9 Summoner
”KPK”が3人デスしたことで、今の状況は”KPK”が6人、”acシャンパン”が3人、俺1人の三つ巴。人数比から見れば、”KPK”が一番優位。だがその分、ヘイトも”KPK”が一番高い。俺と”acシャンパン”には、『優先すべきは”KPK”』という共通認識ができている。
煎じ詰めれば、”KPK”6人vs”acシャンパン”3人with俺の、6vs4が実質的な戦場の構図。7vs3vs1の三つ巴と比べれば、かなりマシだ。
しかし”acシャンパン”は”KPK”にボコられたせいで、HPは限界に近い。あれでは甘く見積もっても、3人合計して1人分の戦力を期待できるくらい。
どうせ負け戦。なら、一か八かに賭けてやる。
「”acシャンパン”の皆さん!!少しの間、詠唱が終わるまで、俺を守っていてください!!現状をひっくり返せるスキルが有ります!!」
喉を開いて、”acシャンパン”に呼びかける。
”acシャンパン”にとって、俺は得体のしれない異分子。騙し討ちをしてきた”KPK”よりも、ある意味では俺の方が不気味だろう。だがこのままでは敗色濃厚なことは、彼らも分かっているはず。
これは賭けだ。”acシャンパン”が俺を信じてくれるか、否か。
賽は投げた。後は、出目を見守ることしかできない。
緊張の数刻が流れ、賽子は動きを止めた。
「あいつを守れ!!どの道打つ手なしだ!!絶対に、”KPK”の思い通りにはならんぞ」
団長が命じると、彼らは動き出した。
”acシャンパン”の3人が、俺を守るようにして”KPK”の前に立ちふさがる。最初の賭けは成功だ。
胸を撫でおろす暇もなく、詠唱を始める。
だが”acシャンパン”が守ってくれるからと言って、それで絶対安全というわけではない。
6人vs3人で数的不利があるのに加え、俺を守るという条件付き。決して簡単な任務ではない。詠唱中は、完全に無防備。俺に出来ることと言えば、噛まんで詠唱がキャンセルとならないよう、集中すること。
全ては”acシャンパン”に懸っている。
「影や道陸神、十三夜の牡丹餅、さぁ踏んでみんしゃいな。月はいつでも君を見る。君がどこでも運の尽」
早速詠唱を始める。
”KPK”が隙だらけな俺へ襲い掛かる。迫りくる”KPK”を、”acシャンパン”が強引に食い止める。
詠唱の終わりが見えてきた時、”KPK”の1人が防壁を掻い潜り、俺に刃を向ける。
これではスキルが発動する前に、攻撃を食らってしまい、詠唱をキャンセルさせられる。
万事休すか。そう思った時、”acシャンパン”の団長が、剣を体で受け止める。既に髪の毛ほどの細さになっていた団長のHPバーは、端と端がくっつき、銀色のポリゴンとなって消える。
団長の命を懸けた作った数秒。たった数秒、されど数秒。長い詠唱を経て、スキルが発動する。
「鬼さん此方、手のなる方へ スキル発動。 ”影踏み鬼”」
スキルが完了すると同時に、俺の影の上に身の丈3メートルほどの厳めしい黒い鬼が、音もなく現れる。
このゲームにおいて、スキルは大きく2種類に分けられる。
詠唱が必要なスキルと、不必要なスキル。殆どのスキルが詠唱不要であり、普段使いするのも詠唱不要の方だ。一方、詠唱が要るスキルは、MP消費も激しく、詠唱を唱えるため当然大きな隙が生じる。
しかしデメリットが大きい分、その破壊力は折り紙付き。
”影踏み鬼”は、影魔法で唯一詠唱が要るスキル。
その詳細は、影を媒体にして、地獄から鬼を召喚する。召喚された鬼は5分間、近くのプレイヤーを無差別に攻撃する。それは、召喚主である俺も例外ではない。
これが2つ目の賭け。運が悪ければ、俺は自分のスキルで殺される。だがそんなリスクを背負ってでも、呼び寄せる価値がある。
鬼は棘の生えた金棒を、俺に目掛けて振り抜く。しゃがんで金棒を躱し、”KPK”の奴らがいる方へ逃げる。すると鬼も俺を追って、どんなに軽く見積もっても100kgは有る鉄の金棒を、まるで木の枝のように軽々と振り回しながら突進してくる。
「なんだ!?このデカブツ!! スキル発動。”ロック・フォール”」
”KPK”の1人はスキルを使い、巨大な岩石を鬼の頭へ振り落とす。
しかし鬼は、微動だにしない。鬼は鋭い眼光でそのプレイヤーを睨むや否や、金棒で弾く。
たったの一撃で、プレイヤーのHPは0へ変わった。
鋼の皮膚と、一撃即死の攻撃。
ミナと一緒に何度か検証して分かった。この鬼を倒すことは、絶対に出来ない。唯一の対処法は、スキルの効果時間である5分間逃げること。
これからは始まるのは、鬼による一方的虐殺。或いは、この黒い鬼が鬼役を務める、5分間の鬼ごっこ。




