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通学路には今日も、スライムが現れる。  作者: 森本みつき
新生ウエストスライマー
19/30

第19話 魔力循環




 それから旧校舎の屋上でマキにゃんたちと一度別れ、私は放課後までの時間をソワソワして過ごしました。


 けっきょく昼休みは時間が足りなくてアンリが言っていた【魔力感知】と【魔力操作】のスキルを取ることもできませんでしたし、なにより今はもっと魔道やスキルやダンジョンの話を友人たちとしたくてたまりません。


 まるで神ゲーに沼った直後のような高揚感に支配された私は、スキルボードを熟読することで心を落ち着けて、何度か先生に寝るなと注意されながら待望の放課後を迎えます。



「――起立、礼」


「はい、また来週」



 そして日直の号令で頭を下げた私は、ついでに机に置いたスクールバックを引っ掴み、



「御剣さん、ちょっと話が……」



 こちらを引き止めようとしてくる藍ちゃん先生の声を振り切って、素早く教室から飛び出しました。



「すみません! 今は急ぎの用事がありまして!」



 ホームルームで残るように言わなかったということは、授業態度のお説教ではなく私的な用事でしょうから、今はこちらを優先させていただきます。



「あっ!? こらっ――」



 安心してください。


 べつに口止めなんてしなくても、先生が【ダメ男生産機】であることを言いふらしたりしませんから。


 そして私は風のような速さで靴箱まで突っ走り、急いで上履きから愛用のトレッキングシューズに履き替えると、他の生徒が流れてくる前に桜が舞い散る校門の外まで駆け抜けます。


 ちょうど門を出たあたりで進行方向に見慣れた二つの背中を見つけましたが、私は【軽業】と【持久力強化】に物を言わせて、そのまま幼馴染たちの背中を追い抜きました。



「夏姫! アンリ! 先に行ってます!」


「うわっ!? はやっ!?」


「おい! てめえっ!? またマキナにウザ絡みするつもりだろっ!?」



 そう……どうして私がこれほど急いでいるのかと言えば、この先に猫耳美少女が現れるからです。


 マキにゃんはスマホを持っていなかったので、放課後は旧校舎の屋上から見えた公園に集まることにして、私たちは『ホームルームが終わったらダッシュで集合』と約束しておりました。


 そして私たちが午後の授業を受けている間、マキにゃんは屋上で【獣化】スキルの検証をして過ごすと言っておりましたから、そのまま猫耳モードで公園に来る可能性は高いはず……。



「あっ!?」



 そんな厄介ファンの予想は見事に的中し、私が約束の公園に駆け込むのとほぼ同時に、民家の屋根から猫耳美少女が飛び降りてきて公園の芝生へと無音で着地しました。


 もちろん私は銀色のモフモフに魅了されて、それを揉みしだくために最高速度で襲いかかります。



「マーキにゃーん!」


「っ!?」



 すると咄嗟に回し蹴りを放ってくるマキにゃん。



「わっ!?」



 それを私がギリギリでガードすると、そこでようやく私に気づいたマキにゃんが慌てました。



「小春さんっ!? ごめんなさい! 急に背後を取られたから、つい……」


「あ、はい……背中側から奇襲してごめんなさい……」



 そうでした……マキにゃんはサーティーンな人と同じ属性の持ち主なんでした……。


 自分の軽率な行動を反省した私は、すぐに引っ込められたマキにゃんの猫耳を名残り惜しく思いながら、【獣化】スキルの性能について言及します。



「……それにしても、すごい反応でしたね? 完全に捉えたと思ったんですが」



 複数のスキルの恩恵を利用した私の最高速度に、トラブルエッチ体質による女体への吸引力、それらをすべて駆使して猫耳をモフりに行ったのに……まさか回避されるとは思いませんでした。


 自分のスキルを褒められたマキにゃんは、どことなく嬉しそうにスキルの検証結果を教えてくれます。



「ええ、【獣化】を使うと反応速度が上がるみたいなの。他にも柔軟性が上がったり、嗅覚が鋭くなったり。昼から今までずっと発動させていても疲労を感じなかったし、これは思っていたより使える異能かもしれないわ」



 ……つまり私たちが午後の授業を受けている間、旧校舎の屋上では日向ぼっこをする猫耳美少女が存在していたわけですか。


 どうして私は午後の授業をサボらなかったのでしょう……。


 かわいい推しの姿を見逃してしまった私が激しく後悔していると、そこでようやく夏姫とアンリが公園に到着しました。



「公共の場でなにやってんだ!」



 私たちのやり取りを遠くから見ていたのか、到着するなり叱ってくれるアンリ。


 彼女に続いて公園へと入ってきた夏姫は、息を切らせて自分の膝に両手を突きます。



「ぜぇ……はぁ……小春はいったいどういう足の速さをしているのかな? いちおうボク……一〇〇メートルを一二秒台で走れるのに……」



 夏姫もけっこう運動神経はいいのですが、こちとら幼い頃から野山を駆け回ってきたたくましい足腰を持っていますから、乙女らしさをかなぐり捨てれば一二秒を超えることくらいは余裕でした。



「べつにスキルを使わなくても一〇秒台くらいは出せるでしょうに。夏姫は足が遅いですねえ」


「それ……陸上女子の日本記録を超えてるんだけど?」



 あれ?


 日本記録って何秒でしたっけ?


 中一の時の測定でタイムが一〇秒くらいだったと思うのですが?


 ああ、いえ……あれは確かストップウォッチが壊れていたのでしたか……。


 三回走っても一〇秒台が出たから、陸上部顧問の体育教師が備品を買い替えると言っていたのを覚えております。


 ただ、それから執拗に陸上部へと誘われるようになったので、私は体育の授業で全力疾走することを封印しておりました。


 そんな過去の記憶を思い出したところで遅れて来た二人の息が整ってきたので、私はダンジョンアタックの準備運動を兼ねて、その場でジョギングするように足踏みを開始します。



「それではさっそく魔道へと参りましょう! 楽しい冒険が私たちを待っていますよ!」



 引き絞られたオモチャのミニカーのように再び走り出そうとする私を見て、体力の無い夏姫が表情を固くします。



「マキにゃん……小春を捕まえてくれるかな? たぶん冒険が楽しみすぎて暴走してるから」


「了解」



 短く頷いたマキにゃんは、ピョコン、と猫耳を生やし、もちろんそれに魅了された私はダンジョンへと向けていた足を反対方向へと解き放ちました。



「モフモフッ!」



 しかし猫耳へと伸ばした両手首がマキにゃんの優れた反射神経によって掴まれて、私の指先は猫耳の直前で急停止します。



「捕獲完了よ」



 そのまま流れるように片腕をマキにゃんに腕組みされて、反対の腕は夏姫に捉えられました。



「すごいやマキにゃん! すでにスキルを使いこなしてる!」


「魅了の力はデメリットにしかならないと思っていたけれど、物は使いようね」



 夏姫に褒められて猫耳をピコピコさせるマキにゃんかわいい……。


 そうして私が二人に拘束されたところで、アンリがひとつ嘆息して先導を開始します。



「まあ、ここから赫狸様のところまでは歩いて行くとして……小春を放っておくとあの手この手で走り出そうとするだろうから、歩きながら【魔力操作】のコツを教えるわ」


「おおっ!? ようやくですか!」



 朝から新スキルの取得を楽しみにしていた私は、ダンジョンへと逸る気持ちを切り替えて、さっそくスキルボードから二つの力を取得しました。


 合計170SPを支払って【魔力操作】と【魔力感知】を購入です!



「秒でスキルを取ったぞ、こいつ……」


「そっちもよっぽど楽しみにしてたんだね……」


「なにボサボサしてるんですか? ほら、早く夏姫とマキにゃんも取りましょう!」



 みんなが取らないとアンリが説明をはじめられないので、両サイドに顔を向けて取得を促すと、今朝はずっと『マキナちゃん』だったマキにゃんへと夏姫が事情を説明しました。



「アンリが言うには【魔力操作】と【魔力感知】を早めに取ったほうがいいらしいんだけど、マキにゃんも今あるSPで取得できそうかい?」



 神様であるショーコ姉から英才教育を受けたアンリのアドバイスと聞いて、マキにゃんはすぐに目を閉じてスキルボードを確認します。



「ええ、【魔力操作】が110、【魔力感知】が60ね……アンリさんの助言なら今すぐ取らせてもらうわ」



 そのままスキルを取得したらしいマキにゃん。


 ふむ、マキにゃんも合計値が170ですか。


 さっきの蹴りも良い威力でしたし、やはり私と同じく近接戦闘職ってことですかね?


 そんな考察をしているうちに夏姫も二つのスキルを取得して、私たちの準備が整ったことを察したアンリがコツの伝授を開始します。



「今から教えるのはショーコ姉に習った『魔力循環』って技術なんだが、これを使うことで【魔力操作】の基礎を覚えられるだけでなく、肉体が強化されたり、魔法の威力が底上げされたりするんだ」


「ふむふむ、つまりそのスキルを使えば、私は八秒台で走れるようになるわけですね?」



 それこそ幼少期の孫◯空のように。


 人間の限界を超える技だと思って確認すると、しかしアンリは首を横に振ります。



「いや、朝も言ったが小春は本気で動くとき、自然と体内限定で『魔力循環』を使ってるから……たぶんもう八秒台で走ってる……」


「なんとっ!?」


「……どうりで小春がときどき人外の動きをするわけだよ」



 今までよりも早く動けないのは少し残念ですが、『魔力循環』とやらを正しく覚えれば魔法の威力も上がるみたいなので、私は【雷魔法】を活かすためにも説明の続きを傾聴します。



「実際のやり方に関しては……口で言うより見せたほうが早いから、あたしが一度やってみせるわ」



 そう言って歩きながら何かを探しはじめたアンリは、公園の横にちょうど人気の無い桜並木の道を見つけて、急ぎ足でそちらへと向かいます。


 私たちも腕組みしたまま着いて行くと、散った桜の花びらが絨毯のようになっているその場所で、アンリは振り返って慣れた様子で合掌しました。



「古今東西、祈りの所作には手を合わせるものが多いが、これは魔力循環の修行をする異能者の姿を模したものらしい」



 桜吹雪の中で祈りの姿勢になる金髪ギャル。



「……動画撮っていいですかね?」


「……気持ちはわかるけど、たぶんダメじゃない?」



 その姿は俗物な私でも思わず跪きたくなるような神秘的なもので、彼女が常日頃からこの動きを繰り返していることが容易に想像できました。



「行くぞ?」



 短く宣言したアンリが目を瞑ると、アンリを中心に桜吹雪が渦を巻きます。



「「おおーっ!」」



 その美しい光景に私と夏姫が歓声を上げると、アンリは桜の渦を少しずつ小さくしていき、合掌を解いて厳かに目を開きます。



「魔力循環の修行法はだいたいこんな感じだ。合わせた手の中に魔力を巡らせて、それをどんどん大きくしていくイメージ。回転の向きはツムジの向きと同じにして、自分の周囲に魔力の渦を形成できるようになったら、今度はそれを体内へと押し込める。合掌を解いても魔力の流れが維持できればそれで完成だ」



 アンリの説明を聞いた夏姫とマキにゃんは、さっそく私を拘束していた腕組みを解いて、おのおの手を合わせます。


 夏姫はまるで修道女のように指を組み、両手を握り込む形で。


 マキにゃんはアンリを真似したのか神道的な合掌で。


 二人に遅れて手を合わせた私は、夏姫を真似して修道女のポーズを取りました。


 なぜならこちらのほうがかわいいので。


 そのまま心の中でアンリの説明を反芻しながら、私は魔力循環を意図的に使ってみます。


 目を閉じて、私のツムジは左巻きなので魔力の流れは反時計回りで。


 取ったばかりの【魔力感知】に意識を集中させれば、自分の体内を流れる温かいモヤモヤを認識できて、それを動かそうと念じるとモヤモヤは簡単に動きました。


 私の体内限定で。



「…………あれ?」



 目を開けてみても私の周囲には桜が渦を巻いていなくて、視界の端では夏姫を中心に桜の竜巻が起こっています。



「アンリ先生、魔力の渦を外に出せないのですが?」



 私が手を上げて質問すると、竜巻を霧散させた夏姫も困った顔をして質問をします。



「逆にボクは体内で回すのができないや……これ、どうやって押し込めばいいの?」



 それぞれ個性的な反応をする私たちに、アンリは呆れた顔をします。



「……初めてでそれだけできれば上出来だっつーの……ったく、これだから天才ってやつは……あたしがそのレベルで魔力を動かせるようになるまで何ヶ月かかったと思ってんだ……」



 そうしてギャルが小さく愚痴を零していると、最後に誰よりも集中していたマキにゃんが、絶望した顔で硬く閉じた目蓋を震わせました。



「……わ、私はどちらもできないわ……まったく才能が無いのかしら…………」



 今にも泣きそうになっているマキにゃんを見て、アンリは簡単なアドバイスを教えてくれます。



「小春と夏姫はお互いを参考にしろ。マキナは【獣化】を使った状態で練習するといい、猫耳状態のお前は普通に魔力を動かしてたからな」



 すぐにマキにゃんは猫耳を生やして、私はそれに飛びつこうとしましたが、すかさず夏姫に片腕を取られました。



「こらっ! マキにゃんが頑張ってるんだから邪魔しないの!」


「あぅぅ……でもモフモフがぁ……」



 そうして私が目の前にある魅惑の物質を凝視していると、マキにゃんの周りで桜がフワッと舞って、猫耳美少女が目を見開きます。



「動いたっ!? いま少しだけ魔力が動いたわっ!」



 そう言いながらギャルへと近づくマキにゃんに、アンリは聖女の如き微笑を浮かべました。



「確かに体内の魔力も動いてたな。マキナはあたしと同じバランス型みたいだから、行き詰まった時はいくらでもコツを教えるぜ?」


「本当にっ!?」



 頬を上気させて喜ぶマキにゃんの頭を、アンリが自然と撫でます。



「ああ、ダチに遠慮はいらねえよ」


「アンリさん……」



 そして大人しく猫耳ごと頭を撫でられるマキにゃんを見て、私と夏姫は同時に叫びました。




「「――羨ましすぎるっ!!!」」




 急に大声を上げた私たちに、アンリが小首を傾げます。



「……なんだ? お前らもバランス型がよかったのか?」


「そこじゃありませんよっ! そこじゃっ!」


「ああ、もうっ! なんでアンリは平然としてるのさっ!? でも見ているだけで凄く眼福っ!」



 それからしばらく私と夏姫は、気持ちよさそうにアンリの手へと頭を押し付ける、マキにゃんの猫姿を堪能しました。






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まさか長身金髪ギャル(巫女)なんてイロモノが一番の常識人だなんて…
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