第18話 四人のステータス
本物の美少女にはカロリー攻撃が無駄だとわからされたあと。
少なめの昼食を終えた私たちは、屋上のフェンスの下に並んで腰掛けました。
「うぅ……食べすぎた。ちょっとしばらく動けないかも……」
「あー……ヤバ……これぜったい午後の授業で眠くなるやつだわ……」
この二人は修行が足りませんね。
主に胃袋の修行が。
細いお腹を擦って苦しむ夏姫とアンリの横で、女子高生としての修行が足りない私はアンリにもらったコンニャクゼリーを食べながら、となりでお行儀よく座る銀髪美少女へと話を振ります。
「ところで今日の放課後はマキナさんもダンジョンに潜るんですか?」
スライムしか出ない朝の通学路ならばともかく、病み上がりでダンジョンはキツいかと思って念のために確認すると、マキナさんは真剣な顔で頷きました。
「ええ、まだコンディションは万全とは言えないけれど……小春さんたちの邪魔にならないよう頑張るから、いっしょに連れて行ってくれないかしら?」
昨日はショーコ姉に目の保養と言われてショックを受けていたマキナさんですが、どうやら彼女も魔道でSPを稼いで強くなりたいみたいです。
「もちろん大歓迎ですよ! マキナさんが強いことは知ってますから!」
邪魔になんてなるはずがないと私が勢い込んで彼女の手を握ると、マキナさんは少し驚いた顔をした後に微笑んでくれました。
「……ありがとう。小春さんに褒められると自信が持てるわ」
うっ……尊いっ!
闇の中で輝く一輪の花のような笑顔に心を打たれた私は、秘密結社の凄腕戦闘員から自分の実力が認められたことにニマニマします。
「えへへ、私も褒められちゃいました」
「あっ!? ずるいっ! 小春がマキナさんとイチャイチャしてる!?」
「お前は……ほんと美少女相手だと手が早いよな……」
満腹に苦しんでいた二人も会話に参加してきたので、私は食べ終えたコンニャクゼリーの袋を片付け、鞄からルーズリーフとペンを取り出して三人に配りました。
「それでは――はい、これ」
「?」
「うん?」
「なんだ?」
屋上のフチから腰を上げた私は白紙のルーズリーフを眺めて首を傾げる美少女たちの前に立ち、ロールプレイングゲームの熟練者としてその使い方をレクチャーします。
「今日から我々は四人でダンジョンへと潜るのですから、まずはお互いのステータスを熟知することが最優先課題だと思うのです!」
偉そうに人差し指を立てて解説をはじめた私に、夏姫とアンリが突っ込んできます。
「それでなんでルーズリーフ?」
「わざわざ紙に書かなくても口で説明すればよくねえか?」
「はいそこっ! RPG素人はシャラップ!」
特にアンリは将棋くらいしかやらないので、この場での発言権は皆無です。
「ボクはそこそこやってるけど……」
「トータルで言ったら私のほうが遊んでますから、なんでも手を出すオールラウンダーもシャラップ!」
「ああ、うん……どうしてもステータスを手作りしたいわけね?」
すぐに夏姫にこちらの本音を見抜かれましたが、強く止める気はないみたいなので、私は解説を続けます。
「そんなわけで、今からみんなにはスキルボードの情報をこの紙に書き写してもらいます――具体的にはこんな感じで!」
そして満を持して、ババンッ、と出した私の自作ステータスに目を通し、夏姫とアンリが目を細めました。
「……いや、職業【女子高生】って」
「……体重なんて項目まであるぜ? 禁則事項ってなってるけど」
「そこらへんはノリです」
私が胸を張ると呆れた視線を向けてくる幼馴染たち。
そうして私たちがワイワイしていると、マキナさんが真剣な面持ちで頷きます。
「なるほど……わざと程度の低い情報を折り混ぜることで、万が一にも流出した時に備えているのね? 異能の情報は命に関わる重要機密だけれど、こんな風に書かれていたら子供がふざけているとしか思えないもの」
マキナさんや……さっきから私に対する言葉のエッジが鋭すぎますよ?
いえ、これもまた真面目に言ってるんでしょうけれど……。
「「…………」」
「……なんですか? なんでそこの二人は顔を赤くして震えているんですか? 事と次第によっては【サンダー】しますよ?」
私が人差し指を向けると、夏姫とアンリは慌てて動き出します。
「っ!? さ、さあっ! 早くステータスを書き上げようか!」
「そ、そうだな! みんなの能力を把握するのは大事だもんな!」
真顔で詰め寄る私と目を合わせないようにペンを動かす幼馴染たちと、綺麗な姿勢のままサラサラと文字を書いていくマキナさん。
「マキナさんは日本語の読み書きもできるんですね?」
見た目が外国人っぽいので質問してみると、マキナさんはルーズリーフから顔を上げて答えてくれます。
「ええ、話者の多い言語はだいたい扱えるわ。英語とか中国語とかスペイン語とか……日本語は仕事先で使うことは少なかったけれど、【八咫烏】で主に使われていたのが日本語だったから」
「優秀……」
そんなやり取りをしている間にもマキナさんはノールックでステータスを書き上げて、完成した物を私へと差し出してくれました。
「こんな感じでいいかしら?」
「ボクもできたよ!」
「わりと楽しいな、これ」
ほとんど同時に夏姫とアンリも書き上げたみたいなので、私は三人分のステータスシートを回収します。
「ふむふむ……みんなよく書けていますね。体重を正直に書いているあたりは減点ですが」
三人とも普通に数字を書いていたので、私はマジックペンを取り出して、乙女のトップシークレットを塗り潰します。
「……執拗に体重だけ消してるぞ、こいつ」
「……たぶん自分も書かされることを恐れているんじゃないかな?」
なにやら幼馴染たちがうるさいですが、これは決して世に出してはいけない情報なので、確実に秘匿しなければならないのです。
「これでよし、っと――それでは添削も終わりましたし、みんなのステータスを発表していきましょうか。もちろん順番は体重が軽い順で」
「うわー、性格わるーい」
軽く肩をぶつけながら笑顔でディスってくる夏姫。
そうです。
私は胸や体重のことになると性格が悪くなるのです。
周りを巨乳でウエストの細い反則級の美少女に囲まれているので……。
「まあ、べつにいいんじゃねえか? あたしたちの中で体重気にしてるのなんて小春くらいだし」
私たちの中で最も重そうなアンリは特に嫌ではないみたいなので続行します。
「はい、まずは私の最新ステータスがこちらです」
【ステータス】
名前:御剣小春
年齢:15歳
性別:女
状態:腹八分目
身長:163センチ
体重:禁則事項
職業:【女子高生】【剣士】
加護:【太陽神・天照大御神の加護】
【山神・古峰坊の加護】
【呪神・赫狸の加護(微)】
【所有スキル一覧】
体術:【剣術LV1】【戦盾術LV1】【軽業LV3】
感覚:【直感LV1】
強化:【持久力強化LV1】
魔法:【雷魔法LV2】
所有SP:182SP
前回から変わっているところは【軽業】スキルのレベルが上がったくらいで、あとは今日の朝にスライムを狩りまくったことでSPがかなり貯まっています。
昨日の登校では通学路の途中からスライムを狩っていましたが、あの道をすべて歩いてスライムを狩り続けると、だいたい180SPくらい貯まるみたいでした。
……いえ、今朝は最初にちょっとだけ夏姫のSP稼ぎを優先していましたから、フルで狩り続ければ200SPくらいは稼げるのでしょうか?
そうして私が自分のステータスを眺めながら朝の稼ぎについて考察していると、夏姫とアンリが発表の順番に突っ込んできます。
「いや、ちょっと待って……」
「なんで小春が最初なんだ……タッパも肉もあるあたしはともかく、夏姫とマキナのほうが確実に軽いだろうが……」
「私は『禁足事項』なのでリンゴと同じ重さだと仮定しております」
「うん、君はアイドルかなにかなのかな?」
「サバを読むにもほどがあるだろ」
はいそこっ! 乙女に対してサバとか言わないっ!
私のスキルは先ほど見本として見せたばかりで、特に質問もなかったので次に進みます。
「二番目は夏姫ですね。数字は伏せてありますが、巨乳のくせにこんなに軽いとか、お乳が雲でできているのではないかと疑いたくなるレベルでした」
「ショーコ姉に変なスキルもらってるから可能性はあるかもね?」
【ステータス】
名前:早乙女夏姫
年齢:15歳
性別:女
状態:食べすぎ
身長:162センチ
体重:■■キログラム
職業:【女子高生】【魔法使い】
加護:【太陽神・天照大御神の加護】
【山神・古峰坊の加護】
【呪神・赫狸の加護(微)】
【所有スキル一覧】
体術:【杖術LV1】【軽業LV1】
召喚:【水狼召喚LV2】
美容:【神乳】
所有SP:327SP
夏姫は【水狼召喚】をレベルアップさせているくらいで、他はまだほとんど手つかずの状態ですね。
燦然と異彩を放っている【神乳】にはレベル表記が無いみたいですが、これは美少女が大好きなショーコ姉に与えられたスキルですから、すでにカンストしているのかもしれません。
他に気になる点としては、
「むぅ……信玄を使ったSP稼ぎが本当に優秀ですね。私よりも稼いでいるじゃないですか」
確か夏姫は初期SPを80ほど残していたはずですから、240SPくらいは朝の時間に稼げたことになるはずです。
「まあ、頭数が違うからね。足並み揃えるために調整したいところだけど」
「そこらへんは下校時に調整したほうが効率的でしょう。稼ぎが少ない私たちに夏姫が合わせるのはSPがもったいないですし」
すでに【水狼召喚】はみんな目にしているので、アンリとマキナさんからの質問はなく、私は情報開示を進めます。
「三番目はアンリのシートです」
「あん? あたしのほうがマキナよりも軽いのか?」
最後だと思っていたアンリが首を傾げました。
順番の理由を訊かれた私は、シートに書かれていた内容をそのまま伝えます。
「なぜかマキナさんだけ体重が七〇キロ超えでした」
「「七〇キロ……」」
困惑する私たちにマキナさんは明瞭に答えます。
「武器に弾薬にバックパック。それと服や防具の重さまで含めれば、歩兵の装備は軽く二〇キロを超えるはずよ」
「ああ……総重量を書いてたから重いのか……」
マキナさんはマジックバックを持っていませんから、ちゃんと荷物の重さも計算してダンジョンに挑もうとしているのでしょう。
そうして順番の理由にアンリが納得したところで、私は三枚目のシートを公開します。
【ステータス】
名前:秋山杏林
年齢:15歳
性別:女
状態:食べすぎ
身長:168センチ
体重:■■キログラム
職業:【女子高生】【僧侶】
加護:【太陽神・天照大御神の加護】
【山神・古峰坊の加護】
【呪神・赫狸の加護(微)】
【所有スキル一覧】
体術:【軽業LV1】
魔法:【魔力感知LV1】【魔力操作LV1】【祈祷LV1】
特殊:【癒しの手LV1】
美容:【神乳】
所有SP:29SP
「アンリも【神乳】もらってたんだね?」
真っ先に夏姫が声を上げて、アンリの美容スキルを指差します。
「ああ、でかいと垂れやすいって言うからな。これに関してはマジで神スキルだと思ってるぜ」
そう言って大きなGカップを持ち上げるギャルは、どうやら回復系の初期ビルドみたいでした。
「初期職が【僧侶】で、職業由来のスキルが【祈祷】ですか……この【祈祷】というのは、普通に祈るのとは違うんですかね?」
「【祈祷】は『真摯に祈ることで信仰する神様の力を少しだけ貸してもらえる能力』って感じだ……上手く言えねえけど、なんとなく神様と繋がってるのがわかるっつーか」
「ふむ……その神様の力を借りると、具体的にどうなるんですか?」
実在する神様に弟子入りしているギャルからチートの香りがして私がギラリと瞳を輝かせると、アンリはドヤ顔になって肩をすくめました。
「ハッ! そいつは見てからのお楽しみってやつよ! いちおうこれはあたしの切り札だからな!」
「切り札ずるいっ!?」
素直に私が羨ましがると、アンリは上から目線で私の頭をポンポンしてきます。
「まあ、小春がピンチになったら助けてやるから安心しろよ! 異能を使った実力は、まだあたしのほうが上だろうし!」
「ぐぬぬぬぬ……」
これは私もなにか切り札を考えなくてはっ!
【祈祷】の他に【癒しの手】というスキルもありますが、こちらはその名の通り『触れた対象を癒す力』で、
「軽い打撲や擦り傷程度なら治せるけど、骨折までは無理だから当てにすんなよ?」
とのことでした。
そもそもなるべく怪我をするなということでしょう。
アンリの能力もだいたい把握したので、私は幼馴染に先を越された悔しさを押し殺して四枚目のシートを取り出します。
「くうぅ……それじゃあ最後はマキナさんですね……」
「……なんで小春はそんなに悔しがってるの?」
だって切り札欲しいじゃないですか!
まあ、今はマキナさんのステータスチェックを優先しますけれど……。
【ステータス】
名前:冬月マキナ
年齢:15歳
性別:女
状態:満腹
身長:167センチ
体重:■■キログラム
職業:【女子高生(?)】【盗賊】
加護:【太陽神・天照大御神の加護】
【所有スキル一覧】
感覚:【気配感知LV1】
特殊:【獣化LV1】
美容:【美肌】
所有SP:416SP
「ふむ、マキナさんの美容スキルは【美肌】ですか……これも実に羨ましい」
またもやショーコ姉からもらったのであろう神スキルについて私が指摘すると、夏姫がとてもいい笑顔を向けてきます。
「あのね、小春。まずはスキルに頼らず、自分で努力するところからはじめようか? 普通の女の子はみんなそうしてるから」
……ごもっともです。
そうして私が自分で化粧水を買おうかどうか悩んでいると、となりでシートの内容を読み終えたアンリとマキナさんが雑談をはじめました。
「マキナはけっこうSP持ってるんだな?」
「ええ、ずいぶん昔のことだけど、まだ見習いだったころ魔道には何度か潜っているから、おそらくそのころに貯まったものだと思うわ」
「あー……確か選別されるんだったか? そこで使える異能に目覚めた者がエリートになるとかっていう」
「……アンリさんは【八咫烏】の内情に詳しいのね? その情報は天照様から?」
「ああ、まあ。ショーコ姉から聞いたこともあるし、うちの家は色々と裏社会に関わりがあるから――」
と、アンリはそこで秘密結社について学校で雑談するのはよくないと判断したのか、詳しく話すのをやめて、再び四人分のステータスシートへと目を落とします。
「それにしても【剣士】に【魔法使い】に【僧侶】に【盗賊】って……いったいどういう組み合わせだ? そもそもあたしは寺ではなく、神社の生まれなんだが?」
「私も仕事で盗みを働いたことはあるけれど、盗賊と言うよりはスリに近かったと思うわ。もしかすると最初に与えられる職業には、あまりバリエーションが無いのかもしれないわね?」
この二人はろくにテレビゲームをやったことがないみたいですが、おそらく職業は完全に姉さんの趣味で選ばれているのでしょう。
私たちが与えられた四つの職業はゲームでよくある初期職ですから。
そうして自分の職業に首をひねる浮世離れした美少女二人を眺めながら、私はとなりにいる親友へと確認します。
「ところで夏姫さんや、気づいておりますか?」
「もちろんですとも、小春さん」
私と同じく俗物な親友は、もちろんマキナさんのステータスシートに燦然と輝くスキルの存在に着目しておりました。
二人で頷いて通じ合った私たちは、さっそくその効果を知るべく行動を起こします。
「ゴホン、ゴホン……あー……マキナさんや?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどぉ……」
揉み手をしながら怪しい笑顔で推しへと接近する私たち。
「? なにかしら?」
そんな私たちの奇行を訝しむこともなく、マキナさんは美しい所作で振り返ります。
「できればですね……この【獣化】というスキルをぉ……」
「参考までに見せて欲しいなぁ……なんて……」
なにかを期待してソワソワする私たちの姿は、端から見れば醜いものだったでしょうが、しかしこの欲望に抗うことなど今をときめくJKにはできませんでした。
――推しのかわいい姿を見てみたい!
この世にこれに勝る欲望が他にありましょうか?
たとえお釈迦様でも抗えないこの煩悩を満たすため、私と夏姫が抜群のコンビネーションでおねだりすると、マキナさんはあっさり首を縦に振ってくれました。
「――そうね。未知の異能のままでは使うこともできないし、ちょうど私も使ってみたいと思っていたところよ」
快諾されたことに内心でガッツポーズを決める私と夏姫。
そして私たちが一歩下がると、マキナさんは目を瞑って認識したばかりの異能の力を発動させ、
――ピョコンッ!
と、頭にモフモフした銀色の猫耳を生やしました。
「えっ!?」
「あ?」
「「ふぉおおおおおおおおおおおおっ!!!」」
予想外の変化に驚くマキナさんとアンリに、予想通りの変化に歓喜の声を上げる私と夏姫。
素晴らしい!
いや、素晴らしすぎるっ!
「……【獣化】というくらいだから四足獣の姿になるかと思ったのだけれど……今はまだ耳しか生やすことができないみたい……これは明らかに『ハズレ』かしらね?」
「なにを言ってるんですか!?」
「これほど神がかってるスキルなんて他にないからっ!」
まさかの評価に私と夏姫は憤りながら、思わずマキナさんの頭へと手を伸ばします。
「「っ!?」」
しかし私たちの魔手がその魅惑のモフモフに触れそうになった瞬間、マキナさんの姿が、フッ、と消えて、少し離れたところから冷たい声が響きました。
「……どうして触ろうとしてくるの?」
いつの間にかアンリの後ろに隠れたマキナさんは、こちらに警戒した目を向けてきます。
その姿はもう子供の手から逃げる猫そのもので、その艶姿に魅了された私と夏姫は瞳を輝かせました。
「わあ……追いかけられるのが嫌いなんですね……」
「うん……動きも思考も、ニャンコみたいになってる……」
そしてあまりのかわいさに、私たちが手をワシャワシャさせながら追いかけようとすると、今度はアンリがマキナさんの前へと立ちはだかります。
「おい、ウザ絡みしてんじゃねえよ! 嫌がってんだろうが!」
保護者から一喝されて、ハッ、と我に返る私たち。
気がつくとマキナさんは【獣化】を解除したらしく、頭からモフモフが消えていました。
「なるほど……魅了系のスキルですか。とてつもない威力ですね……」
「ごめん……ボクも欲望を抑えることができなかったよ……」
あまりにも強力なスキルに私と夏姫が冷や汗を流すフリをし、無礼を働いたことに頭を下げると、マキナさんはすぐに許してくれました。
「いえ、効果を知らないまま使った私も迂闊だったわ」
そうして謝罪を終えた私たちの横から、アンリがこちらに疑いの目を向けてきます。
「……身体能力を上げる異能じゃねえのか? あたしは特になんともなかったけど」
「つまり、私の異能は身体強化と、効果の不安定な魅了の力ということかしら?」
アンリの意見を聞いて真面目にスキルの考察をはじめたマキナさんに、私は【獣化】を見て、真っ先に思いついたことをお伝えします。
「魅了の詳細はわかりませんけれど、ひとつ確定したことがありますよ?」
「そうだね。これはもう決まりだよね?」
「なにが決まったんだ?」
アンリが油断しているうちに私と夏姫はマキナさんを挟むように近づき、片手でサムズアップしながら、新しい友達の肩へと同時に手を置きました。
「今からマキナさんのあだ名は『マキにゃん』で決まりですね!」
「よろしくマキにゃん!」
「こ、こいつら……」
私たちが欲望のままに動いていることを察したアンリと、唐突なニックネーム呼びに首を傾げるマキにゃん。
「…………にゃん?」
うむ、反応まで完璧ですな!
そして銀髪猫耳いちごジャム職人――マキにゃんとの親密度が少し上がったところで、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響きました。




