれ魔道に命を呑まれてしまうのですから。ここらで大いに稼いで、大いにスキルを取得して、大いに強くなってしまいましょう!」



 ゴブリンだけでなく、それこそ神話の怪物でも倒せるくらいに。



「さあ、スキルボードを熟読吟味して、練りに練ったビルドの方向性は決まっていますか?」



 つまりこれからはじまるのは――。



「――楽しい自己強化の時間ですよ!」







漢字まだめっちゃ間違えてた……指摘&誤字報告くれた方、ありがとう!

対応郡→正しくは【対応群】です。


そして今後も気を抜いて間違えたらすまねえ……。

予測変換ががががが……!

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