31 bomer
時間はあっという間に過ぎ、ついに”暗夜皇軍”に強襲をかける決行日がきた。
予め決めていた通り、まずはミナからの報告を待つ。
少しの間待っていると、ミナからメールが届いた。その内容を、ダイチに読み上げる。
「暗夜皇軍、”破滅のキングヴァ―メル”倒したって」
「待ちくたびれたぜ。あとどんぐらい待てばいい?」
「5分後くらいだってさ。敵の数は13人。予想と大差ない」
「りょ。んじゃ、配置につくわ」
ダイチが武器を持って移動する。
俺も配置について、”暗夜皇軍”を待つ。
俺はテストが始まる直前の10秒が嫌いだ。
シャーペンと消しゴムだけを机の上に置いてチャイムを待つ、長い長い10秒。教科書を見て復習することも許されず、ただじっとしているしかない。
あの時間、俺はいつも後悔と不安に苛まれる。もっと勉強すればよかった、どうしてあの時間にゲームをしてしまったんだろう。苦手な分野が出たらどうしよう。そんな無駄で無意義で無意味な考えが、雪崩の如く押し寄せる。
作戦開始を待つこの時間も、テスト前の10秒と同種の時間だ。
しかし不思議と、嫌だとは思わない。腹をキリキリさせるプレッシャーが、今日は不在だ。
頭の中は、ただ1つ。早く試したくて、うずうずする。戦闘狂であるダイチに影響されたのだろうか。
そんなことを考えていると、暗夜皇軍が襲撃地点に来た。
俺たちが襲撃地点に選んだのは、谷に挟まれた一本道。道幅が狭いため大所帯の暗夜皇軍が動きづらく、絶好のロケーションだ。
渓谷の中心に暗夜皇軍が来た。
タイミングを見計らい、手榴弾を谷の下に落とす。
「ん?なんだ?なにか落ちてく──」
暗夜皇軍の連中が手榴弾に気付くとほぼ同時。
バンッ!!!
耳を裂く轟音。薄暗い渓谷が、鮮やかな紅緋色の火花で彩られる。
「きゃぁ!!なに!??」
「なんだ!何が起きた!?」
「手榴弾だ!!攻撃されている!!!戦闘態勢を取れ!!」
深い谷の下から、叫び声が聞こえる。
突然の爆撃に、暗夜皇軍はてんやわんやだ。でもパニック状態の中でも、きちんと情報を伝えて即座に対応しようとするのを見ると、トップクランの風格を感じる。
騒ぐ暗夜皇軍に、更に爆弾を投下する。
「また爆弾来たぞ!2つだ!避けろ!」
気付いた暗夜皇軍が、爆弾の落下地点を予測し、離れようとする。だが無駄。この爆弾は、追尾式だ。
爆弾は地面に着く直前、扇を描くような軌道を描いて、人が密集している場所で爆ぜる。
「今、爆弾がひとりでに動かなかったか??」
「んなわけあるか!ホーミング機能付きの手榴弾なんてねぇぞ!!」
ある団員が見たことをありのまま言うが、ゲームを良く知る別の団員によって否定される。
このゲームに、追尾性能を備えた手榴弾なんてない。
だが影魔法のスキルを使えば、疑似的に追尾性能を付与することが可能だ。
”蜉蝣”で召喚したトンボに紐で手榴弾をくっつける。そして爆弾と一心同体となったトンボを操作することで、手動の追尾を可能にしている。
これを提案したのは、勿論ミナだ。
”蜉蝣”を索敵用のスキルとしか考えていなかったが、こんなエグイ使い道があるとは、目から鱗。爆弾を自由に操作できるから、標的がどう動こうと、爆弾を命中させられる。
難点があげるとすれば、爆発すれば当然それにくっついたトンボも巻き込まれることだ。
トンボは死ぬと、復活まで24時間かかる。操れるトンボの数は100匹なので、使える手榴弾の数は100個。
これを惜しみなく使用する。
雑草すら生えていないかれた乾いた渓谷で、数秒おきに美しき炎の花が一瞬咲いては散る。
しかしそれは目くらましだ。
絶え間ない爆撃に紛れて、手榴弾よりも遥かに恐ろしい炎の狂戦士が、ひっそりと暗夜皇軍へと迫っていた。
「スキル発動”炎陽”」
狂戦士がスキルを発動すると、川が氾濫するように火が生じ、炎の波が暗夜皇軍を呑み込む。団員の誰かが水系統のスキルを使い、なんとか炎を鎮火させる。
「あいつ、ダイチじゃないか!!」
団員の1人が攻撃してきたプレイヤーを視認し、声を上げる。その声に反応した他の団員たちもダイチに気付き、どよめきが起こる。
「嘘!本物!??」
「間違いねぇって!今の攻撃、太陽魔法のスキルだ!!」
”悪魔達の天国”の日本人プレイヤ―で、ダイチを知らない者は殆ど皆無だ。
彼を知る多くの者は、高い人気を誇るユーチューバーであるダイチに親しみを抱いている。しかしながら、ダイチに恐怖を抱いているプレイヤーも少なくない。
それは、彼のバケモノじみた強さに起因する。
どれほど劣勢でも、決して引かないほどの戦闘狂。どれだけ劣勢だろうと、ひっくり返しうる爆発力。
スマホの画面越しに見るダイチは愉快な存在かもしれないが、対峙すれば話は変わる。
敵となったダイチは、当に爆弾のように危険なプレイヤーなのだ。




