8 Doppelganger
「貴様っ……謀ったな!!初めからトレードするつもりなどなく、一方的に奪い取る算段だったのか!!」
”acシャンパン”のメンバーの1人が叫ぶと、”KPK”のリーダーはせせら笑う。
「『騙される方が悪い』ってのが、このゲームのコモンセンスだろ?別に、持ってきたレアアテム、全部渡せとは言わねぇよ。デスによりドロップするアイテムは、所持しているアイテムの一部だけだからな。『名刀・昼鳶』と『月に吠える双剣』と『緑青花』と『黄金の盗作』の4つを置いていけ。それを置いてったら、見逃してやるよ」
”acシャンパン”のギルド長は口を噤んだまま、剣を抜いて抗戦の姿勢を取る。残りの2人もそれに倣って武器を握る。
「そうか、拒否するか。お前ら、やっちまえ」
リーダーの掛け声と共に、”KPK”の連中が”acシャンパン”の3名へ一斉に襲い掛かった。
「!!??”KPK”はトレードに餌に、”acシャンパン”にレアアイテム持ってこさせて、キルして奪う算段か!”KPK”は3人どころじゃねぇ。1、2、3、、、9人もいる。どうする?アイテムを交換する瞬間を狙って、横から強奪するのは無理だ!」
戦闘が勃発したのを見て、想定外の展開に俺は目を白黒させる。
しかしミナは対照的に、ニヤリと口角を上げる。
「なるほど、そうくるとは予想外ね。でも計画は変更しない。場にいる全員を倒して、レアアイテムごっそり頂きましょう。寧ろ好都合よ。元々の計画だと2つのギルドをまとめて相手しないといけなかった。けどこの状況なら、両方がいい感じに削れたところを漁夫ればいい」
「そう上手くいかねぇだろ。頭数は”KPK”が”acシャンパン”の3倍。見ろ。”acシャンパン”が一方的に削られている」
acシャンパンも奮闘しているが、9vs3。気合いどうこうなる戦力差ではない。
KPKが消耗することは望み薄だ。
「そうね。状況を変える必要がある。ってことで、頼んだわよ」
ミナは目線を動かし、俺に行けと命じる。
「マジで!?」
「撹乱に持ってこいのスキル、沢山あるでしょ。大丈夫。仇は取ってあげるわ」
「死ぬ前提かよ」
“KPK”と“acシャンパン”が激しく争っている中、集団から少し離れて団員たちを指揮するKPKの団長へ忍び寄る。木の枝を踏んだ「ポキッ」という音バレる、なんてベタな展開にならないよう、慎重に、慎重に。
俺のステルス能力の高さに加え、見通しの悪い霧も追い風となり、容易に背後を取れた。
事が運んで油断しきっている団長の背中を、ナイフでぐさりと刺す。
「ってぇ!!誰だ、てめぇ!!!」
団長はいきなりの攻撃に叫び声を上げ、驚きのまま剣を水平に振る。だが咄嗟の動きだったため、振りが雑で大きい。
敢えて近づいて剣を持つ腕を掴み、力の流れを利用して押し倒す。
そして馬乗りになって動きを封じ、ナイフで繰り返し刺す。
「団長!!大丈夫っすか!!!」
異変に気付いた2人の団員が、こちらへ来る。
もう少しで団長のHPを0にできる。この先を考えると、絶対倒しておきたい。だがこのままでは倒すより先に、敵の援護が間に合う。
俺は舌打ちをして、切り札を出す。
「スキル発動。”影武者”」
ヌワァという薄気味悪い音と共に、俺の影が立体化し、俺そっくりに変身する。
「「はぁっ!???」」
驚愕のあまり、カバーに来た2人はその身を硬直させる。
”影武者”は、影を媒体にして分身を作り出すスキル。攻撃力も防御力も、相手の防御力を無視する特性も、完全にコピーしたもう1人の俺を生み出す。
文字通り戦力が倍になる、非常に強力なスキルだ。
ただデメリットが2つある。1つは、分身の操作が非常に難しいこと。AIが分身を操縦してくれるのが、大まかな指令は出さないと、頓珍漢なことをしでかす。分身の状態に気を配って適切な指示を出すつつ、本体も動かすというのは、至難の業だ。実戦で使えるようになるまで、かなりの修練を重ねた。
そしてもう1つが、MP消費。”影武者”は、発動から毎秒MPが消費されていく。しかも消費されるMPは、雪だるま式に増える。つまり時間経過に伴い、MP消費が激しくなるのだ。その仕様のお陰で、リボ払いの恐ろしさを身をもって知った。
発動からおよそ1分を超えると、”影武者”によるMPの消費が甚大なものとなる。加えて、”影武者”は1度発動すれば、次の発動まで長いインターバルを要する。
1度の戦闘で”影武者”を使えるのは、この1分間のみ。
それまでに、最低でも2人。可能なら3人キルしたい。
カバーにきた2人を分身に対処させ、その間に押し倒した団長をめった刺しにする。反撃に横腹を剣で貫かれたが、構いはしない。攻撃力も攻撃回数も俺の方がずっと高い。先にキルできるのは、俺の方だ。
団長をキルし、次の標的をカバーに来た2人に移す。分身がいるおかげで、擬似的だが2vs2。だが分身の残り時間は約40秒。少しのもたつきも許されない。
どのみちすぐに消えてしまう分身を前に出して、大胆に攻める。
しかし分身による半ば捨て身のアタックも、手堅く対処される。
相手からすれば、味方が”acシャンパン”を倒すのを待ち、その後で味方と連携し俺を袋叩きにした方が確実。俺とは真逆で、敵に勝負を急ぐ理由はない。
”影武者”を発動して、50秒近くが経った。1分を超えれば、分身はひっこめざる負えない。だがたった10秒でこの2人を切り崩すのは不可能。
「しょうがねぇ。プランBだ」
俺は後ろに下がって、アイテムボックスからとあるアイテムを取り出す。
アイテムの名は、”仲良し爆弾”。手のひらサイズの小さな手榴弾だが、ピンを抜ければ半径1.5m以内に居るプレイヤーは確実にデスする、とんでも火力を誇る。ただしこの爆弾は威力こそ凄まじいものの、とんだ瑕疵がある。普通の手榴弾は、安全ピンを抜いてから大体4~8秒で起爆する。しかしこの”仲良し爆弾”は、安全ピンを抜くと同時に起爆する。必ず使用者を巻き込む陥品。
故に使い方はただ一つ。自爆だ。
”仲良し爆弾”を、分身に投げ渡す。
分身はアイテムを受け取ると、敵2人の間に割って入る。何をする気か察した相手は、距離を取ろうとするが、もう遅い。
手榴弾からピンが外れ、甲高い音が鳴る。それをすぐさま、耳をつんざくような爆音が塗り潰す。
舞い散る灰燼の中には、誰も残っていなかった。




