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 3日目の夜。

俺はガープを時間内に仕留めることができた喜びに、ブルブルと震えていた。

一通りを歓喜を噛みしめると、ポーションを飲んでHPとMPを回復させ、当てもなく歩き始めた。

狐を倒せたことは大きいが、まだゲームは終わっていない。

人狼の又三郎がまだ残っている。俺は狩人であるため、夜でも人狼に対抗できる。だから人狼に襲われている市民を助けられるよう、夜のターンはマップ上を動き回らねばならない。それが狩人の定石だ。

だが夜に動き回るということは、必然的に人狼と遭遇するリスクを高めることとなる。

夜のターンは視界が悪いため、”蜻蛉”を使ったところでトンボの目から得られる視覚情報はほぼ0。自分で歩く他ない。慎重に周りを警戒しながら、探索を行う。

しかし人が減ってきたからか、探索の甲斐はなく誰とも遭遇することはなかった。

そろそろ夜のターンの終わるかと思われたその時、地面に倒れている人を発見する。

目を凝らすと、そのプレイヤーの頭上には赤文字で『DEAD』と表記されていた。

プレイヤーネームを確認すると、”ウミガメポテチ”と書かれている。どこかのタイミングで、人狼に消されたのだろう。

俺がデスしたプレイヤーを見ていると、不意に足音が聞こえた。即座にナイフを構え、音のする方向に神経を集中させる。暗闇から姿を現したのは、ミナだった。

「あっ、リクじゃん!また会ったわね」

「ミナか。驚かせるなよ。つーか、市民なのになんで夜にうろついてんだ?手ごろな場所に隠れてろよ」

俺がナイフをしまうと、ミナは一番気になっているであろう質問を投げてくる。

「ガープは殺せた?」

「ギリギリだったが、なんとか()れた」

「ナイス!私からも報告があるわ。昼のターンにアルジャーノンと出会って、キルできたわ」

「マジかよ!人狼の”爆弾魔”も、リア狂のアルジャーノンもキルするとか、お前活躍しすぎだろ」

「活躍すれば、その分勝った時の報酬が高くなるからね。そりゃ、気張るわよ。状況を整理しましょ。まず、その死体はだれ?」

「”ウミガメポテチ”って人だ。今のところ確実に死んだのが、村人は”ウミガメポテチ”と”アルジャーノン”。人狼は”爆弾魔”。狐が”ガープ。”生き残っている可能性があるのは、私、リク、エルマ、又三郎の4人か」

「残念だけど、エルマさんの死体をさっき見つけたわ」

「まじか。なら今の勢力図は村人陣営が2人vs人狼1人。狐が消えた以上、俺たちの勝利条件は又三郎をキルすること。明日の昼に、”蜻蛉”で見つけて潰すとしよう」

「結局、影魔法のスキルの中で、それが一番無法よね。索敵性能が高すぎる」

ミナはアイテムボックスを操作して、俺に閃光を投げ渡す。

「又三郎に戦う前に、これを上空に上げなさい。そしたら私も駆けつけるわ」

「ガープと戦う前に渡せよ」

「ガープと戦う時に使ったら、私以外にもアルジャーノンとか又三郎とか、敵の味方がくる可能性が有るじゃない」

「あ、そっか。サンキュー。でもお前が加勢に来る前に倒しても、文句言うなよ?ガープとの激闘を征して、俺は絶好調なんだ」

「期待してるわ。でも、負けても別にいいわよ。どの道、私は勝てるから」



ミナと話していたら200秒が経過し、夜のターンが終了した。ランダム転送が行われ、4日目の昼が始まる。

決めていた通り、俺は“蜻蛉“で索敵を開始する。あっという間に又三郎を見つけることができた。結構近いところにいる。

十数秒走れば、もう目視できる距離まで近づけた。

又三郎はまだこちらに気付いていない。

さて、どうやって奇襲しようか?




()()()()()()()、まず茂みに隠れながらゆっくりと近づく。限界まで近づくと、大地を蹴り上げて猛進する。すんでのところで俺に気付いた又三郎は、ナイフを剣で受け止めると、バックステップで距離を取る。

不意打ちは呆気なく失敗したので、閃光弾を真上に投げる。閃光弾は樹木の上から、空の彼方にまで届くほど眩い光を発する。

これでミナに俺に今の位置が伝わった。ほどなく、加勢に来るだろう。

でも、どうせなら加勢が来る前に速攻で倒して、カッコつけたいのが男の子というものだ。


「スキル発動”神風(ゴッドブレス)”」

又三郎がスキルを発動する。それと同時に、又三郎のHPが少し削れる。

”神風”は確か、HPを継続的に消費することで機動力と攻撃力を爆発的に上げる、ハイリスクハイリターンのスキルだったはず。

「思い切ったスキル使うね。決着が速くて済むのは助かるけど」

「ちまちま削り合うのは性に合わなくてな」

又三郎は地面を蹴り上げ、1歩で俺との距離を詰める。

速い!

想定以上の速さに出遅れた俺を見逃すことなく、又三郎は一閃。そのままギアを上げて、更に俺を滅多切りにする。俺も負けじと又三郎と斬りつける。

俺も又三郎も、相手の攻撃を意に介すことなく、無二無三に攻撃する。倒される前に倒せばよいという、馬鹿丸出しの脳筋理論による、ノーガードの斬り合い。

その光景は戦士の戦いというより、意地の張り合いだ。自分も敵も防御力を0にする影魔法の特殊効果により、俺と又三郎のHPはガンガン減っていく。

しかしHPの減りが早いのは、一目瞭然で俺の方だった。”神風”よりバフのかかった攻撃力と攻撃速度は凄まじく、俺のHPバーはみるみるうちに縮んでいく。

このままやりあえば、俺が先に死ぬ。


でも問題はない。

なぜなら又三郎と切り結んでいる俺は、”影武者”により生み出した分身体だから。

本体の俺は最初からずっと茂みに中に身をひそめたまま。

だがそろそろ分身がやられそうなので、乱入するとしよう。又三郎の背後から近づき、ナイフを突き刺す。

乱入者が現れたことに又三郎は舌打ちをつき、後ろを振り返る。

「ちぃっ!誰……はぁぁぁっっっ!!!!!?????」

しかし俺の顔を確認した又三郎は絶叫する。まるで幽霊でも見たかのようだ。何も知らない奴からすればドッペルゲンガーみたいなものだし、当然と言えば当然だか。

又三郎は強面の癖に意外と怖がりなのか、腰を抜かしてその場にへたり込み、パニックになって滅茶苦茶な太刀筋で俺を斬りつける。委縮した相手を一方的にボコすのは気が引けるが、勝負の世界に情けは無粋。

分身と2人で、ノリノリでボコボコにする。

又三郎のHPは凄まじい勢いで減少し、5秒も立たずに0になる。

最後の人狼をキルした。狐も残っていない。


ゲームセット。

市民陣営の勝利───のはずだ。はずである。

「何が起きてんだ?」

俺は思わず呟く。

何も起きない。何も起きないということが、静かに起きていた。

人狼デッドウォーは終了することなく、当たり前のように継続する。


それはつまり、人狼はまだ全滅していないということである。

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