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32  silver

 「マジでダイチだ!!」

「嘘でしょ!??ちょ、私、生で会うの初めて!生じゃなくて、仮想世界(ヴァ―チャル)だけど」

手榴弾によりただでさえ足並みが乱れていた暗夜皇軍は、”ザ・ヘル”で最も有名なプレイヤーであるダイチの登場で、ますますかき乱される。混混沌沌する暗夜皇軍を好機と見て、ダイチが単騎で突っ込む。

すると腕に自信があるらしい1人のプレイヤーが、ダイチを迎え撃とうと、暗夜皇軍の集団から飛び出る。

2人の視線が交錯し、透明な火花が散る。

ダイチは足を止めることなく、そのプレイヤーへ突進する。

2人の間の距離が刀2本分になる直前、相手プレイヤーの背中に矢が突き刺さり、『麻痺』『防御力減少』のデバフが課される。

「毒矢っ!!うっぜぇ!!」

遠目から憤るプレイヤーを見て、俺はニヤリと口の端を上げる。

得意武器はナイフだが、俺は大概の武器を一通り扱える、ユーティリティープレイヤーなのだ。覚醒(カンスト)する前の影魔法が弱すぎたので、その弱さを補うため、状況に応じて色々な武器を使える技術を磨く必要があった。本職のプレイヤーには劣る器用貧乏に過ぎないが、痒い所に手が届く。

矢とデバフによってできた隙を見逃さず、ダイチは大きく一歩踏み込み、一閃。更に剣を持ち上げ、右上段の構えから日本刀を振り下ろす。そこから流れるような動きで、トドメの突きを放つ。

洗練された刹那の3撃。

たったの3撃で、ダイチは相手をキルした。



どういうわけかうちの家族は、全員が美学というべき、強いこだわりを持っている

俺のこだわりは、『ダークな格好良さ』。影とか闇とか、裁縫セットのドラゴンとか、そういう中二っぽいカッコよさのあるものが大好きなのだ。

父は『古さ』に惚れている。医者や味噌に限らず、服も映画もどんなものでも、年代物こそ史上であると考える。未だにガラケーを使う化石みたいな人間だ。父が好む若いものと言えば、せいぜい女くらいものだろう。

母は『青』を愛している。部屋の壁は、全面が青。コップも、眼鏡の縁も、日用品のほぼ全てが青。母が青色以外の服を着ているのを、見たことがない。こっちが(ブルー)になるくらいの青好きだ。

そして我が兄貴であるダイチは、『攻撃』に惚れ込んだ。

漫画やラノベに度々登場する、攻撃力に全振りしたキャラや技に、兄貴は心酔した。

だから兄貴は”ザ・ヘル”で最も攻撃力が高い、太陽魔法を欲した。それだけじゃない。防御力や隠密能力などを度外視し、DPS(一秒あたりの与ダメージ量)を上げるためだけに、装備や武器を厳選した。

結果、プレイヤーとは思えないほど攻撃力が高いことから、ダイチは”徘徊型ボスモンスター”と一部から揶揄されている。

戦闘のことになると熱くなりすぎる性格と、知名度の高さ故に度々ゴースティングをされることが災いして、賞金首(レート)はトップ層と比べれば見劣りする。それでも純粋な戦闘力だけを見た時、ダイチが最強プレイヤーの一角を担うことを疑う者はいない。


1人キルして、ダイチの足が加速する。

「突っ込むな!!頭数はこっちが断然有利なんだ!!陣形を整ろ!太陽魔法と相性の良い水系統の魔法が使える者は、前に出ろ!!」

重役の1人だと思しき団員が、爆弾の音に負けじと声を張る。

的確な指示により、バタバタしていた暗夜皇軍がまとまる気配を見せ始める。が、謀略の悪魔が、それを許さない。

「スキル発動。”落白鯨”」

隊の最後列。ダイチと最も離れて場所にいたミナが、スキルを発動する。

ミナの武器”モカ・ディックの斧”の効果により、チャージなしでスキル”落白鯨”が発動する。海水で出来たシロナガスクジラは大きく空へと飛びあがると、数多のプレイヤーを押しつぶしながら、地面へと激突する。

ゲーム内で最広範囲かつ最大火力の攻撃に、ボス戦をして消耗していた暗夜皇軍のプレイヤーの多くがデスする。

唐突にフレンドリーファイアをしたミナに、団員の1人が詰め寄る。

「な、なにをしてんだ!!おまえっ──」

ミナは斧を力いっぱい振り下ろし、有無を言わせずそいつを叩き切る。

「すみません。私、この瞬間を以て暗夜皇軍を抜けます!!」

ミナは満面の笑みで退団を告げると、唖然とする一同へ攻撃する。



「意外とチョロかったな」

戦闘開始から暫くして、上空を旋回するトンボの視覚から戦場を見渡した俺は、勝ちを確信して呟く。

トンボを使った正確無比な爆撃と随所に飛んでくる俺の狙撃により、暗夜皇軍はまさにカオス。ゴチャゴチャになった陣形を、空腹の餓鬼が料理を素手で貪るが如く、ダイチとミナが暴れまわる。

ボス戦後を奇襲したので、もともとかなり削れていた。

そこから、爆弾の雨。ダイチの強襲。団員(ミナ)の背信。立て続けの仕掛けに、暗夜皇軍は完全に後手後手。

()団員であるミナの情報も大きい。団員の特徴や弱点を、詳しく知ることが出来た。

14人いた団員も、あっという間に5人にまで減少した。爆弾のストックが切れ寸前だが、ここまで来たら流れで押し込める。

勝利の予感に俺たちが浮足立った矢先、待ったをかけるようにして、それまで鳴りを潜めていた暗夜皇軍の団長が攻勢に転じた。

団長は豹のような速さでダイチに接近すると、瞬きの間に3度斬りつける。HPが減少し、ダイチはたまらず距離を取る。それを見た団長は、生き残っている他の団員に指図する。

「ダイチは俺が相手する。残っている奴らで協力して、ミナを片付けろ。爆弾の頻度が落ちてきたことから、恐らく爆弾は残りわずかだ。だが、警戒は怠るなよ」

指示を聞いた団員は「了解!」と覇気のこもった返事をし、混迷していたことが嘘のように落ち着きを取り戻す。錯綜していた自軍を、一声で綺麗に建て直させるとは、大してリーダーシップだ。

稲妻の如き剣技。詳しくない者が見れば初心者に見える程、薄い装備。噂にはよく聞いている。あれが、暗夜皇軍の団長。



作戦会議の際、ミナが言っていたことを思い出す。


「今の暗夜皇軍は、個々の戦闘力を見れば、全員がそこそこ強いって感じ。ただ団長だけは突出している。作戦が瓦解するとしてたら、まず間違いなく団長から。名前くらいは聞いたことあるでしょ?”最速”シルバー」

”ザ・ヘル”のガチ勢で、シルバ―を知らない者はいない。

人気Youtuberであるダイチとは、全く異なるタイプの有名人。シルバ―はインフルエンサーの類ではない。名が広まったのは、単純に強いから。

純然たる実力でトップギルドの頭目の地位を築き上げた、生粋の練達。

先月の賞金首(レート)では、日本ランク2位。正真正銘、最強プレイヤーの一角である。

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