28 loser
「………なんだ?バクか??」
いくら待ってもミニゲームが終わらないことに、俺は首を傾げる。人狼陣営と狐陣営を全滅させたから、市民陣営の勝利で幕を閉じる筈。
しかし何も起きることなく試合は続いている。バグかラグか、或いは───
『違和感を見つけたら、納得するまで疑いなさい。それが騙されないコツよ』
ミナのセリフが、ふと脳内によぎる。
違和感。
まさに今、違和感に直面する。
ゲームが終わらない原因が、もしバグやラグによるものではないとすれば??
人狼がまだ残っているということになる。
果たして、それはあり得るのか?
まず俺が人狼だと思っているのは、又三郎とイノセント。
又三郎は諸々の状況から、99.9%人狼だ。ではイノセントは?
イノセントを人狼だと思っている根拠。それは、1日目の夜にイノセントに襲われたという、ミナの証言だ。そのことを思い出し、俺ははっと息を呑む。
もしミナの証言が、嘘偽りのものなら?イノセントを人狼に仕立て上げ、自分が市民であることの信憑性を上げる虚言だとすれば?
色々と謎もあるが、一応話は通じる。ミナならやりかねない。
逆に、それしか考えられないくらいだ。なぜなら、今のフィールドで生き残っているのはミナだけだから。
しかし、もし本当にミナが人狼なら、まずい。非常にまずい。
俺は又三郎と戦った際、ミナに加勢に来てもらうよう、閃光弾を上空に放り投げて位置を知らせた。だがミナが人狼であるならば、羊が「餌はここにいるよ!」と自ら叫んで狼に伝えるようなものだ。
すぐに逃げ───
いつの間にか忍び寄っていたミナが、斧を満身の力を込めて振るう。咄嗟にナイフで防御しようとするが、武器の重さが違いすぎる。ナイフは粉々に砕かれ、斧が俺の体を叩き切る。
HPがゴソッと減るも、叩き切られた衝撃を利用して、後ろへ逃げる。
「ミナ!!やってくれたな!!!」
俺が叫ぶと、ミナは少し驚いた顔を見せる。
「あれ?もしかして、私が人狼だって気付いた?」
「ついさっきその可能性に気づいたところだ。てか、マジで人狼なのか!?昨日の夜とか、なんで俺を見逃したんだよ」
「疑問は私が勝った後に教えてあげるわよ」
「勝てる前提かよ。ムカつくな」
「それはいいわね。苛立てば、プレイに悪影響が出るもの」
ミナはそう言いなから、靴の踵を3回タップする。するとミナの靴が、虹色に輝きだした。
「……ナニソノクソダサ靴」
「失礼な。最先端のファッションよ」
ミナは軽口を叩くが、ミナがその靴を履いている理由は明白。”影踏”への対策だ。
”影踏”は影を踏んだ物を停止させるスキル。光る靴で自らの影を消せば、”影踏”を無力化できる。
どうやら影魔法は、徹底的に対策されているらしい。
影魔法はハマれば強力だが、環境入り出来るほど強くはない。初見殺しに特化しているだけで、対策次第ではどうとでもなるピーキーな性能だ。
だから影魔法の最大の強みは、俺以外にカンストさせているプレイヤーが居ないから、その性能を誰も知らないこと。裏を返せば、対策されれば一気に弱体化する。
影魔法の強さや弱さを、ミナは俺以上によく理解している。それはつまり、影魔法についての誰より深い対策が取れるということ。
最悪の相手だ。俺からすれば、世界ランク1位の相手より、ミナの方が勝ち目がないと言っても過言ではない。
「ちなみにこの靴はオシャレなだけじゃなくて、ちゃんと実用性もあるの。この靴は七色の光を放つ間は、跳躍力が3倍になるの」
ミナはそう言い終わるや否や、地面を蹴り上げ前に跳び、一瞬で俺との距離を詰める。それと同時に、斧を高く掲げて、スキルを発動する。
「スキル発動”落白鯨”」
海底都市のクエストにより金太郎から与えられたアイテム。海魔法専用武器“モカ・ディックの斧“。その効果は、本来は長い詠唱とチャージを必要とする“落白鯨“を、1度だけ詠唱とチャージをスキップしての発動を可能とすること。
”落白鯨”は、ゲーム内に存在する1000を超えるスキルの中で、火力と攻撃範囲の両方が最も優秀なスキルだ。しかし高火力広範囲の代償として、発動までのタメが致命的に長い。タメが長すぎるせいで、攻撃範囲から余裕で逃げられてしまうため、MPを大量に消費するだけのクソスキルだと散々馬鹿にされている。逆に言えば、タメさえなければ環境破壊するほどのぶっ壊れスキルだ。
ミナの頭上に、海水で出来た巨大なシロナガスクジラが現れる。シロナガスクジラは大きく身をよじりながら、地面に落下する。
全長25m以上。世界最大の動物種。それを再現した巨体による体当たり。
逃げ場などない。
近くにあった木々も丸ごとへし折りながら、シロナガスクジラは俺を押しつぶた。




