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37 partner

 「やっぱ、お前が気づかないわけないよな」

2人となったステージで、俺はミナに言う。それなりに声を張ったつもりだが、やけに小さく聞こえる。12人から一気に10人が脱落して、人口密度が急に減ったからだ。

俺が見抜けたステージの罠を、俺より頭が切れて性格のひん曲がったミナが見破れないわけがない。

「それはどうも。正直私は、リクがステージの裏に気付くけのは、少し意外だわ。まったく、あんたさえいなければ、私は優勝できていたのに」

ミナはそう言う癖に、嬉しさが顔から滲み出ている。

「俺が気付けたのは、お前のおかげだよ」

これは謙遜でもおべっかでもない。俺が罠に見破れたのは、正真正銘ミナのお陰だ。ミナに疑うことの重要さを説かれたから、俺はステージを疑えた。

しかしミナにその自覚はないらしく、虚を突かれた様子で目をぱちくりとさせる。

「……ま、私と組んできたからには、こんくらいは解けてもらわないとね!!」

ミナは靴の踵を3回タップする。すると靴が虹色に輝きだした。以前と同じ、影を創らないことで俺の”影踏”に対抗する装備だ。

「げぇっ!まだその目立ちたがりな靴持ってたのかよ」

「当然よ。本選出場者の中で最も警戒すべきプレイヤーは、あんたよ。当然、対策もするわ。あんたと1対1で戦うことも、こっちは想定済みなんだから」

対策されているというのは、危機的状況だ。だというのに、とっておいたチョコケーキをついに食べる時のような気分になってしまう。

予選を勝ち抜いた本選出場者は、程度の差こそあるが皆一様に実力者だ。今回はトリッキーなステージだから俺たちが最後の2人となるまで生き残れただけで、ステージに次第では早々に脱落しても不思議はない。出場者の中には、自他ともに認めるトッププレイヤーであるシルバーもいた。

にも関わらず、ミナは俺を最重要人物として警戒した。常に冷静で客観的な判断を下すミナにそう思われるというのは、俺にとって非常に名誉だ。

口角がだらしなく緩みそうになり、慌てて力を入れる。

高評価してもらえるのは嬉しいが、きっちり対抗策を取られているさっきも言った通り非常にまずい。

影魔法はピーキーな性能をしている。ハマれば強いが、初見殺しの要素が強い。尖っている分、対策されて長所を潰されてしまえば貧弱。

だからこそ、カンストした影魔法を知らない者には無類の強さを誇った。

しかし目の前にいるのは、相棒のミナ。影魔法について、ある意味俺以上に熟知している。最悪の相手だ。俺からすれば、他のどんなプレイヤーよりも厄介。

しかしミナが俺を警戒して対抗策を準備しているのと同じく、俺もミナを警戒して、ちゃんと対策もこしらえている。ミナに対してのみ有効な、必勝の攻略法を。

───が、あまり気乗りはしない。なんといっても、ミナのことをとやかく言えなくなるくらい、外道な手段だからだ。

だけれども、勝ち方法を知っておきながら採用しないというのも、全力と尽くさないという点で相手に失礼な気もする。

なので一応、前置きだけでもしておこう。

「確認だが、勝っても負けても、どんな手法を取っても、恨みっこなしだよな?このゲームじゃ、最低限マナーさえ守っていれば、どんなことをしてもいいよな?」

ミナはきょとんとして顔で言う。

「勿論。”悪魔達の天国(ザ・ヘル)”じゃ、正道も外道も王道も邪道もない。相手の嫌がることを全力でやる。それが常識。今更にどしたの?」

「ありがとう。念のために確認しておきたかった。これからやることは、ちょっとだけろくでもないからな。スキル発動 ”蜉蝣”」

俺はスキルを発動すると、影からトンボの群れが現れる。

「ひぃぃっ!!!!!!」

ミナはこれまで見たことないほどに顔を青くして、絶叫する。

ミナはトンボが嫌いだ。初めて俺が”蜉蝣”を使い、10匹ほどトンボを召喚しただけでで、相当な拒否反応を示していた。

今俺が召喚したトンボは、全部で100匹。トンボが嫌いでない俺ですら、これだけいれば気持ち悪い。トラウマがあるミナにとっては、地獄絵図だろう。

罪悪感に蓋をして、100匹のトンボをミナに向かって飛ばす。1つの意志に従って動くトンボの群れは、それ自体が1つの生物みたいだ。

「~~~~っっ」

声にもならない悲鳴を上げ、ミナは腰を抜かす。

ミナがトンボに気を取られているその隙に、俺は背後へ回り込んで、無防備なナイフで斬りつける。

ミナはトンボにいっぱいいっぱいで抵抗する余裕もなく、あっという間に0になる。

ミナのアバターが消失し、空中に【WINNER!!】の文字が表示される。




 「いや、悪かったとは思ってる。けど、お前も『相手の嫌がることをやるのは常識』って言ったし」

「…………」

「ガチでお前と戦っても敗北は見えていたし、あれしか勝ち筋が無かったんだ。俺だって、あんなことしたくなかったけど、やるしかなかったんだ。まぁ、その、すまん」

「…………」

ミナをキルして、大会は俺が優勝した。その直後であるにもかかわらず、俺はミナに謝り倒していた。

勝つために仕方ないとはいえ、虫嫌いなミナにトンボの大群を差し向けて、トラウマを刺激したのだから、申し訳ないとは思っている。

ミナは一言も発さず、平謝りする俺を睨みつける。親の仇のように睨みつけ、俺の脛を何度も蹴る。アバターだから、蹴られても痛くはないけど。ただおかんむりなことは、嫌というほど伝わってくる。

「そうだ!優勝賞品の、サイン入りグッズ!!!お前にやるから!!」

もともと優勝したら、グッズはミナに渡すつもりだった。兄貴のサイン入りグッズなんて、その気になればいつでも手に入る。

その提案に、絶えず俺の脛を蹴っていたミナの足が止まる。

「……スタバも奢ってくれたら許す」

「えっ??」

「スタバ、オゴレ」

何で片言?赤ちゃん並みの理解力だと思われているのか?

しかしスタバで許してもらえるなら、安いものだ。

了承すると、ミナはわざとらしくため息を吐き、いつもの顔に戻った。機嫌は直ったらしい。尤も後半は、ただの悪ノリだろうが


すると突如として、電話が届いた音がする。ゲーム内の電話機能が使えるのは、フレンドだけ。俺のフレンドは、かなり限られている。ミナと、もう1人。ミナは目の前にいるので、電話の相手は確定している。

画面をタップして、電話に応答する。電話の相手は、我が兄であり、そして今大会の主催者であるダイチからであった。

「もしもし。どうしかしたか」

『優勝おめでとう。兄として誇らしいよ。試合展開は、予想の斜め上だったが』

ダイチの声は、電話越しにでも分かる位に上機嫌だ。

思いのほか声が大きかったので、すぐ近くにいるミナくらいにしか聞こえないよう、音量を下げる。

「そりゃどうも。んで、用件は?祝うためだけに電話したわけじゃないんだろ?」

『つれないなぁ。まぁいい。この後サプライズの余興を企画しているんだが、出てもらっていいか?大会の優勝者として』

サプライズのエキシビジョンとは、兄らしい。どちらかと言えば、目立つことは苦手だが、優勝して気分もいいし、兄貴のために一肌脱ぐのもやぶさかではない。

ただ余興の内容が分からないのは怖い。何をするつもりか聞き出そうとすると、横にいたミナが口を挟む。

「あら。余興なら、一発ギャグとかどう?リクには爆笑間違いなしの鉄板オモシロギャグがあるものね」

恐ろしい提案だ。もしかして、俺に対してまだ怒りが払拭していないのか!?

「やめろ!会場を地獄の空気にするつもりか!?」

『アハハッ、したいなら一発ギャグでもいいよ』

「断固拒否する」

「そっかそっか。でも実は、余興の内容は決めているだよね。エキシビションマッチだ。優勝者のリクと主催者でこの俺で、ワンオンワンのガチンコバトル」

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