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通学路には今日も、スライムが現れる。  作者: 森本みつき
新生ウエストスライマー
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第11話 御神照子と乙女の任務




 まだ気絶しているマキナさんをお日様の香りがする万年床に寝かせて、私と夏姫はいつものように嫌がる姉さんへとジーンズを穿かせました。



「う~……パンイチでコタツに入るのが至高なのに……」


「その気持ちはちょっとわかりますけど、今はお客さんがいるのでちゃんとしてください」


「なんだよー……少しは私のパンツ姿にドキドキしろよー……」



 唇を尖らせる姉さんに、夏姫が柳眉を逆立てます。



「あっ!? また無駄に新しい勝負下着を買っただろ!? そんなことしてるから家賃が払えなくなるんだぞ!」


「……美女の下着を無駄とか言うなし」



 ペチン、と口答えする姉さんのお尻を叩く夏姫。



「あふんっ!?」



 気持ち悪い声を出す姉さん。


 ズボンのほうは夏姫が担当してくれたので、私はヘアブラシを片手に上半身を整えます。



「ほら、もう夕方なんだから寝癖も直して」


「おー」



 そうして私と夏姫が姉さんのお世話を終えてコタツの左右に入ると、しぶしぶズボンを穿いてホラーゲームの続きをやりはじめた姉さんの前で、アンリが折り目正しく正座しました。



「それじゃあ改めて二人に紹介するわ。こいつが秋山神社の御祭神――【天照大御神】様だ」


「神でぇす。イェイ」



 ……軽い。


 ワイヤレスコントローラーを片手に横ピースするウザい姉さん。


 その唐突な紹介に、私と夏姫は姉さんへとジト目を向けます。



「……天照大御神様って」


「……日本神話の?」



 今日はこれまで散々不思議な目に遭ってきましたし、いちおう思い当たる節はいくつかあるのですが……普段の行いがあまりにもだらしないので、いまいち姉さんが神様だと言われてもピンときませんでした。



「そうだぜぇ。私こそが日本神話の偉い神様だぜぇ」


「つっても……ショーコ姉は伊勢にいる本体から『不要な部分』として切り離された残念な部類の【分(わ)け御霊(みたま)】で……美少女たちを運命の赤い糸でグルグル巻きにして遊ぶ、ただの駄女神でしかないけどな……」



 遠い目をするアンリと、堂々と胸を張る姉さん。



「そうっ! つまり私は『美少女の裸踊りが見たくて岩戸の外に誘い出される』という、時代を先取りしすぎた神話から生まれた――『てぇてぇを司る女神』なのだっ! さあっ! 崇め奉れ、小娘どもっ!」



 二人の説明を聞いた私は、それを簡潔に纏めます。



「つまりはピッコ◯大魔王みたいなものですか」



 それも炊飯ジャーに封印された邪悪なほうの。


 私の指摘に姉さんは、全身から無駄に強者のオーラを発します。



「……よぉし、この天照様を緑の宇宙人扱いするとはいい度胸だ……喧嘩すっか? 言っとくけど、私が本気出したらめっちゃ強いからな? アンリに戦い方教えたのも私だし、マジでRPGに出てくる裏ボスレベル」



 ちょっとその言動がウザすぎたので、私は手にしたハンマーで姉さんの頭をシバきました。


 ピコッ!



「んんっ! 正体を明かしたのに、この粗雑な扱い……むしろご褒美だぜ!」



 姉さんは相変わらずキモい姉さんだったので、私はアンリへと証明を求めます。



「なんかこう……確たる証拠みたいなものはないんですかね? 確かに名前と見た目は神々しい感じですけれど……いきなりこのヒキニートが神様だと言われましても……」


「つまりそれは私が美神ってこと!?」



 ぶざけ続ける姉さんに、夏姫が柳眉を吊り上げます。



「ちょっとショーコ姉は真面目にしてっ!」



 ピコッ!



「あ、ハイ……」



 ピコハンをシェアした夏姫の突っ込みにシュンとなる姉さん。


 このボロアパートの大家さんは夏姫の母親なので、格安でこの部屋を借りているショーコ姉さんは大家の娘である夏姫に弱いのです。


 そんなまったく威厳のないダメ大人の姿を見て、アンリは深々と嘆息しました。



「……まあ、普通はそういう反応になるよな」



 私の意見を真っ当と判断したアンリは少しどう説明したものかと思案してから、部屋の壁にかかるスカジャンのポケットからタバコを取り出して、それを姉さんの口へと咥えさせます。



「ショーコ姉、小春が赫狸様に気に入られた」


「ん? ……ああ、どうりで獣の匂いがするわけだ」



 アンリに喫煙を促された姉さんは、シュボッ、と人差し指の先から小さな炎を出して、慣れた様子で咥えたタバコに火をつけます。


 そのまま姉さんは大きく吸い込んだ煙を、ふーっ、と私に吹きかけて、



「ぷあっ!?」



《――御剣小春は【呪神・赫狸の加護】を失った!》

《――御剣小春は【道連れ】を失った!》

《――【呪神・赫狸の加護(微)】を再獲得しました》



 ログが流れるのと同時に、赫狸様の気配が遠くへと離れていくのがわかりました。



「ほれ、これでしばらくは大丈夫だろ」


「!? ほんとに神様だった!?」



 しかし同時に、私はとても残念な現実に気がついてしまいました。



「…………うん?」



 ちょっと待ってください……姉さんの言っていることがすべて本当ならば、姉さんはてぇてぇを司る駄女神ということで……。



「……つまり私がトラブルエッチ体質なのも、ぜんぶ姉さんの仕業ってことですか?」


「おうよ! お前が男子だったなら同級生に刺されるレベルの『神祝福』だっただろ?」



 人の青春をめちゃくちゃにする恐ろしい力を与えておきながら、平然とゲームを続ける姉さんに私は力強く抗議しました。



「なにが神祝福ですかっ!? こんなの女子の私にとってはただの『呪い』ですよっ!?」


「ハハッ、どっちも似たようなもんじゃねーか」


「んなっ!?」



 そんな神様らしい理屈に私が愕然としていると、夏姫が眉根を寄せて訊いてきます。



「……どうして小春は姉さんが神様だって納得できたのさ?」


「なんだ? 夏姫はまだ私を疑ってんのか? しょーがねーなー」



 続けて姉さんは困惑する夏姫へと向けて、チュッ、と投げキッスを放ちます。


 もちろん夏姫はそれを華麗に避けて、



「あっ!?」



 何かを受信したらしく、ガクッ、と床に突っ伏しました。



「……どうしたんですか?」


「……今ので【天照大御神の加護】と、スキル【神乳】が手に入った…………本物だこれ……」


「だからそう言ってんだろー」



 近所のお姉さんが有名な神様だった現実を知ってしまった私は、とりあえず最も気になったことを訪ねます。



「……【神乳】ってなんですか?」


「おっぱいの品質が良くなって、絶対に垂れなくなる能力だ」


「私もそちらを希望します」


「いや、小春にこれは必要ないから」



 ピコッ!


 ピコッ!


 ピコッ!



 そして私が姉さんに怒りの三連撃を叩き込んだところで、アンリが「ゴホンッ」と咳払いして話題を本題へと戻しました。



「今日の体験で察しているとは思うが、あたしたちが暮らすこの村は普通の田舎村じゃない」


「まあ……『変わった風習があるなー』とは……」


「前々から思ってましたけど……」



 あっちの山には絶対に入るな、とか。


 赫狸様に悪戯したら極刑、とか。


 ショーコ姉はみんなで養え、とか。


 小さいころは田舎の村なんてみんなそんなものか思っていたのですが……最近になってうちの村がかなり特殊だとわかってきたんですよね……。


 だいたいヒキニートをみんなで養えとか意味がわかりませんし。


 納得する私と夏姫の様子にひとつ頷き、アンリは説明を続けます。



「日本有数の霊山である【久遠岳(くおんだけ)】。それを鎮めるために存在する異能者の村、それが【上成村(かんなむら)】の本当の姿……つまりこの村の住人はみんな異能の力を持っているんだ」


「……私たちの両親もですか?」


「ああ、オヤジはともかく、オフクロたちはマジで強い……力を得たからって調子に乗ってると半殺しにされるから気をつけろ……」



 真剣な顔で忠告してくるアンリに私は深々と頷きました。


 うちの両親の夫婦喧嘩は最初から最後までゴリゴリの肉弾戦で行われるのですが、その時のお母様の戦いっぷりは凄まじいものですから。


 戦績はもちろんお母様の全戦全勝。


 お父様の古武術なんて足元にも及びません。


 たとえ磨き抜かれた関節技で手首を固められようと、自分の手首がぶっ壊れることすら構わずに、相手が倒れるまでひたすら殴り続ける。


 その圧倒的なまでの武勇に魅了されて、私は数々の喧嘩技を修得してきたのです。


 これまでお母様たちがどんなに激しい夫婦喧嘩をしても翌日にはケロッとしていたのは、それこそ異能の力を使っていたからなのでしょう。



「なるほど……どうりで死にかけのお父様も、すぐに回復していたわけです」


「……それの治療してたのうちのオフクロな? お前ん家の夫婦喧嘩はマジでギリギリまでやるから、もっと手加減させてくれ」


「……うちの両親がご迷惑をおかけしてすみません」



 そして我が家の不思議に私が納得したところで、アンリが話を本題へと戻します。



「そんなわけで……これからは小春と夏姫にも魔道の浄化を手伝ってもらうことになる。一五歳から一八歳までの三年間、乙女があの通学路を行き来して【久遠岳】を浄化する一助となるのが、古くから続くこの村の習わしなんだ」



 酷い風習を告げられて、夏姫が顔色を悪くします。



「……それはつまり、ボクたちにあの通学路を使い続けろってこと?」



 そこで親友を危険地帯へと送ることを躊躇している様子のアンリから、呑気にホラーゲームをしている姉さんが説明を引き継ぎました。



「そうだぜー。お前ら【黄泉比良坂(よもつひらさか)】に引き寄せられやすい見た目してんだから、そういう運命だと思って諦めろー」



 朝に見たログや古事記にも出てくるその名称が、あの魔道の正式な呼び名なのでしょう。



「急に諦めろと……」


「言われましても……」



 夏姫と私が抗議したところで、ちょうど姉さんの操る主人公がキラーに捕まって、ゲーム画面に『GAME OVER』の文字がデカデカと表示されました。


 コントローラーを置いた姉さんは、タバコの紫煙をプカプカとふかしながらニヤリと笑います。



「べつに修行しなくてもいいけどよー……いわゆる美人薄命ってやつで、【黄泉の国】で醜女(しこめ)に変わった【伊邪那美(イザナミ)】は美しい娘に嫉妬しやすいんだ。小春も夏姫も特別にかわいいんだから、今のうちに魔道を歩いて強くなっておかないと――」



 そこで姉さんはこちらに振り返って、急に真面目な声を出しました。



「――お前ら二〇歳(はたち)になる前に殺されるぜ?」



 ごくり……。


 神々しい姉さんのオーラに気圧される私たち。


 ……【黄泉の国】の【伊邪那美】って……確かそれは日本神話に出てくるお話でしたか。


 色々あって死んでしまった【伊邪那美】は【黄泉の国】で醜い死者へと変わってしまい、その変わり果てた姿を見て逃げ出した【伊邪那岐】を恨んで『一日に千の命を殺す』と宣ったとかなんとか。


 つまり私たちはその千人に選ばれやすい体質ということなのでしょう。


 テレビ画面には恐ろしいキラーの顔が映っていて、画面の上から垂れてくる流血のエフェクトが、まるで私たちの未来を暗示しているようにも見えました。


 赫狸様の怖さを知ってしまった私は、できればあの通学路を使いたくないのですが……どうやら通い続けるしか選択肢がないみたいです。



「……危なくなったら姉さんが助けに来てくれるとか?」



 神様がついていてくれたら安心できるので、微かな期待を込めておねだりしてみますが、しかし姉さんは私の手からピコハンを奪って、ピコッ、としてきました。



「甘ったれんな。お前らにはもう十分な力を与えたんだから、あとは自分たちの力でどうにかしやがれ。大陸の人間にお優しい神様や仏様とは違って、この国の神々は厳しいんだよ」


「「そんなぁ……」」



 軽く絶望する私と夏姫に、ショーコ姉は嘆息して続けます。



「まあ、助けに行ってやりたい気持ちはあるんだが……私や村の大人があの道に入ったら赫狸と殺し合いになっちまうからな……あいつは子供にゃ優しいが、縄張り意識が強いんだ」



 珍しく真剣な顔で言うあたり、そこらへんは姉さんでもどうしようもないのかもしれません。


 タバコを深く吸い込んで、吐き出した煙とともに姉さんは念押ししてきます。



「だから私だけじゃなく、他の村人たちの助けも期待しないように――ほれ、お前もわかったな?」



 そして姉さんがマキナさんの頭を、ピコッ、と叩くと、マキナさんは関節を外して一瞬で私たちが巻いたロープから抜け出して素早く土下座しました。



「委細承知致しましたっ! 天照大御神様っ!!」



 どうやら狸寝入りして話を聞いていたらしいマキナさんも、姉さんを本物の女神様だと認識しているらしく、絶対服従の姿勢で続けます。



「小春さんたちを護衛し、久遠岳を攻略する重大な任務っ! たとえこの魂を燃やし尽くしてでも果たしてみせますっ!」



 やたらと気合いの入ったマキナさんの熱量に押されて、アンリと姉さんは上半身を仰け反らせました。



「……おい、ショーコ姉。なんか任務とか言ってるけど……ちゃんと神託は出したんだろうな?」


「……ん? それなら『十五くらいのピチピチ美少女! なる早で久遠岳までよろ!』って頼んだけど?」


「……ちょっ!? そこはせめて女神らしくしろよっ!?」



 二人でこそこそしたあと、アンリは頭を抱え、ショーコ姉が気まずそうにマキナさんへと話しかけます。



「あー……いや、小春と夏姫もわりと強いし、アンリがいれば大半の危機は乗り越えられるから……特に護衛をする必要はないんだけど……」


「? 私は彼女たちを守るために喚ばれたのでは?」



 平伏したまま困惑する美少女を前に、これまで少しだけ神様らしい威厳を見せていた姉さんは、腕組みして何度も頷きながらダメな姉さんへと戻ります。



「先代も三人だったし、久遠岳を清めるだけならこいつらだけでも十分なんだけどさ……やっぱり美少女たちの『てぇてぇ日常』を満喫するためには、三人だけでは足りなかったんだよ」


「……てぇてぇ?」


「様式美ってやつだよ、様式美。漫画やアニメでキラキラタイムしてる美少女たちは、基本的に四人か五人でパーティーを組むものだろ? 『けい◯ん』とか、『ゆ◯キャン』とか、『ぼざ◯』とかさぁ」



 姉さんは女の子たちが織りなす日常系アニメをこよなく愛するオタクでもありました。


 一般女子には理解しがたい濃厚な情報に、マキナさんは困惑の表情を浮かべます。



「……ゆる? ……ぼざ? 失礼ながら、それは新たな真言(マントラ)でしょうか?」



 真言(マントラ)とは密教で使われる短い祈祷のことです。



「まあ、作品名を唱えることが祈りにはなるわな。そうして地道に稼いだ知名度とかSNS人気は、巡り巡ってスポンサー(かみさま)まで届きそうだし」


「???……………………つまり私の任務内容は?」



 頭に大量の疑問符を浮かべて任務を求めるマキナさんへと、そして姉さんは無慈悲に駄女神らしいことを言いました。




「うむ! つまりお前の任務内容は――『私の目の保養になること』だっ!」




 もちろん夏姫とアンリと私は、その呆けた頭に会心の三連撃を叩き込みました。



 ――ピコッ!


 ――バシッ!


 ――スッパアアアアン!



 たとえ姉さんが本物の神様でも、私たちの関係性はあまり変わりませんでした。





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― 新着の感想 ―
>小さければ垂れない、そう思っていたときがありました。 という話を聞いたことがありますが、無乳なら垂れないか… 必要なのは育乳スキルですね
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