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通学路には今日も、スライムが現れる。  作者: 森本みつき
新生ウエストスライマー
26/32

第26話 ぽかぽかマキにゃん

2026.11.02 前話(25話)のタイトルとラストを少し変更しました。





「脱衣所では急に大きく動いたりしないでくださいね? 服を脱ぎながら私の近くでそれをすると、高確率で私がデリケートゾーンにぶつかりますので」


「……了解したわ」



 駄女神の呪いの強制力はもうどうしようもないので、いよいよその瞬間(とき)を迎えた私は、慎重にマキにゃんとの入浴準備に取りかかりました。


 最低限の注意事項を伝えたあと、服を脱ぐところを見られるのは流石に恥ずかしいので、私たちは二人で背中を向けながら部屋着を脱いでいきます。


 私は夏姫とアンリの犠牲で脱衣室での転倒パターンをだいたい体験しているので、服に足を引っ掛けて転ばないように、細心の注意を払って脱ぎました。



「もうそちらを向いても構いませんか?」


「ええ」



 そうして無事にバスタオルを体に巻き付けて振り返ると、すでに着替えを終えたマキにゃんは普段の冷静さを取り戻しており、自分の体を見下ろしながら呟きました。



「不思議ね……いざ脱いでみると、驚くほど羞恥心がなくなったわ……」


「まあ、公衆浴場でも恥ずかしいのは最初だけですから」



 これが恋人とかならドキドキが止まらないのかもしれませんが、互いにノンケの友人同士ならこんなものでしょう。


 友人との入浴に慣れている私は浴室の扉を開けて、滑らないように洗い場へと足を進めます。



「先に私が体を洗っちゃいますから、マキにゃんは湯船で温まっててください」



 夏姫やアンリの家のお風呂ならば同時に体を洗って二人で湯船に浸かれるくらい大きいのですが、残念ながら我が家のお風呂は常識的なサイズでした。



「……日本では入浴前に体を流すのがマナーだったかしら?」


「家庭のお風呂ですから適当でいいですよ?」



 流石に今日はマキにゃんも入っているので、このあとお湯を入れ替える予定ですし。


 これほどの美少女が入った残り湯にお父様を入れるわけにはいきませんから……。


 それでもいちおう軽く埃を流したいかと思って洗面器を手渡すと、



「……適当で?」



 なにやら困惑している様子のマキにゃんは、ぎこちない動きで湯船からお湯をすくい、自分の肩へと掛けはじめました。



 バシャア……。


 バシャア……。


 バシャア……。


 バシャア……。


 バシャア……。


 バシャア……。


 バシャア……。


 バシャア……。


 バシャア……。


 バシャア……。



「マキにゃん、マキにゃん。そんなに掛けたら湯船のお湯が無くなっちゃいますよ?」


「っ!? ごめんなさいっ!?」



 慌てて動きを止める北欧美少女に、私は首を傾げます。



「もしかして日本のお風呂、初めてでした?」



 私に洗面器を返したマキにゃんは、ゆっくりと頷きます。



「……ええ、アンリさんの家では私が湯船で溺れないように体を拭いてくれたし……組織の施設では小さな個室が与えられていたけれど、どの部屋もシャワーしかなかったから……」



 まさかの湯船初体験でした。


 いや……【八咫烏】って仕事内容だけじゃなく福利厚生面もブラックなんですか?


 マキにゃんの食事事情といい、ろくな生活してない気がするんですけど?


 とりあえず私はお風呂初心者をエスコートするべく、マキにゃんに片手を差し出します。



「なにも遠慮することなどありませんとも。慎ましい我が家のバスタブでも、足を伸ばせるくらいのサイズはありますから、まずは寝転んで思いっきりくつろいでみてください」


「わ、わかったわ……」



 緊張した面持ちで私の手を取って、湯船へと片足を入れるマキにゃん。



「…………」



 すると42度に設定したお湯は彼女の肌感覚にも受け入れられたらしく、マキにゃんはそのままゆっくり湯船へと体を沈めていきました。



「……あ……温かい……」



 肩まで浸かったマキにゃんの表情がホワッと緩み、ほっぺたの血色が良くなります。



「……ああ…………」



 おおう……推しの至福顔というのは素晴らしい尊みがありますね……。


 幸せをお裾分けしてもらった私はもっと気持ちよくなってもらいたくて、そのまま握っていたマキにゃんの手を取り、優しくハンドマッサージを開始します。


【美肌】スキルを持っていても皮膚の自然治癒力がまだ追いついていないのか、その手には小さな傷がたくさんありました。



「……マキにゃんは普段、どんな生活をしてたんですか?」



 ときどき垣間見えるブラックさが気になって訊ねると、お湯に浸かって気が緩んだのか、マキにゃんはあっさり【八咫烏】での暮らしぶりを話してくれました。



「そうね……私が主に身を置いていた施設での生活は、だいたい『修道女』のそれに近かったと思うわ」


「修道女ってカトリックの?」



 そこで閉じていた目蓋を上げて、記憶を探るように天井を見るマキにゃん。



「ええ、【八咫烏】は天照様を崇めているから宗教的には神道だけど、私たちは自分のことを聖職者だと思って仕事をしているの」


「仕事……」



 アンリはマキにゃん事が『いちごジャム職人』だと言葉を濁していましたが、それは『暗殺』の仕事のことを差しているのでしょう。


 浴室の天井を見上げたまま、マキにゃんは祈るように続けます。



「……神へと自らの命を捧げることで、他者の命を奪う許しを得て、自己利益のためではなく『世(・)界(・)への奉仕』として行われる神聖な仕事――」



 そこで『神への奉仕』と言わないのは、多神教の神道では自分を取り巻く世界の中に神を見る自然信仰(アニミズム)の精神があるからでしょう。


 そんなアンリから教わった豆知識を私が思い出していると、マキにゃんはフッと自嘲気味に笑って、ニヒルな決め顔をこちらに向けました。



「――私たちのような者が自分の行いを正当化するためには、そんな言い訳が必要なんでしょうね?」



 私はどう反応したらいいのかわからなくて、傷だらけの手をモミモミします。



「……それは『いちごジャム職人ジョーク』ですか?」


「……ごめんなさい。組織の構成員にはけっこうウケるのだけれど……」



 いやいやいや……日本の女子高生に披露するにはハードボイルド過ぎますよ……。


 鼻で笑って「違いない……」とか言うのが正解なんですか?


 ネタがスベって少し頬を赤くしたマキにゃんは、気恥ずかしさを誤魔化すように話題を戻します。



「えっと……普段の暮らしぶりの話だったわよね?」


「はい。どんなものを食べているのかとか、どんな教育を受けているのかとかが気になりまして」



 左手は揉みほぐれたので、今度は右手をモミモミ。


 そうして私がマッサージを継続していると、マキにゃんは再び視線を天井へとやって、普段の暮らしぶりを教えてくれます。



「暮らしぶりは修道女のそれに近いけれど……違いがあるとすれば食前の祈りのような『決まった所作』が省かれている点かしら? 普段から特定の行動をしていると、仕事中にも無意識にそれを行ってしまって、身バレに繋がることがあるから」



 なるほど……だからマキにゃんは『いただきます』を忘れ気味だったのですか……。



「あと組織の施設で食べる物は薄味が基本で、ときどきそこに少量の毒物が混ぜられるの……気づかずにそれを食べてしまうと、お腹をくだしてそれは酷い目に遭ったわ……」


「あ、ちゃんとそこはブラックなんですね?」


「ええ、どんな物でも食べられるように普段は不味い物しか与えられなかったし、水も浄化されていない山水を飲むことで胃腸を鍛えて……とにかく緊急時の生存率を上げるための訓練を、常日頃から強(し)いられていたわ……」



 よほど辛い生活だったのか、それを語るマキにゃんの目は完全に死んでいました。


 さらにマキにゃんは自分の左胸に片手を当てて悲しそうに続けます。



「教育に関しては機密事項だから漏らすわけにはいかないけれど……私と同じ最下級の構成員は、みんな【八咫烏の御印】をもらうことを夢見て努力していたはずよ……私はもう使命を果たした扱いになっているのか、任務だけでなく御印すらも失ってしまったけれど……」



 そう言って何も無いお肌を撫でるマキにゃんは、どこかホッとしているようにも見えました。



「……みしるし?」



 聞き慣れない単語に私は首を傾げます。


 そしてそのまま湯船でお乳の上に指を這わせる美少女のサービスカットを眺めていると、ずっと洗い場にいた私の体が急に震えました。



「――くしゅんっ!」



 突然のクシャミにマキにゃんが目を丸くして、ザバッ、と勢い良く湯船から立ち上がります。



「いけないっ! このままでは小春さんが風邪を引いてしまうわ! 私はもう十分に温まったから、すぐに場所を交代しましょう!」



 お湯から上がった時の勢いで、マキにゃんの体を包んでいたバスタオルが外れます。


 すでに裸を見られる羞恥心は無くなったのか、気にせずバスタオルを浴槽の縁に置くマキにゃん。


 その肉体を目にした私は静かに洗い場を譲り、ろくに体を洗いもせずに浴槽の中へと冷えた体を沈めました。



「ああ、そういうことでしたか……」



 気持ちいいはずのお湯も、今は私の心を温めてはくれません。


 どうりでアンリが母性を爆発させていたわけです。


 あの子もきっと体を拭いた時に、マキにゃんのこ(・)れ(・)を目にしたのでしょう。


 シャワーのレバーが開けられ、水音でうるさくなった浴室の中で、私は顎までお湯に浸かって呟きます。



「……これはもう……【八咫烏】に帰すわけにはいきませんね…………」



 洗い場でシャワーを使いはじめたマキにゃんの胴体には、痛々しい戦いの古傷が、数え切れないほど刻まれておりました。





     ◆◆◆





 上成村へのマキにゃんの永久就職を勝手に決めたあと。


 無理やりにテンションを上げた私が戸惑うマキにゃんの髪を洗って、マキにゃんの体を洗って、マキにゃんの体拭きとお着替えも手伝ってあげると、そのあたりでようやく冷えた心も温まってきました。



「……なんだか一気に凄いことをされてしまったわ…………」



 さんざんお姫様扱いされて疲れ果てたマキにゃんは、リビングのソファでぐったりして「これが裸の付き合い……」と、日本の文化に戦慄しています。



「はいはい! こんなんで終わりだと思ったら大間違いですよ! JKの場合は裸の付き合いの後に、髪を乾かしあってから、いっしょにアイスを食べて、パジャマパーティーをするところまでがセットですから!」



 ドライヤーを片手に仁王立ちする私へと、マキにゃんは畏れを含んだ顔を向けてきました。



「……日本の女の子はバイタリティが怪物級なのね」


「そりゃあもう! なぜならサムライの末裔ですから!」


「女同士の入浴にサムライは関係ないんじゃないかしら?」


「おおっ! ついにマキにゃんもツッコミらしきものを覚えましたね! あとは夏姫たちのように遠慮を捨てれば合格ですよ! さらに手首にスナップを効かせて『ビシッ!』とできたら完璧です!」


「それは……前向きに検討してみるわ……」


「……いまちょっと『めんどくさい』と思いましたか?」



 裸の付き合いを通して心の距離もググッと近づき、クスクスと笑うマキにゃんの髪を私も笑って乾かします。


 そして銀色のサラサラヘアに櫛を入れて完璧に整えると、こちらに振り向いたマキにゃんがイタズラっぽく微笑みました。



「――小(・)春(・)、次は私があなたの髪を乾かしてあげる」



 はじめての呼び捨てに、私も思いっきり笑顔を咲かせます。



「お肌のケアもお願いしていいですか!?」


「それは自分でやりなさい」



 と、楽しくドライヤーの時間を終えて、二人でバーゲンダッツ(※高級品と思えば安いけれど、普通のアイスに比べたら高い、絶妙な価格帯にあるアイスクリーム)のストロベリーとクッキー&クリームを半分こしながら完食したところで、時刻が夜の九時を回ったため、私たちは寝る準備を整えることにしました。


 客間の押入れからお布団を二組取り出して、畳の上にそれを広げます。


 枕だけは三つ出して、夏姫用の布団のほうにそれをセット。


 面倒見のいいアンリは藍ちゃん先生の保護のため、今夜はこちらに来ないでしょうから、寝具はこれで十分でしょう。



「……まだ布団はあるけれど、二組だけでいいのかしら?」



 押し入れを指差すマキにゃんに、私は事前に謝っておくことにします。



「三つ敷いたところで私は誰かの布団に転がりこんでしまうのですよ……例の呪いのせいで……」


「ああ……」


「だからごめんなさい……事故防止のため今夜は夏姫を抱き枕にして眠りますが、朝起きたらマキにゃんのお乳を枕にしているかもしれません」



 そこまで説明するとマキにゃんは頷いて、小ぶりなお乳を『好きに使え』とばかりに堂々と張ります。



「そういうことなら今夜は枕の下に銃を忍ばせないでおくわね? 寝ている時に抱き着かれたら、思わず発砲してしまうかもしれないから」


「ご迷惑おかけします」



 魔道から出たあと、マキにゃんの武器は私のマジックバックに入れてきたので、現在の客間にはアサルトライフルと拳銃とコンバットナイフが置かれておりました。


 流石に手榴弾ふたつはバックの中に封印しておりますが……。


 そうして私が物々しくなった客間を、チラッ、と確認していると、疲れていたのかマキにゃんが掛け布団の上に寝転びます。


 なんとなく私も横になると、となりの布団で寝転ぶマキにゃんと目があって、彼女はこちらに寝返りを打って微笑みました。



「私も事前に謝罪しておくけれど、寝ている間にうっかりサブミッションを掛けてしまったらごめんなさい」


「あ、そちらは慣れているので大丈夫です」



 会話の内容にはまったくかわいらしさがありませんが、しかし目の前で推しの美少女が無防備な姿を晒していたら、私にも少なからず煩悩が芽生えてくるわけで……。



「…………」



 ゴクリと生唾を飲み込んだ私は、ついに今まで溜め込んできた欲望を解放することにしました。



 ……お母様も夏姫もまだ帰ってくる気配がありませんし……これはもう『猫耳モフモフパーティー』を開催してしまっても構いませんよね?



 私に美少女への性欲はありませんが、『モフモフ欲』のほうは限界でした。





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【八咫烏】って平和な日本じゃやることないから、海外任務ばっかやってるんでしょ? ブラックよりもなお黒い、真っ黒すぎる組織に決まってるじゃないですかー! 引きこもって迷惑かける太陽神なのに、わざわざ使い…
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