12 日常
朝焼けが照らすキャンプ場。燃え尽き、灰と化した焚き木の前に旅人は静かに腰を下ろしていた。
不思議と懐かしさを覚えるお伽話の朗読。多くの人々が自分の語りに耳を傾け、楽しんでくれたことを思い返しながら、彼はしみじみと喜びを噛み締めていた。
――旅人の朝は早い。
早くから目を覚まし、その土地特有の環境や環境生物を観察するためだ。
こうした知識や見識が朗読へと繋がっていく。だからこそ、この時間は欠かせなかった。
そして観察を続ける中で、新たな発見に出会うこともある。
例えば、環境生物の中にも“魔族”が存在するという事実だ。
魔族といっても、魔物や魔人のような攻撃性を持つ存在ではない。ただ純粋に生を全うするだけの生物。
不思議なことに、元から存在する生物たちの輪の中へ自然に溶け込み、共に生活している。よほど注意深く観察していなければ、その存在に気づくことはないだろう。
そして魔族には、絶命すると消滅するという特性がある。決して形は残らない。
だからこそ、鳥や魚、虫の姿をした彼らの生涯に、僕は他の生き物とは違う儚い美しさを感じていた。
そんなことを考えながら身支度を整え、旅の準備をする。
そして、キャンプ場の商人や冒険者に別れを告げ、僕はまた新たな出会いを求めて歩き出した。
今朝の朝食は、昨晩の朗読への礼として分けてもらった“サンドイッチ”と呼ばれる食べ物だ。
とても美味しく、あっという間に平らげてしまった。
こうして旅を続け、環境生物を観察し、多くの冒険者や商人、村人と交流を深めること。美味しい食べ物を味わうこと。そして何より、自分の朗読を多くの人に届けること。それが旅の醍醐味だった。
そんな想いにふと耽っていた、その時だった。
「金目の物を置いていきな」
声のした方へ意識を向けた瞬間、悟る。
――囲まれた。
そこにいたのは盗賊だった。
荒野や森に拠点を築き、単独で旅をする冒険者や旅人、商人を狙って金品を奪う者たち。
完全に油断していた。
物思いに耽っていた自分の落ち度を悔やむ僕をよそに、盗賊は苛立った声で続ける。
「おい、どうした? 金目のものを置いて行けって言ってんだ」
こういう時、先走って攻撃的な態度を見せるのが一番良くない。
「すみません。僕は詩しか持たない旅人です。金品はあいにく持ち合わせていません」
冷静にそう答える。
「そうか。なら仕方ないな」
ゴンッ、と鈍い音が背後で響いた。
その瞬間、視界が暗転する。
それと同時に、僕の意識は途切れた。




