35 order
ザ・ヘルのプレイヤーなら知らない者はいない人気Youtuberであるダイチが、『ダイチ杯』という大会を行うことを発表した。優勝者にはダイチのサイン入りのグッズと、ゲームのレアアイテムが贈呈される。
この話題にダイチにファンを始め、多くのプレイヤーが関心を寄せた。
俺たちも例外ではない。俺とミナは優勝を目標に、大会の参加を決意した!!
というか、ダイチのファンであるミナに半ば押し切られる形で、俺も出場することにさせられた。兄貴がダイチである俺からすれば、サインなんていつでも貰えるし、レアアイテムくらいしかモチベがない。
まずは抽選で大会に参加できるプレイヤー120人が選ばれた。日頃の行いが良かったのか、俺もミナも高い倍率を突破して無事に参加できた。
続いて、予選が行われた。予選は広いエリアで、生存者が12人に減るまでのサバイバル形式。
俺もミナも、予選はなんとか勝ち進んだ。俺たちはかなりの上位プレイヤーだと自負している。不運に見舞われない限り、予選でリタイアすることはないだろうと踏んではいた。
問題は次。12人から1人を絞る本選。
予選が終わって1時間半の休憩を挟んだ後、まずは主催者であるダイチ自ら、本選のルール説明を始めた。
「えーーっ、お待たせしました。改めまして、ダイチです。これより本選で行うゲームを説明します。このルール説明が非常に大事なので、参加者の皆様はよく聞いておいてください。基本ルールは予選と変わらない、最後まで生き残った奴が勝ちのバトルロワイアルです。ですが本選は出場者が少ないので、ステージを変えます。ステージ名は、『restaurant of many orders for berserkers』。その名の通り、広いレストランを舞台に戦ってもらいます。そして名前の時点で気付いた方もいるかもしれませんが、このステージは運営が製作した既存のステージではありません。私の視聴者である”やまなし”さんが設計いただいた、オリジナルステージです!作ってみたのでもしよろしければと、寄贈してくれました。本当に、ありがとうございます」
このゲームには、自分でミニステージを設計し、プライベートルームで楽しむ機能がある。設計の自由度が高く、特殊なやり方をすれば、一風変わった地形やルールをねじ込むこともできる。ただステージを作ると言うのは、とんでもなく面倒くさい作業だ。十分に遊べるくらいの完成度に仕上げようとすれば、尚更。推しのためにその労力を払えるなんて、恐ろしい熱量だ。
「やまなしさんが送ってくれたステージ、完成度が凄く高くて面白いし、性格が悪くて僕好みなステージだったので、どう使おうか色々考えたんです。熟考の末、大会を主催することを思いつきました。当初の想定と比べて、かなり大ごといなっちゃいましたけどね。話は逸れましたが、ルール説明に戻ります。このステージには、試合の鍵を握る特殊ルールが存在します。まず試合開始と同時に、全プレイヤーに共通の注文が1つ提示されます。客であるプレイヤーたちがオーダーをこなすと、ボーナスが入ります。オーダーの締め切りは提示されてから7分以内。ボーナスの効果を受け取れるのに時間制限はありませんが、1人につき1度しか受け取れません。そして大事な大事なボーナスの効果は、HP上限100%上昇です」
ダイチの言葉に、会場がどよめく。
ボーナスの内容が、あまりに強力過ぎる。これではオーダーをこなした者とそうでない者とで、相当な差が生じる。それどころか、オーダーを達成できずにボーナスを貰えなかった者は、99.9%勝利できない。
「それとゲーム開始から7分後に、『ランチタイム』になります。そのとき何が起きるかは秘密ですが、下手をすれば全プレイヤーが死んでもおかしくない、とだけ言っておきます。気を付けてください」
ダイチはそう言うと、いやらしく口角を上げる。イタズラを仕掛けた悪ガキのような、不気味な笑みだ。
『ランチタイム』とやらについて、敢えて説明を省いたということは、何らかの意図があるはず。プレイヤーが知っていない方が、試合が面白くなる。若しくは、『ランチタイム』に何が起きるのか、凡そ推測がなりたつのか?
ダイチはこのステージを、『性格が悪くて僕好み』と評した。ファンが作ってくれたステージをそう評するということは、本当に性格が悪い、いや性格の悪さが一種の個性となっているって考えるのが自然か?
足りない頭で色々と思考を巡らすが、ボリュームを増したダイチの声に、思考が中断される。
「ルール説明は以上。時間の都合上、質問は受け付けません。初めてプレイするオリジナルステージなので、条件は一緒です。ステージについて探りながら、戦ってください。最後にアドバイスをすると、強いだけじゃ絶対に勝てない。秘密を見破る賢さと冷静さが、勝敗を分けます。それでは本選開始まで、10秒前、9、8、7」
ダイチと一緒に、会場の皆がカウントダウンを始める。
秒数に合わせて、俺の心音が速さを増す。空も飛べそうな期待感が、俺の体を渦巻く。同時に、不安が心にへばりついていたが、それすらも気持ちよかった。
「3、2、1、ゲームスタート!!!!!」
ダイチが小槌を振り下ろしてゴングを鳴らす。俺たち12名の本選出場者が、一斉にステージへと転送された。
周囲を見渡せば、お洒落で広い西洋料理店を再現した空間が広がっている。広さは大体、バスケットコート2個分くらいか。壁は染み一つない真っ白で、円卓と椅子がまばらに置かれている。天井には綺羅びやかなシャンデリア。個人で作ったとは信じられないほどの完成度に息を呑む。
だがそんなこじゃれた雰囲気の中、異質な空気を放つ物体がある。錆びた鉄の扉。鎖で硬く封鎖されており、開けるのは無理そうだ。
ダイチの口ぶりがなくとも、内装と明らかにマッチしていないこの鉄扉は怪しい。
いや、それよりもまずは、他プレイヤーを警戒すべきだ。
この空間に12人全員が、均一に距離を保った位置に転送させられている。
可能な限り素早く状況把握を行っていると、店内にピンポンパンポンと割れるような高い音が響く。
「オーダーを発表します。オーダーは、『ステージ内にある塩を体に振りかける』です。繰り返します。オーダーは、『ステージ内にある塩を体に振りかける』です」
発表されたオーダーの内容に、俺は強い違和感を覚える。
簡単だ。簡単すぎる。塩の瓶は、食卓の上や棚の中、よく見れば床にまで、至る所に配置されている。取ってくれと言っているようなものだ。
こんなに簡単なオーダーをクリアしたらHP上限100%アップというは、破格という他ない。
当然、他のプレイヤーは戦うことは後回しにして、手ごろな塩瓶を手に取り、自分の振りかける。なかなか滑稽な絵面だ。
俺もこうしてはいられない。食卓の上に会った塩瓶を掴み、持ち上げて上下逆さまにしようとした時。
『違和感を見つけたら、納得するまで疑いなさい。それが騙されないコツよ』
天啓のように、いつかミナが言ったセリフがよぎる。
そうだ。違和感だらけだ。
こんな簡単な注文、誰でもできてしまう。これでは参加者の間で、差がつかない。最初からHP上限が100%アップしているのと変わらない。
そもそも、なんでHP上限が100%アップという強力なバフを与えた?これではまるで────
────そこまで考えが及び、ソーダのペットボトルを開けた時みたいな快感が弾けた。
ステージ名。レストランの理由。ランチタイム。鉄の扉。ダイチの口ぶり。注文の内容。
全てが一本の線となり、違和感の正体へと繋がっていた。




