11 お伽話①
暖かく、優しい音を立てる焚き火。その音さえかき消すほどの賑わいに満ちた、荒野のキャンプの夜。
旅の途中で立ち寄った旅人は、キャンプに集う冒険者や商人たちの疲れを癒すかのように、お伽話の朗読を始める。
――お伽話。
その言葉には、不思議と懐かしさと安心感が宿っていた。
旅人はそんな想いを胸に、ゆったりと語り始める。
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むかしむかし――
まだ風が城壁をなで、鐘の音が遠くまで響いていたころのお話でございます。
あるところに、それはそれは大きな城下町がありました。
高い塔をいただく立派なお城と、にぎやかな市場、人々の笑い声……本来ならば、幸せが満ちているはずの町でございました。
けれども、その国には恐ろしい王がおりました。
王はたいそう気まぐれで、己の気に入らぬ者があれば、兵士であろうと執事であろうと、ためらいもなく命を奪ってしまうのでした。
その横暴ぶりはたちまち町じゅうに広まり、人々は笑うことすら忘れ、怯えながら日々を過ごしておりました。
さて、ある日のこと。
退屈に耐えかねた王は、兵士を呼びつけて申しました。
「暇で暇で仕方がない。町の者を七人ここへ連れてまいれ。余を楽しませよ。もし余が退屈すれば死罪、楽しませれば褒美をくれてやろう。」
逆らえば命はない。
兵士たちは青ざめながら、町じゅうに号令を響かせました。
最初に現れたのは、大きなたてがみを揺らす力自慢の大男。
自らを“ライオン”と名乗るその男は、誇らしげに鍛え上げた肉体を披露いたしました。
しかし王は鼻で笑い、
「そのようなものに興味はない」と言い放ち、彼を処してしまいました。
次に呼ばれたのは、町一番の踊り子、可憐な“シープ”。
花のように優雅な舞を舞いましたが、王は激怒し、
「つまらぬ!」
と一言、彼女の命も奪ってしまいました。
兵士は震えながら考えました。
“見せるだけではダメなのか……”
そこで選ばれたのは、大食い自慢の三人。
何かを見せるだけではダメだ。そう考えた兵士は町一番の大食いを3名選び誰が多くの量を食べる事ができるか対決をさせる事にしました。
眠りと食をこよなく愛する“グリズリー”。
いつも口を動かしていると噂の“ピッグ”。
そして、人の皿にまで手を伸ばすずる賢い“フォックス”。
料理長が腕をふるった豪華な料理が並び、三人の戦いは始まりました。
うとうとしながら食べるグリズリー。
平然と他人の皿を奪うフォックス。
黙々と、自分の分だけを確実に平らげるピッグ。
その壮絶な戦いに、王は唾をのみ込み、目を離せずにおりました。
けれども勝負が決まったそのとき――
王は腹を押さえて叫びました。
「腹が減った! つまらぬ! 皆、死罪じゃ!」
三人もまた、命を奪われてしまいました。
町の者はついに誰も名乗り出なくなりました。
兵士は絶望し、膝をつきかけたそのとき――
みすぼらしい身なりの若者が静かに申し出ました。
「私にお任せください。」
その若者は“スネーク”と名乗り、
「十日ほどお待ちください」とだけ言い残して姿を消しました。
その十日のあいだ、王は苛立ちに任せて家来や兵を処し続けました。
城は次第に、空っぽになっていきました。
そして十日目。
スネークは戻り、静かに告げました。
「王の横暴、これにて終わらせましょう。」
その言葉とともに――
空を裂くように無数の矢が城へと降り注ぎました。
驚く兵士に、スネークは申しました。
「私は、隣国の優しき王に願い出たのです。十日あれば、王は自ら守る者を減らすであろう、と。」
やがて隣国の王、みずからを“ユニコーン”と名乗る者が城へ攻め入り、
暴君は討たれました。
国は新たな王のもとに治められ、
スネークはその功により王族として迎えられました。
こうして町には再び笑い声が戻り、
人々は安心して眠れるようになったのでございます。
――そしてこの国は、末永く平和に栄えましたとさ。
めでたし、めでたし。
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気がついた時には、先ほどまでの賑やかなキャンプ場は一変し、水を打ったように静まり返っていた。
誰もが旅人の紡ぐお伽話に耳を傾け、その物語を静かに味わっていたのだ。
そして、朗読家が語り終えると、堰を切ったように拍手が湧き起こり、先ほどの賑わいをも凌ぐ熱気がキャンプ場を包み込んだのだった。




