番外2 三人の休日(1)
番外編です。全9話、二日おきに投稿する予定です。
アイリーンとバーサの合格が決まった後の日曜日。二人はウエストジーニアスの郊外にあるラントパーク大自然公園へ、ピクニックに行くことになった。
名目はピクニックだが、アイリーンとバーサには各々異なった目的があった。
アイリーンは、そこでしか咲いていない珍しい花をたくさん摘んで、香りの元にする事。そして、バーサの方は久しぶりに自然の花や虫たちをゆっくり堪能して、あわよくば薬草を採取できればいいなと、考えている。
御者を買って出たのはかつてアイリーンの修行時代の同僚であるリノ。勿論、武術の心得もある彼女なので、護衛も兼ねていて万全だ。
……
ドッシャン!
「ふぅ……」
「ん?なに?こんな朝早く表に誰かいるの?」
当日の朝早くからアイリーンがお昼のサンドイッチを作っていると、まだ薄暗い外でブツブツと話声が聞こえる。
「よっこいしょっと。うふふ、いるいる」
──あっ、この聞き覚えのある声はバーサだな
アイリーンが慌てて窓から外を覗いてみると、そこにはまだ梳かしてもない赤い髪を振り乱し、漬物石程の大きな石をひっくり返しながら、土の上に居る何かを摘まみ取っているのだ。
──ちょっと!ろくに髪も梳かないで一体何をやっているのよあの娘は!
アイリーンは手に持つパンを放りだし、部屋から飛び出した。
「ちょっとバーサァ!こんな朝早くから何やっているのよ、それに汚れまくっているじゃない」
ニンマリと笑うバーサの手や頬には、黒っぽい泥がへばり付いている。
「あら、アイリーンお嬢様」
「もう、アイリーンお嬢様は止めてって言ってるでしょ!あぁ、服もどろどろ、染みになる……ちょ、ちょっとぉ、袖で汗を拭かないでよ」
アイリーンはため息交じりに懐から出した手拭いでバーサの汗を拭った。
そして、ふと彼女の足元に目をやると取り除いた石の下で、何やらもぞもぞ動き回る姿をとらえた。
「ひ、ひゃあ!な、なにかもぞもぞ動いている」
「あ、早く入れなきゃ」
動き回るものを払い除け、傍にある土を小瓶に詰め込んでいくバーサ。
アイリーンの大きな眼がこれでもかというくらいに見開かれる。
「ば、バーサ!この泥の瓶は何?」
バーサは泥だらけの手で瓶を持ち上げ、アイリーンの目の前に持ってくる。
「これはね、エビダンゴムシの糞なの。大丈夫、糞って言っても全然匂わないから」
先ほどもぞもぞ動いていた虫の糞だと知った途端、アイリーンの全身に鳥肌が立つ。
やめて!と言いそうになるが、きっと彼女のやる事なので何か意味があるのだろう。アイリーンはゴクリと言葉を呑み込んだ。
「も、もう。わかったから、朝ごはんまでには終わらせて綺麗にしておいてね。今日はピクニックなんだからね」
後ずさりするアイリーンなど気にも留めず「はーい」と言ってバーサは再び作業に戻る。
──もう、バーサは一体何がしたいのかしら……
……
朝食は後で食べるというバーサを放っておいて、軽く一人で朝食を済ませお昼のお弁当作りに取り掛かる。
「まあ、バーサにはバーサの考えがあるのだろうし、ここは私が美味しいものを作りますか」
アイリーンは袖をまくりぷくっと鼻を膨らませ、包丁を手に取った。
ガラス窓から眩しいくらいの日の光が差し込み、キッチンに並べた野菜たちの色を更に引き立てる。艶のある赤や緑の食材を手に取ると、クルリと包丁を一周回すと、サクサクと切りにかかった。
アイリーンが作っているのはサンドイッチだ。
「バーサはハンバーグも好きだよね。それにこのトマト美味しそう。そうそう、リノはちょっとブランデーの香りのする卵焼きが好きって言っていたよね」
一人で口ずさみながら、美味しそうに食べるバーサやリノを想像すると、勝手に頬が緩む。
アイリーンは手際よく、サンドイッチを並べ概ね完成したころに、白っぽいワンピースに着替え終えたバーサが部屋の扉を勢いよく開けた。彼女は満面の笑みを浮かべている。
「アイリーン、出来たよ。いつでも行けるよ」
(おやおや、一体何をしてきたのかしらね?)
温かな視線をバーサに向けたアイリーンは苦笑を浮かべながら手招きをした。
「折角綺麗な服を着ているのに、その髪、山姥みたいだよ」
「や、やまぁ!……」
アイリーンは何か言おうとするバーサをさっさと鏡台に座らせ「少し黙っててね」とゆっくりと彼女の髪を梳いた。アイリーン特製のヘアオイルを馴染ませていくと、彼女の髪はまるで艶のあるサクランボの様だ。
「ほら、折角外に行くのだもの、綺麗にしなくちゃ。バーサは可愛いんだから誰かに見染められるかもしれないよ?」
突然の攻撃にバーサは目を大きく開き、髪の色以上に頬をあからめた。
「な……見染め……」
「あらあら、バーサったら。全身真っ赤じゃない。何処からが髪の毛か顔か区別がつかないわよ」
アイリーンは「もう、乙女を揶揄わないで」と頬を膨らますバーサの髪を一括りにして、貝殻をモチーフにした髪飾りをそっと添えた。
「はい、出来たよ。ばぁさんからバーサへの変身ね」
「もう、ばぁさんって……なによ」
と言って相変わらず頬を膨らませたままのバーサだったが、満足げの表情を隠せない。
「早くいかないと、帰りが遅くなっちゃうよ」
外からリノの大きな声が聞こえて来る。
「あ、すぐ行きまぁーす。さあ、バーサ行きましょう」
アイリーンはリノに返事を返すと、バーサの腕を掴み大急ぎで外に飛び出した。
外は正に快晴、緑の匂いがする風が心地よく漂う。
「とってもいい天気。たのしいピクニックになりそう」
空を見上げた二人は満面の笑みを浮かべた。
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