↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
通学路には今日も、スライムが現れる。  作者: 森本みつき
新生ウエストスライマー
12/18

第12話 お母様とプレゼント





 脳ミソお花畑な駄女神様へと人誅を下し、私たちはボロアパートから抜け出します。


 もう少し姉さんから【黄泉比良坂】やスキルボードについて詳しく話を聞こうかとも思いましたが……私たちはともかくマキナさんのメンタルがもう限界でした。



「……目の保養……全てを捧げるつもりでここまで来たのに……私の任務は目の保養…………」



 私と夏姫の間でぐったりしているマキナさん。


 その落ち込みぶりは筆舌に尽くしがたいものがあり……夏姫と私は命を狙われたことも気にせず彼女に同情しました。



「大丈夫? マキナさん?」


「気をしっかり持ってください」



 なにか彼女を励ますネタはないかと私は必死で頭を働かせ、もしかしたらアレが使えるのではないかと閃きます。



「そうだっ……【魔導智(グリモア)】! 私たちがアレを解読できたのは、おそらく姉さんの仕業ですから、マキナさんも姉さんに頼めば解読できるようになるんじゃないですかねっ!」



 最初に視界にログが流れたとき、



《――条件達成により、異界探索オペレーションシステム【天照(アマテラス)】を起動します》



 とか表示されていましたから、私たちが【魔導智】をスラスラ読めるのは、姉さんの仕業に違いないのです。


 私が絞り出したアイデアに、マキナさんは青白い血の気が引いた顔を上げます。



「……それなら狸寝入りしている間に私ももらったわ……先ほどその力が与えられたからこそ……私は彼女が天照様だと信じたのだから……」


「よかったじゃないですか!」


「これで簡単に【魔導智(グリモア)】が読めるね!」


「ええ……本当に素晴らしい祝福を授かったわ……意味不明な言語の解読に費やした、私の一〇年間はまるっと無駄になったけれど……」


「「あっ!?」」



 失敗を悟った私たちが思わず、ハッ、として手を離すと、マキナさんは糸の切れた人形のように、膝から地面へと崩れ落ちました。



「「マ、マキナさあああああああんっ!?!?!?」」



 推しにトドメを刺してしまって慌てる私と夏姫。



「……どうせ私なんて居ても居なくても同じなのよ……そう、これは左遷……私はいらない子だから目の保養として左遷されたの…………」



 地面へとナメクジのように張り付いて絶望を漏らす銀髪美少女を覗き込んで、アンリがめんどくさそうに顔を顰(しか)めます。



「あー……こりゃあ瘴気に当てられて情緒不安定になってんな……どうりでやたらとテンションが高かったわけだわ……」



 そう言って、ひょいっ、とアンリはマキナさんを担ぎ上げ、片手を上げてバイバイしてきます。



「今夜はあたしがこの子の面倒を見ておくからさ、ひとまず今日は解散にしようぜ? 明日からはあたしも一緒に登校するから、いつもの場所に集合な?」



 その肩でマキナさんが弱々しく呟きます。



「……アンリさん……私のことはそこらの畑にでも埋めていってくれないかしら……きっといい養分になるから……」


「土が酸化するからダメだ」


「……そう……私は肥料にすらなれないのね…………」



 鬱々しているマキナさんのことは心配でしたが、看病はアンリが一番得意なので、私と夏姫は手を振り返して二人を見送りました。



「「お大事に~」」



 アンリの実家である【秋山神社】は村の北側にあるため、左側から二人の後ろ姿を照らす西日が、マキナさんのめくれ上がったスカートの中身を丸見えにしております。



「……ボクサーブリーフなんだね、マキナさん」


「……どこぞの暗殺者みたいですね、名前も一文字違いですし」



 その景色には色気が皆無でした。


 そのうちマキナさんとかわいいパンツを買いに行くことを心に誓い、私と夏姫も帰路に着きます。


 姉さんの家は私と夏姫の家の近所にあるので、ものの二分も歩けば我が家の前へと到着し、



「――なんだか今日はすごい一日だったね?」



 バイバイする前に夏姫が話しかけてきたので、私も足を止めて頷きます。



「スライムと戦って、ゴブリンと戦って、挙句の果てにはマキナさんとも戦って……実におもしろい一日でした」


「……君が戦闘狂すぎてボクは心配だよ」



 やはり喉元すぎれば楽しいが勝ってしまうんですよね。


 赫狸様のこともありますし、私も明日からの通学は少しだけ不安ですが……しかし恐れることはありません。



「大丈夫ですよ。なぜなら私には夏姫がついているのですから」



 まあ、一人では不安でも、夏姫とアンリがいっしょならなんとかなるでしょう。



「また君は……そうやってすぐボクを誑(たぶら)かす……」



 こうして頼られると、なんやかんやで冒険に参加してしまうのが、私の幼馴染の凄まじくかわいいところでした。


 そうして親友との友情を深めたところで、私のお腹が、キュルルル、と活動限界を告げる音を立てたので、ここらで私たちも今日の冒険を終えることにします。



「それでは夏姫、また明日」


「うん。次は一人で突っ込んだらダメだからね?」



 私がバイバイすると、夏姫も爽やかにバイバイしてくれて、そうして彼女は私の家のとなりにある和風の壁に囲まれた大邸宅へと入って行きました。


 このあたりの地主である夏姫の家は、とてつもないお金持ちなのです。


 黒鉄丸が気に入ったのか、夏姫がそのまま持って行ってしまいましたが、私にはマキナさんから借りパクしている警棒があるので、しばらく貸してあげることにしましょう。


 幼馴染が無事に帰宅するところを見送って、私はごく普通の自分の家へと入ります。



「ただいまー」



 挨拶をしながら玄関を開けると廊下の奥にあるリビングのほうから美味しそうな香りが漂ってきたので、私はトレッキングシューズを靴箱に突っ込んで、早足で台所へと移動しました。


 廊下の奥まで進んで扉を開け、リビングに入ったら左奥。


 カウンター式のキッチンではエプロンを付けたお母様が食材と格闘していて、



「おかえりなさい。小春ちゃん」



 おっとり私を迎えてくれたお母様の胸へと私はダイブします。



「あらあら、今日は甘えん坊さんなのね?」


「……ちょっと死にそうな目に遭いまして、もうお腹がすっからかんなのです」


「それはたいへん!」



 娘が死にかけたと知ってもおっとりしているお母様は、揚げたての唐揚げを私の口元へと差し出してくれます。



「はい、あ~ん」


「あふっ!? ハフハフッ!?」


「それでそれで? はじめての大冒険はどうだった?」



 当たり前のように冒険のことを聞いてくるお母様。


 熱々の唐揚げを娘の口に入れてから聞いてくるあたりがドSですが、なんとか好物を咀嚼して飲み込んだ私は、お母様からの質問に答えます。



「んぐっ……膝蹴りが意外と使えました! 人型生物って鼻を蹴られると硬直するんですね!」


「そうなのよ! そこから二撃、三撃と急所に叩き込んで行けば、ずっとずっとこちらのターンなの!」


「やはり攻撃は最大の防御ということですか……【戦盾術】取ったの失敗でしたかね?」


「あら! 小春ちゃんもそれ取ったの? 若い頃のお母さんとおんなじ! 盾は防具ではなく武器だから、受けずに叩けばいいのよ!」


「それには盾の素材が問題でして、硬い盾になるような物ってなかなか売ってないんです」


「あー……まだ市販や自作の武器で戦ってるような段階かぁ……懐かしいわねぇ……私も最初はそんなだったわー……」


「……市販以外の武器も手に入るんですか?」


「そりゃあ、あそこはダンジョンなんだから、潜っていれば武器くらい拾えるわよ」


「なんとっ! それではお母様の使わなくなった武器をもらえたりとか!?」


「私のお古はダ~メ! 魔窟産の武器には意思が宿ってるから、長年使ってると装備者が固定されちゃうの!」


「ええ~……――」



 それから晩御飯の準備を手伝いながら、私はお母様と魔道の話題でめちゃくちゃ盛り上がりました。


 赫狸様の出口は二つある、とか。


 危ないところほど宝箱がよく見つかる、とか。


 地下二階からはモンスターがドロップアイテムを残すようになる、とか。


 これまで私がダンジョンに突っ込まないよう話すことを我慢してたのか、お母様のおしゃべりは止まらず、街にある道場から帰ってきたお父様に止められるまで続きました。



「あまりネタバレしてはダメだろ? これは小春の冒険なんだから」



 と、お母様を嗜めるお父様の言葉も一理あったので、私はそれ以上の情報収集を諦めて、食卓に並んだおかずへとお箸を伸ばします。


 今夜のメニューは唐揚げに豚汁にバンバンジーサラダ。


 どれも私の好物ばかりで、主食は私の魔道デビュー祝いなのか赤飯が出ました。


 タンパク質が多いあたり、やはりお母様は筋肉至上主義者なのかもしれません。


 昼間にたくさん運動したぶんモリモリとご飯を平らげ、二回のおかわりを挟んで満足した私が食後の緑茶を啜っていると、お父様とお母様がそそくさと隣室へと消えて、そしてリボンの付いた大きな紙袋を持ってきました。



「じゃじゃーん! ここで今日から上成村のお務めに参加する小春ちゃんに、パパとママからプレゼントがありま~す!」


「なんとっ!!!」



 このタイミングで現れたプレゼントに、私のワクワク感は爆上がりです。


 だってこんなの普通のプレゼントでないことは確実ですからっ!



「開けていいですか!? 開けていいですよね!?!? ダメって言ってももう開けます!!!」



 お母様からストップがかからなかったところを見るに、これは開けてしまっても大丈夫なのでしょう。


 そうして緩く巻かれたリボンを外して紙袋を開いた先には、見慣れたスクールバックが入っていて……攻撃力の高い武器を期待していた私は少しテンションを落としました。



「予備の鞄ですか……」



 スクールバックの側面には、私が持つ最新型の物とは違って北星女学園を示す『HOKUSEI』の文字が刻まれており、古い物なのか、そのフォントはところどころが剥がれております。


 武器じゃなくて残念だけど、デザインはこっちのほうがかわいいので嬉しい……そんな微妙な気持ちに私がなっていると、後ろからお母様が抱きついてきます。


 すわ『チョークスリーパーかっ!?』と身構えましたが、お母様の手はスクールバックを持つ私の手へと優しく添えられただけでした。



「これはね……私が若いころに使っていた【魔法鞄(マジックバック)】なの」


「マジックバック!?」


「そ。魔窟でレアアイテムを入手して、専門の職人に特殊な加工をしてもらうとできるんだけど……かなり良い物だから小春ちゃんにあげる」



 試しに手を突っ込んでみると、その中は外から見た時よりも空間が広くなっていて、その不思議な鞄に私のテンションは再び爆上がりました。



「おっ! おおおっ!! おおおおおおおおっ!!!」



 これ、アンリが持ってた鞄と同じやつだ!


 アンリと夏姫のママさんとうちのお母様は同級生なので、おそらくこれらはお母様たちが現役のJKだったころに装備していたものなのでしょう。



「中身の大きさは普通のバックの五倍、重さは一〇分の一まで軽減できるから、上手に使いなさい?」


「ありがとうございますっ!!! お母様っ!!!」



 感極まってお母様へと抱きつく私。


 あらあら、と微笑むお母様。


 そんな仲の良い親子へと、ひとり寂しくお父様が呟きます。



「小春……紙袋の底に僕が用意したプレゼントもあるから……そちらも上手に使ってね?」


「はいっ!」



 お父様からのプレゼントは【方位磁針(コンパス)】とバックに吊り下げることもできる【ランタン型懐中電灯】でした。



「……魔道の中でもコンパスは使えるんだよ?」



 さっそくマジックバックへと二つのアイテムを収納した私に、お父様は寂しそうに呟きました。





     ◆◆◆





 両親からのサプライズで素敵な晩御飯タイムを過ごしたあと。


 お風呂に入って二階にある自室へと戻った私は、寝る前に普通のスクールバックからルーズリーフを取り出してステータスを更新しておきます。




【ステータス】


 名前:御剣小春

 年齢:15歳

 性別:女

 状態:満腹

 身長:163センチ

 体重:禁則事項


 職業:【女子高生】【剣士】


 加護:【太陽神・天照大御神の加護】

    【山神・古峰坊の加護】

    【呪神・赫狸の加護(微)】


【所有スキル一覧】

 体術:【剣術LV1】【戦盾術LV1】【軽業LV2】

 感覚:【直感LV1】

 強化:【持久力強化LV1】

 魔法:【雷魔法LV2】


所有SP:1SP




 放課後の冒険で【軽業】がレベルアップして、新しく【直感】スキルを取得しました。



「ふっふっふ……最初は不便だと思いましたが、こうしてステータスを自作するのも楽しいものですね……」



 流石は姉さん。


 普段から引き篭もってゲームをやりこんでいるだけあって、プレイヤー心理を熟知しているみたいです。


 こういうのって少し手のかかるほうが優れたユーザーインターフェースを持つゲームよりも記憶に残るものなんですよね……。


 これは命を賭けた冒険に挑むためのステータスなのですから、ちゃんと手間をかけて覚えておかないと危ないということなのでしょう。


 そして完成した自作のシートを丸暗記した私は、



「……いずれ夏姫たちのステータスも作らせなければ」



 と画策して、髪を乾かし、眠気まなこを擦りながらベッドへと潜り込みます。


 今日は午前と午後に二回も不思議な大冒険をして、楽しい思いも怖い思いもたくさんしたので、もう体力が限界でした。



「……流石に腹筋は免除でいいですよね…………」



 ルーティーンとしている運動も、これだけ疲れていたらやる気になれません。


 まあ、もともと三日に一度くらいしかやってないんですけど……。


 まだ時刻は夜の九時三〇分を回ったばかりですが、夏姫から雑談のデスコが送られてこないところを見るに、あちらも今日はお疲れか、スキルボードを熟読することに忙しいのでしょう。


 親友からの連絡がないと判断した私は、いつものようにスマホの目覚ましを午前六時にセットして、マジックバックを抱きしめて就寝することにします。


 掛け布団を肩まで引き上げて、部屋の電気を消し、そして私は赤髪の美女を思い浮かべながら笑顔で暗闇へと呟きました。



「……明日も楽しく冒険できますように」



 夜中に太陽神へと祈るのは意味があるのかわかりませんが、徒歩二分のところにいる神様になら届く気がしました。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんか満腹ってワードがあると不思議なダンジョンって印象ですね!(状態だけど) 拾ったものを装備・強化して、時には拾い食いして飢えをしのいだり? まあ黄泉平坂で拾い食いしたらとんでもない事になっちゃうけ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。