30 best attacker
俺が影魔法をカンストさせてから、1か月ほど経ったある日。いつも通りミナと荒稼ぎをしたら、少し話したいことがあると言われ、行きつけのカフェに来た。
一番安いメニューを注文し、ミナが話し始める。
「最近、ゲーム内である噂に流れているの。賞金首の高いプレイヤーを狙う、謎のプレイヤー。攻撃力が異常に高く、誰も知らないスキルを使う上、やたらプレイも上手い。全身黒ずくめのナイフを愛用する男。ついた異名が”ファントム”」
それ、絶対俺だ!!まさかに噂になっているとは!しかも、まぁまぁカッコ良い異名までつけられている。嬉しさのあまり、ついつい頬が緩む。
「どしたの?ひどい顔して。腹痛?」
「人の笑顔に、なんちゅうこというんだ。いやー、ついに俺も有名人か。サインとかどうしよ!!」
「うんうん。よかったよかった」
「雑!ちゃんと褒めて」
「まぁ何かって言うと、リクのことが広まりつつある。カンストした影魔法の実態が周知されるのも、時間の問題。リクのスキルについて、的を射た考察が幾つもあった」
影魔法は極めて特異的な魔法だ。手の内が知られていない今は、敵を好き放題キルできる。逆に言えば、手札が割れてしまえば、そのピーキーさ故に対策が容易。
影魔法の強さが知られていないことをいいこに荒稼ぎしたが、それもいよいよ潮時というわけだ。
「もうバレそうなのか。まぁ、だいぶ稼いだしな。もしかしたらこの1か月、一番コイン稼いだの俺らなんじゃね?俺のレートも、トップ層を名乗れるくらいに高くなったし」
「かもね。で、ここからが本題なんだけど、影魔法の賞味期限が切れる前に、折角だからドカンと稼ぎたいのよね」
「最後にデカい花火を、的な?やりたい気持ちはあるが、具体案はある?これまでも賞金首の高い連中を沢山キルしたわけだし、十分ドカンと稼いでいる気ぃするけど」
「いやいや、そんな小銭稼ぎとは規模が違うわ。ギルドに奇襲をしかけるのよ。標的は、”暗夜皇軍”」
暗夜皇軍。
このゲーム内で、3本の指に入る文句なしのトップクラウンだ。これまでもギルド相手にちょっかいをかけたことはあるが、暗夜皇軍は格が違う。
しかも、”暗夜皇軍”はミナの本アカが所属するギルド。ミナにとって、一番大事なギルドだ。それを裏切るのか!??
「そろそろギルドを抜けようかなって、ちょっと前から考えてたの。ギルドの空気感が、どうにも性に合わないのよねー。暗夜皇軍ではチームの勝利が最優先けどは、私はもっと利己的でいたい。騙して、裏切って、引っ掻き回して、混乱する戦火に乗じて、目立たず一番得をする。そういうことをしたいのよ」
俺が言えた事ではないが、ミナも大概中二病を拗らせた変人だ。
他人から見ればどうでもよいことを、勝利以上に重視する。俺の場合は、格好よさ。ミナの場合は、どれだけずる賢くいられるか。
「来週の週末、”暗夜皇軍”のメンバー35人で、”破滅のキングヴァ―メル”を討伐しに行く。彼らがキングヴァ―メルを討伐して後、拠点への帰り道で、奇襲を仕掛けるのよ」
”破滅のキングヴァ―メル”は最近のアプデで追加された、アンデッド系のボスモンスター。モンスターがあまりいないこのゲームに置いて、最も強いモンスターだ。軽い腕試しのつもりでソロで挑戦したら、30秒でデスした。
強い分、報酬は極めて豪華だ。その豪華な報酬を、横取りしようと言う魂胆だ。
「キングヴァ―メルと戦った後だから、20人くらいはデスするでしょう。生き残ったプレイヤーも、そうとう削られているはず」
「20人減ったとしても、まだ15人も残っているわけだろ?いくらボス戦後で消耗しているとはいえ、俺ら2人でどうにかなるもんじゃないだろ」
「討伐には私も参加するから、15人から1人引いて14人ね」
「半分以上が死ぬと仮定しておいて、自分は生き残る想定とは、なかなかの自信家だね」
「キングヴァ―メルが討伐隊を削ってくれるほど都合が良いわけだし、私は積極的に攻撃しない。積極的に動かなければ、生き残ることは難しくないわ。それに私は、”暗夜皇軍”の中でも戦闘力はかなり高い方だから。自信じゃなく、客観的事実よ。とはいえ、私とリクだけじゃ14人は無理ゲーなのも確か。だから今回は協力者が欲しい。具体的には、近距離でガンガン戦えるアタッカーが1人。リク、誰か良い人しらない?」
ミナが協力者を欲するとは珍しい。 仲間が増えると分け前が減るから、いつも出来るだけ少数で計画を成そうとする。フレンドこそ少なくないが、リアルでのつながりから信頼されている俺以外に、本当の意味での仲間はいないはずだ。
「悪いが、それに関しちゃ俺には力にならん。基本ソロプレイだしな。お前以外とは滅多に組まん。てか近距離主体のプレイヤーなんて腐るほどいるし、ミナなら見つけられるだろ」
「その協力者に一番ヘイトが高い役目を負ってほしいのよ。半端なプレイヤーじゃ力不足。それに”暗夜皇軍”に喧嘩売る覚悟も必要。それらの条件をクリアし、かつ私が信用できる相手ってなると、リク以外いないのよね。今回の作戦は、私としても絶対成功させたいから。うーん、どうしようかな。アタッカーを1人じゃなくて2人にする?いや、それはなぁ……。でもそのくらいしか…」
ミナが頭を抱えて唸る。どうやらかなり悩んでいるみたいだ。しかし助けになりたいが、俺にはどうにもできな──
いや、待てよ??
脳に電流が走る。
「協力者、いるかも」
「マジ!!??私以外に、フレンドがいるの!!??????」
ミナがドンと机を叩き、我を忘れて大声を上げる。大声のあまり、周りにいた他プレイヤーから注目を浴びてしまった。
ミナのこれほどまでに取り乱すのは、初めて見る。俺に知り合いがいたのが、そんなに意外かよ。
「取り敢えず、聞くだけ聞いてみるわ」
「えぇ、お願い!で、誰なの?」
コップを飲んで喉を潤す。
「兄貴」
「こちらが今回”暗夜皇軍”との戦争に協力してくれる、人気Yotuberのダイチでーす」
「初めまして。ダイチです!チャンネル登録、お願いしまーす」
ミナから協力者の相談を受けたその日の内に、俺は兄貴と事情を話した。兄貴が話を快諾してくれたので、次の日に早速紹介した。
軽い調子でお決まりの挨拶をしてぺこりとお辞儀するダイチに、ミナは茫然自失となる。
「どど、どういうこと??」
やっとフリーズ状態が解けたかと思えば、しどろもどろになって言う。
まぁ、このゲームのプレイヤ―で知らない者はいない、チャンネル登録者60万の人気Youtuber、”ダイチ”が目の前にいるのだからな。ミナはダイチのファンだし、尚更だろう。
珍しくテンパるミナに、いたずら心が芽生えてしまう。
「どした?ダイチだと力不足??」
「そういうことじゃなくて!!逆に、役不足よ。協力してもらっていいの??そもそも、リクのお兄さんって、あの”ダイチ”なの!??」
謀略と駆使して数多のプレイヤーを欺いてきた極悪プレイヤーとは思えないほど、激しく狼狽ている。やはり推しを前にしたオタクの反応というのは、誰であろうと変わらないのか。
「うん、そうだよ。秘密にしてね」
ダイチがミナに向かってウィンクをする。こいつ、ファンを目の前にいるからって、格好つけてやがる。ムカつくから、机の下で脛を蹴ってやった。
「はい。命に代えても!!」
ミナが右手で拳を作り、左胸に強く当てる。これから巨人でも倒すのか?
「ただ協力するには、俺から条件がある。”ノーチラス号の切符”を使って受注できる海底都市のクエストストーリーに関する情報の提供。それと”暗夜皇軍”の襲撃を、動画で撮らせてほしい。これを満たしてくれるなら、”暗夜皇軍”のドロップアイテム、全部そっちが貰って構わない」
「そんなに譲歩してもらっていいですか?なんか、申し訳ない気が…」
「いいよいいよ。殆どのプレイヤーにとって未知である、海底都市のクエストについて。喉から手が出るほど知りたい視聴者もいるだろう。解説動画を作れば、かなりの再生回数が見込める。それに、リクに動画編集をいくつか無償でやってもらう約束もしたしね」
「えっ!!リク、ダイチさんのチャンネルの編集やってるの?」
「たまにな。小遣いくれるし、バイトみたいなもんだ」
「リクが編集した動画は結構あるよ。中には、リクが発案した企画だってある」
ミナが目を点にして、俺を見る。
「ガチ?????」
「まぁ、一応」
「舐めた口きいて、すみませんでした」
「今まで通りで頼む」
敬語はやめてほしい。距離が遠くなった気がして、冗談抜きで精神的にキツイ。
「取り敢えず、計画の詳細を教えてくれ。俺も具体的には聞いてねぇかんな」
ミナはこくりと頷き、いつもより若干上擦った声で話し始めた。
─────────って感じ。何か質問は?」
「またエッッグイ悪だくみだな」
ミナから計画を一通り聞き終え、率直な感想を言う。
「これ、動画的に大丈夫?所属ギルドを思いっきし裏切っているわけだし」
「うーん。別に問題ないと思うよ。“ザ・ヘル“では裏切りなんて、日常茶飯事だからね。それに最近、“暗夜皇軍“はグリッチ(運営の意図しないバクを利用し、ゲームを優位に進める行為。公平性を著しく損なう、不正行為の1つ)で大量のコインを稼いでいたらしいじゃん。裏切ってボコしても、そんな問題にはならないよ、きっと。”悪”をボコすの、ネット民大好きだから」
誰でも言えそうな言葉なのに、ユーチューバーが言うと説得力が違うな。
「それに、このネタをみすみす逃す方が痛いな。サムネを作りやすいし、ど派手な動画を撮れそう。今から編集が楽しみだよ!」
顔をほころばせるダイチに、毒を混ぜた言葉を放つ。
「捕らぬ狸の皮算用だな」
実際、ミナの作戦には感心したが、所詮は机上の空論。失敗する可能性も大いにある。
それが分からぬダイチではない。
しかしダイチは笑顔を崩すことなく、寧ろもっと嬉しそうに言う。
「心配すんな。弟の頼みに、醜態は晒せない。超攻撃型プレイヤーの最高峰を魅せてやる」




