10 魔王と呼ばれる者
――魔王。
それは魔族を統率し、魔族を生み出した存在。
不思議なことに、その姿を見た者は誰一人としておらず、一種のお伽話のような存在とも言われている。
それでも、冒険者たちが旅に出る最大の理由は、
この“魔王”を討伐することだった。
なぜ、存在するかどうかも分からない者を、
討伐の目的にしているのか。
それは――
魔族を生み出す魔王が消えれば、魔族の数は減少していくと言われているからだ。
そして、魔王討伐という偉業を成し遂げれば、
大きな勲章と、国から莫大な報酬が与えられる。
さらに、人々は魔物の恐怖から解放され、
平和な世界が訪れる――そう信じられている。
だからこそ、冒険者は旅に出た。
俺も、その一人だった。
「あれが……魔王」
そう呟いた瞬間、俺は目を覚ました。
気づけば、目の前には、
先ほどまで封じられていたはずの禁書を、いつの間にか手に掴んでいた。
長く不思議な体験をしてきたはずなのに、村長から見た俺は、意識が別の場所へ飛んでいた事も気づかないほど、一瞬の出来事のようだった。
あの体験を経て、疑問は山ほど増えた。
だからこそ、この禁書を読めば、何かが分かるかもしれない。
村長と視線を交わし、俺は小さく頷く。
そして――
恐る恐る、禁書を開いた。
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この書物を読む者へ。
どうか――この町を救ってほしい。
私の名は、ウェルダ・ジンクス。
“魔王”と名乗る、奇妙な容姿の者の気まぐれによって生かされた、生き残りの一人だ。
信じられないかもしれないが、
今あなたが読んでいるであろうこの町は、かつて“商業の中心”と呼ばれるほど、賑わいに満ちていた。
それが、ある日突然――
人の姿に化けた、悍ましい角と長い耳を持つ魔人によって、町も、そこに暮らす人々も、すべて壊滅させられてしまった。
そして、後に記す“四つの条件”を強制的に突きつけられ、私たちは契約を結ばされ、その後、魔王は姿を消した。
あの出来事は、すべて悪い夢だったのではないか。
私は何度も、そう考えた。
けれど、目覚めるたびに、現実が私を打ちのめす。
――いつか、私たちは救われるのだろうか。
町の復興のため、私たちは全力を尽くしている。
だが、たった二人で町を元に戻すことは、あまりにも困難だった。
そのため、町の一部だけを使い、そこから少しずつ発展させていく道を選んだんだ
復興作業の最中、旅の行商人から奇妙な話を聞いた。
見たこともない“環境生物”が現れ、本来そこにいた生物と縄張り争いを始めているという。その影響で夜に外を出歩くことも危険になってしまったのだと。
それと同時期に南へ進んだ先の城下町でも、同じように人間のような“未知の生物”が現れたそうだ。
話が逸れてしまったが、
世界は今、確実に“変わろう”としている。
その異変の最大の要因は、
“魔王”と名乗る存在が現れたことにあると、私は思っている。
だからこそ――
魔王を倒すことができれば、すべての問題は解決できるはずだ。
この町にかけられた契約も、きっと消える。
この本を読む方へ。
どうか、お願いします。
私たちを、助けてください。
ーーその後に続く内容は、
先ほど見た“村の記憶”と、同じものだった。
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「やはり……魔王を倒さないと、ダメなのか……」
禁書を読んでも、
“魔王”と名乗る存在については、分からないことばかりだった。
それでも、ひとつだけ“収穫”があった。
――南の城下町。
そこに、100年前の手がかりがあるかもしれない。
そんな希望を胸に抱いていると、
村長が恐る恐る、声をかけてきた。
「いかがでしたでしょうか……?私の先祖の著書は」
「……せ、先祖???」
思わず、聞き返す。
「そうです。私はジンクス家の子孫です。
名前を申し遅れましたが、リーヴァル・ジンクスと申します」
冷静に考えれば、当然だった。
この禁書を守るのは、ウェルダさんの一族――その契約があったのだから。
俺は、禁書に記されていた内容を、
村長――いや、リーヴァルさんに、すべて伝えた。
ひと通り話し終えたあと、俺は、はっきりと告げる。
「俺の旅の目的は、今も昔も変わらない。
――魔王を倒すことだ。
リーヴァルさんの代で、この呪いを必ず終わらせてみせる。だから……待っててくれ」
リーヴァル村長は、
俺の言葉を聞き、静かに涙を流した。




