5 No.1 player
”蜻蛉”を使ってすぐ、1人のソロプレイヤーを見つけた。
190㎝台の大男。漆黒の鎧を装備し、黒い柄の薙刀を握っている。プレイヤーネームまで見えないが、ここまで条件が一致していれば間違いない。
今回の標的、チーターのジャバタスだ。
気取られないよう慎重に、ジャバタスへ近づく。
相手はまだ俺に気付いていない。茂みに潜みながら、急襲をかけるタイミングを伺う。心を鎮めて、じぃっと。ジャバタスが俺に背を向け、一歩踏み出した瞬間。全身の全ての力を足裏に集約し、地面を蹴る。
ジャバタスは足音に反応して振り向くが、もう遅い。
走る勢いを止めることなく、右足を軸にして、振り向いた顔の目を狙い、ナイフで殴るように刺す。
フルダイブ型のゲームにおいて、目はもっとも狙うべき弱点だ。
ここは仮想空間。背中を斬らせようと、目を刺されようと、痛みは殆どないし、現実の身体は傷の1つつかない。
だがたとえそれが分かっていようと、人は眼を攻撃されたら、反射的に目を瞑ってしまう。
目を瞑ったジャバタスを俺は3回斬りつけると、ジャバタスが反撃をする前に距離を置く。
普通の相手だったらこのまま強引に切り続けても良かったが、相手はチーターだ。防御力を不正にアップさせるチートに対し、影魔法の加護『防御力100%カット』が有効だというは、あくまで俺たちの予測。その予測が外れているなら、俺は尻尾を巻いて逃げるしかない。
だがしかし、その心配は杞憂だったようだ。HPバーを確認したら、与えたダメージ分がしっかり削れている。
影魔法の防御カットは、チートにも有効。
作戦続行だ。
「スキル発動。”肩影鞄”」
俺は自身の影へ左手を伸ばす。すると、あるはずの地面がなく、どろりと沼に沈むように、左手が影の中へ入る。冷たい鉄の感覚が手のひらに伝わる。それを握って持ち上げ、平坦な影から赤黒い日本刀をとり出す。
”肩影鞄”はカンスト前からあった影魔法のスキルで、平たく言えば第2のアイテムボックスだ。影の中に幾つかのアイテムを収納できる。一見便利そうに聞こえるが、収納できるアイテム数は通常のアイテムボックスの10分の1以下であり、しかも収納と取り出しの度にMPを消費するため、使い勝手が非常に悪い。
そんなクソスキルをわざわざ使ったのには、理由がある。
俺の魔法属性が影魔法であることを、相手にアピールするためだ。
俺とミナ以外のすべてのプレイヤーは、影魔法をネタ魔法として認識している。俺が影魔法の使い手だと分かれば、相手は間違いなく油断する。
作戦の第一フェーズ。まずは俺を徹底的に弱く見せ、油断を誘う。
影から日本刀を取り出して、ジャバタスに突進する。乱暴に振り下ろした日本刀を、ジャバタスは弾き、体制を崩した俺に薙刀を振り下ろして鋭い一撃を与える。
防御力0の俺のHPは、一気に減少する。
だが攻撃を食らったのは、あくまで作戦の内。今のでジャバタスは、敵が自分より格下であると信じたはず。まず第一フェーズ終了。
続いて、第二フェーズ。
俺はジャバタスに背を向けて、一目散に逃げる。
ジャバタスから見た俺は、奇襲で攻撃を成功させたはいいものの、やっぱり敵わないと悟り、潔く諦めた敗残兵。或いは、雑魚の癖に卑怯な手で数回ダメージを与えやがった身の程知らず。或いは、ネタ魔法を使う美味しい好餌。
そんな奴が尻尾巻いて逃げ出したのなら、躍起になって追いかけてくるはず。
ずばり俺の読み通り、ジャバタスは脇目も振らずに追いかけてきた。チートに頼るだけあり、短絡的で負けず嫌い。
俺は俊敏性がかなりのステータスを振っているから、普通に走れば余裕で振り切れる。だから敢えてゆっくり走り、少しずつとの距離を近づけさせる。俺というニンジンをぶら下げ、ジャバタスを誘導する。
暫く走り、森の奥深くまで来て、俺は急ブレーキをかける。これで第二フェーズの、狩場までの誘導は済んだ。
最後、第三フェーズ。待ちに待った、戦闘だ。
「諦めたのか?なら抵抗するな。時間の無駄だからよぉ」
ジャバタスは勝ち誇った顔で言うと、勢いを落とすことなく俺に走る。あと数歩で俺に届きそうになった時、ジャバタスの足元が崩れ、落とし穴に落ちる。
「落とし穴!?どういうことだ?」
「まさか、まだ分からないのか?お前は追いかけているようで、誘導されていだんだよ。自分が上だと妄信している馬鹿は、操り易くて助かる」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!!」
ジャバタスは落とし穴から這い上がり、怒りに任せて薙刀を斜めに振り下ろす。が、近くの木に当たり、振り切ることが出来ない。
ジャバタスが動揺した隙に、距離を詰めてナイフで刺す。
「俺がお前をここまで誘導したのは、トラップを仕掛けてあるからだけじゃない。ここは樹木が生い茂った密林地帯。お前が愛用する薙刀を使うには、周りの木々が邪魔だ。お前が勇み足で来たこの場所は、お前にとって最悪に不利な地形。それに気付かず追いかけるとか、イノシシより考えなしだな。ゲームは広い視野が大事だぞ」
「うっぜぇ!偉そうにマウント取りやがって。つーか、どうして俺がチーターだと知っている?俺のHPが減っているのは、チートに不具合があるからじゃなくて、お前が何かしたからか?まさか…てめぇもチーターか?」
「お前みたいな卑怯者と一緒にするな。お前と違って、俺はチートに縋るほど弱くない」
「イキってんじゃねぇ、ネタ魔法が!!」
キレたジャバタスが、突きを放つ。樹木が邪魔で薙刀を振ることが難しいこの環境下では、正しい攻撃だ。だが安直すぎて、馬鹿でも予測できる。
突きは右に跳んで避け、薙刀の柄を掴んでジャバタスを引き寄せる。そして鳩尾に正拳をぶちこむ。
「チートに頼りすぎだな。プレイスキルは初心者同然。武器を使ったら、耐久値がもったいねぇ。お前は素手で十分だ」
「ふざけやがって!ぶっ殺してやる!!」
頭に血が上ったジャバタスが喚く。流石に煽りすぎたか?まぁ、チーター相手にマナーは無用か。
俺は木々を蹴り上げ縦横無尽に移動し、不利な環境に悪戦苦闘するジャバタスを翻弄しながら、ちまちまと甚振っていく。
最初の内はジャバタスは怒り任せに薙刀を振るっていたが、一方的な蹂躙に心が折れたのか、反撃すらしてこなくなった。
ジャバタスが虫の息になった時、ジャバタスがアイテムボックスからテニスボールほどの球を取り出し、地面に投げる。するとそれは白い煙を四方八方にまき散らす。
煙玉だ。
煙が散り、視界が良好になった時、ジャバタスは豆粒の大きさになるほど遠くへ逃げていた。
てっきりいじけて戦いを投げ出したと思っていたが、逃げる気力はあるらしい。
「くっそ、意外に逃げ足が速いな」
背を向けて遁走するジャバタスに向かって、地面を蹴って走り出す。
離れてはいるが、走力は俺の方が上。ジャバタスの背中が、見る見るうちに大きくなる。
あと少し。もう少しでジャバタスに追いつく、その時。
ジャバタスの目の前に、1人のプレイヤーが現れた。
そのプレイヤーは黒い袴と履き、赤い鉢巻きを頭に巻き、白い羽織を靡かせる、和風の男だった。
男は腰から赤い刃の日本刀を抜き、ジャバタスに攻撃する姿勢を見せる。
しかしジャバタスは、男を気にする素振りすら見せない。チートにより防御に絶対の自信があるジャバタスは、この攻撃は躱すまでもなく、俺から逃げることを優先すべきと判断したのだろう。
ミナいわく、ジャバタスのチートは無敵ではないにせよ、大概の攻撃を無にできる程防御力を高めるらしい。
普通のプレイヤーが相手ならば、ジャバタスの判断は間違っていないだろう。悔いるべきは、攻撃してきた相手が誰かを、ちゃんと見なかったこと。それと、己の厄運だ。
「スキル発動”赤鴉”」
和風の男はスキルを唱え、一閃。
刀が振り抜かれてから、刃の軌跡から猛々しい業火が湧く。真紅の炎がジャバタス体を包み、HPを一気に0まで下げる。
「…はぁっ!!??」
ジャバタスは何が起きたのか理解できぬまま、間抜けた声を上げ、あっけなくデスする。
ジャバタスのチートが、機能していなかったわけではない。
ただ今の一撃は、ジャバタスのチートを駆使した異常な防御力を凌駕する、超高火力の一撃だったのだ。
それが可能なプレイヤーは、1人しかいない。
チャンネル登録者数58万人の人気Youtuberにして、”ザ・ヘル”で最強と称される男。
太陽魔法の刀使いである、”ダイチ”だ。




