4 cheater
「ある男を倒してほしいの」
ある日、ゲーム内にあるカフェに来るようミナからラインが来た。カフェに着くと、ミナは既に着いており、ミナの前の席に座るや否や、要件を喋り始めた。
「まぁ男と言っても、男性のアバターってだけで、中身は女かもだけど」
「自分で自分の揚げ足を取るな。んな細かいことどうでもいいわ。そのプレイヤーってどんな奴?」
「前に何人かの初心者を嗾けて、ペナルティを負わせようって作戦、話したじゃない。まさにその策で嵌めようとした相手。因みにその作戦は失敗したわ。途中で作戦の意図に気付かれて、逃げられた」
「そうか。お前の超外道戦法が失敗したことに、俺は人心地がついたよ。通報されてバンされても、文句言えないからな」
「その話は一旦置いておいて」
「一生置いていて欲しいな」
「そいつ、チーターなのよ」
チーター。不正な方法を使って、ズルを行うプレイヤー。公平性を著しく欠く、許されざる存在である。
「正々堂々の権化であるこの私が、初心者を嗾けてペナルティを受けさせるなんて戦法を、普通のプレイヤーに取るわけないでしょ!」
「自分のギルドについての情報を売っている奴に、正々も堂々もないだろ。で、そいつの情報は?チーターなんて、普通にやって勝てっこないだろ」
「プレイヤーネームは、”ジャバタス”。魔法属性は鉄。武器は薙刀。2か月前までは中規模ギルドに所属していたみたいだけど、そのギルドが解散して、今はソロ。問題のチートは、防御力の大幅上昇。よっぽど火力が高くないと、まともにダメージも入らない」
「相変わらず、どうやってそんな情報集めてんだよ。まぁでも話は見えた。影魔法の加護は、防御を無視できる。チートで防御力を上げていても関係ないってわけか。でも、本当にそいつはチーターなんだな?痛いのが嫌で、防御力に極振りしている人かもしれないだろ?」
「私の情報収集能力が信じられない?確信があるからお願いしたの」
「ただの確認だよ。てか、通報は?運営に何とかしてもらうのが一番の良策だろ」
「当然したわよ。でもまだバンされてない。このゲームは他にも民度のないプレイヤーが多いから、時間かかるんじゃない?どのみち時間の問題だとは思うけど、そいつはチート使って荒稼ぎしているから、賞金首が高くてね。倒せたらかなりのコインが稼げるわ。…ていうのは建前で、私はこいつにやられたから、やりかえさないと気が済まない」
「だと思ったよ。ま、俺もチーターは許せなしい、協力するよ」
このゲーム”悪魔たちの天国”は一部の層からは絶大な人気を誇り、俺自身も大好きなゲームなのだが、友達に勧めるのは憚られる。
というのもこのゲーム、民度が非常に悪いのだ。
3話までの登場人物をおさらいしておこう。俺。所属するギルドの情報を横流しする外道、ミナ。初心者狩り3人衆。チーターのジャバタス。
6人いて、真面なのは俺だけだ。
PKが醍醐味であるためか、民度の悪いプレイヤーが非常に多い。
煽り、利敵、チート、グリッチ(バグを意図的に起こす事。グリッチが必ずしも悪というわけではないが、バグを悪用するのはやめよう)、スマーフ(初心者狩りの一種)、チーミング(説明が面倒なので、気になる方は自分で調べて)、その他諸々。
オンラインゲームおける害悪行為が、このゲームでは日常茶飯事である。逆にこの卑劣も卑怯も何でも有りな環境が、一部の層に大変好評なわけだが。
まさに”悪魔たちの天国”というわけだ。
運営も頑張って取り締まっているが、クズプレイヤーが多すぎて、対処しきれていないのが現状である。
ジャバタスの対策会議が終わった後、俺たちは”満目荒廃の遺跡”へ来た。
「ジャバタスの行動範囲からして、多分この”満目荒廃の遺跡”にいると思う。確か、カンストで影魔法に索敵系スキルが追加されたわよね?どういう効果なんだっけ?」
口で説明するより見せた方が早いと思い、俺はスキルを使う。
「朔より生まれ、闇から出でて、地獄を跋扈す呪われた影たちよ。我が目となりて、深淵を覗け スキル発動 ”蜻蛉”」
俺の影から、10匹ほどのトンボが飛び出る。ミナはぎゃぁっと叫び声をあげて、尻もちをつく。
「ちょっと、トンボを出すなら出すって言ってよ!!」
「ご、ごめん。もしかして、虫苦手?」
「どちらかと言えば、平気な方よ。けど、トンボだけは無理。生のトンボを食べたことある?」
「あ、説明しなくていい」
「小さい頃遊んでたら、トンボが私の口の中に入ってきて。パニックになった私は、何を思ったのか、うっかり噛み千切って食べちゃったのよ。レビューは☆1よ」
「いいって言ったじゃん!晩飯が食べれなくなるだろ!」
俺は耳を塞いで懇願する。次からは、ミナ前で”蜻蛉”を使うのはやめよう
「ちなみに、虫は平気な方って言ったけど、どの位ならいけるんだ?バッタはいける?Gはどう?」
「バッタは絶滅して欲しいわ。Gは、虫じゃない。ゴミよ」
滅茶苦茶虫嫌いじゃねぇか。
「ていうか、これどういう能力なのよ」
「”蜻蛉”の効果は、召喚したトンボを操り、そいつと視覚情報を共有できる。上空から地上を見渡せるから、歩き回るよりはずっと効率的だ。最大で100匹まで動員できる、今回は10匹召喚した。流石に100匹の映像は処理しきれない」
「めっちゃ便利じゃない!!」
ミナが目を輝かせる。その顔はクリスマスの子供のようにだが、裏では詐欺師顔負けのゲスな企みをしているのだろう。
「そんなに強力なスキルだから、発動前にあんな長ったらしい詠唱があるのね?柵より出で、地獄をノロウイルス、だっけ」
「全然違う。あと、弱点はMP消費が辛いことだけだな。別に詠唱いらない。あれは俺の完全オリジナル。どう?かっこよかった?」
「☆1」




