6 brother
ダイチは、”ザ・ヘル”において最も有名なプレイヤーだ。
実況動画や解説動画を上げるゲーム実況者で、チャンネル登録者数は58万人にも上る。
ダイチが人気な理由は、高いトーク力や親しみやすい人間性など様々あるが、一番は特異的な強さだ。
ダイチは”ザ・ヘル”日本サーバー内で、個人戦闘力が5本の指に入ると言われている。
しかも、ただ強いだけではない。攻撃力に全振りした、男のロマンを兼ね備えた戦闘スタイルなのだ。
ダイチが属する太陽魔法は、100種以上ある魔法の中で、トップクラスの総合力があり、また攻撃面では右に並ぶ魔法は存在しない。
高火力の攻撃系スキルが豊富にあることに加え、数種の魔法にのみ許される強力バフである加護を、なんと2つも持っている。その効果は『常時、攻撃力+15%』と、『HPが30%以下の時、攻撃力が+50%』。いつ下方修正がなされてもおかしくない攻撃性能で、界隈では合法チートだと揶揄されている。
しかしダイチは満足できず、武器や装備を攻撃力に特化したもので揃え、ただでさえ高い攻撃力を更に高くしている。
ただ、攻撃にステータスを割けば、当然ながら防御など他の面は脆弱になる。攻撃に著しく偏ったダイチのパラメーターは、普通使いこなせるものではない。
事実、何人ものプレイヤーがダイチを真似しようとし、挫折した。
神がかった技巧と抜群の反射神経を持つダイチにしか許されない、超攻撃的スタイルだ。
「1撃で終わっちゃた。チーター相手に気合入れてきたのに、困ったなぁ。取れ高がなくなる」
ジャバタスを倒したダイチは、困り顔で呟く。どうやらジャバタスがチーターなことは、把握していたようだ。
大方、ジャバタスがチーターという情報を聞いて、『チーター討伐してみた!!??』的な動画を出すつもりだったのだろう。普通に考えてチーターに勝つなど無謀もいい所だが、ダイチの実力なら不可能とも言い難いのが恐ろしい。
ダイチは俺に気付くと、話しかけてくる。
「よう、リク。このジャバタスって奴を瀕死まで追い込んだのって、もしかしておま───」
「ごめんなさーーい!!!もしかしてYoutuberのダイチさんですか!!」
ダイチの話をぶった切って、ミナが叫びながらダイチの元へ駆け寄る。
ジャバタスの防御力が高すぎるせいで、ミナが戦闘にいても活躍できないだろうから、ミナには離れた所で観察してもらっていた。
そしたらダイチがいることに気付いて、大慌てで駆けつけてきたのだろう。何を隠そう、ミナはダイチの大ファンだ。
「えっ、あっ、うん。そうだよ」
ダイチは一瞬ミナの勢いに押されて戸惑の表情を浮かべるが、流石人気Youtuber。すぐさま落ち着きを取り戻し、にこやかな笑みを作る。
「私、ダイチさんのファンで!!!いつも動画見てます!!!」
誰かを陥れる時以外で、こんなにハイテンションなミナは初めて見るな。
「ほんとに!??いつもありがとう。ところで、そこの彼とは知り合い?獲物横取りしちゃったみたいで、悪かったね」
「いえいえ!!お気になさらず!!あれを瀕死にするなんて、赤子の手を捻るみたいなもんですから!!」
ジャバタスを瀕死に追い込んだの、俺なんだけどなぁ。
その後はミナはダイチと写真を撮り、ログアウトした。
ログアウトした後は、学校の課題をやった。課題が終わって時間を確認すると、丁度19時だった。晩御飯の時間なので、自室を出てダイニングへ行く。
キッチンにいる母から、「呼ぶ前に食卓に来るなんて珍しい。いつもそうして頂戴」と言われた。続けて「お兄ちゃんも呼んできて」と。これに歯向かうとおかずが減らされる。今日のおかずは、なんと手羽先だ。減らされるわけにはいかない
ノックをして、部屋の扉を開く。
兄貴はコンピューターと睨めっこしながら、編集作業に取り組んでいた。
俺の兄貴、天海大地は、Youtuberだ。それも自分で自分を養えるくらいの収入がある、正真正銘のYoutuber。
兄貴は基本的に”ザ・ヘル”の実況・解説動画を上げており、運営する”ダイチャンネル”は登録者数が58万人もいる。
そう。俺が今日遭遇したプレイヤー”ダイチ”は、俺の実兄だ。
「晩ご飯できた」
「あーい。切りのいいとこまで進めたいから、もうちょっとしたらいくよ」
兄貴はパソコンから目を逸らすことなく言う。
これは、最低でも1時間は遅れて来るな。
言っても無駄なので、俺が部屋から出ようとすると、兄貴はふと思い出した様子で呼び止めてきた。
「そういや今日、ゲームで会ったよな。あそこ動画に使っていい?」
「別にいいけど、俺に親し気に話しかけたところはカットしろよ。万一ダイチの弟ってバレたら、色々面倒だ」
「りょーかい。それとお前が瀕死に追い込んでいたプレイヤー、チート使ってるらしいけど、どうやって瀕死にした?影魔法じゃ無理だろ」
「企業秘密だ」
兄貴は更に問い質そうとしたが、それより早く部屋を出て、追及から逃れた。




