7 slyer
ジャバタスを倒した日から、数日後。俺はまたしてもミナに呼び出された。
お決まりのカフェに行くと、ミナは先に着いており、お茶を啜っていた。
「そろそろ、本気を出そうとと思うの」
俺が席に着くなり、ミナはそう言った。
「えっ、中二病?」
「あんたにだけは言われたくないわ。そろそろあんたのカンストした影魔法を使って、本格的に稼ぎ始めましょうってこと。これまでは影魔法を測るための試運転。ここからは初心者狩りやチーターみたいな小物じゃなくて、もっと大物を狙う」
「あぁ、そういう。で、その大物ってのは?賞金首の高いトッププレイヤー?」
「もっと大きいわ。狙うはギルドよ」
「はぁっ!?ギルド!!?」
俺は思わず声を張る。
ギルドとは、複数のプレイヤーのコミュニティ。
幾らなんでも、2人だけで複数人が手を組むギルドと戦うなど、無謀が過ぎる。
「当たり前でしょ。ちまちま個人をキルしてたら、影魔法の強みが消えちゃうじゃない」
「?影魔法の強みは、相手の防御力を無視できること。それと、一風変わったスキルの数々だろ?アップデートで消えないかを心配してんのか?」
俺の言葉に、ミナはわざとらしくため息をつく。
「確かにそれも強力な長所よ。でも今に限れば、それ以上の長所がある。それは、カンストした影魔法の加護やスキルがまだ誰にも知られていないこと。結局どんな長所も、運営がバランス調節している以上、対応策は存在する。でも影魔法は弱すぎて、中二病末期のリク以外カンストしていない。だからカンストした影魔法の強さは、私たちしか知らない。知らないものは、誰も対策できない」
ミナの説明に、思わず唸り声をあげる。言われてみれば、その通りだ。時として、情報は剣に勝る。自分の手札が知られていないというのは、これ以上ないアドバンテージだ。
分かっていたつもりだったが、勝ちが続き過ぎて、すっかり失念していた。
「リク以外にも、影魔法をカンストさせる変人がいつ現れるとも限らないからね。まだ影魔法について知られていない内に、稼げるだけ稼ぎましょ」
「急ぐ理由は分かったけどよ。流石にギルドは無理ゲーじゃね?」
「安心して。ギルド相手に正面切って戦争する訳じゃないわ。まだね」
口ぶりからして、いつかは正面切った戦争するつもりなことが、心配でしょうがない。
「3日後の深夜。”KPK”と”acシャンパン”が、”霧の樹海”でレアアイテムのトレードを行う。その取引現場を襲い、アイテムを強奪するのよ」
複数のアカウントから情報集めるミナの情報収集能力は、並一通りではない。とはいえ、ギルド間のアイテムトレードに関する情報を引っこ抜くとは、全くもって恐ろしい。
「簡単に言ってくれるね。肝心の強奪はどうするんだよ」
「アイテムトレードの瞬間、あんたが横からかっさらうのよ。影魔法はステルス性能高いし、いけるでしょ」
「トレードの場には何人いる?」
「”KPK”と”acシャンパン”からそれぞれ3人ずつ出るから、計6人ね。とは言っても、2つのギルドが合わさった6人。一枚岩では決してない。上手くやれば、互いに足を引っ張ってくれるはず。多少無茶だけど、その無茶をなんとかできると見込んでの相談よ」
このお願いを受けるべきか受けないべきか、俺は考えを巡らせる。
普通に考えて、難易度は鬼。だがミナの言う通り、全くの無謀ではない。それになにより、面白そうだ。
3日後の深夜。アイテムトレードが予定されている時刻の10分前。トレード現場の近くに、俺とミナは潜んでいた。
ここ”霧の樹海”は濃い霧が立ち込め、日光がない夜は特に視界が悪い。また索敵系のスキルやアイテムがほぼ機能しなくなるのも特徴だ。
秘密の密会として、これ以上の場所はない。
”クー・クロックス・クラウン”の代表3人は、既にトーレド現場に来ていた。俺たちが潜伏を始めて7分後、つまり予定時刻より3分早く、”acシャンパン”の代表3人が来た。
「遅くなって済まない。早速だが、トレードを始めよう。こちらが提示したアイテムは、持ってきてくれたか?」
”acシャンパン”のギルド長がそう言うと、”KPK”のメンバーの1人が、アイテムボックスを操作してアイテムを取り出す。アイテムの数は10個ほどで、そのどれもがレアアイテムばかりだ。
「そちらも、アイテムは持ってきているか?」
今度は”KPK”のギルド長が確認を取ると、”acシャンパン”のメンバーがアイテムを見せる。
「これで確認は済んだな。それじゃあ、交換といこう」
"acシャンパン"のギルド長がそう言うと、なぜか”KPK”のメンバー3人はしたり顔で笑う。
「へへっ、悪いが、アイテムトレードはやめにしよう」
”KPK”の団長が半笑いでそう言うと、”acシャンパン”の3人を囲むように、6名のプレイヤーが現れた。今の今まで、隠密系のアイテムで隠れていたらしい。霧が濃いためシルエットしか分からないが、”KPK”の団員たちのようだ(”KPK”の団員は全員、白い丈長のガウンに頭部全体を覆う三角白頭巾を被っているから、シルエットだけで分かる)。
「アイテムを置いて帰りな。そしたらキルせずに帰してやらぁ」




