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26 timer

 ガープに近づき、一閃。ナイフで肉を切る効果音が、森の冷たい空気に溶ける。

ガープはなんとか対抗しようとする。が、先ほどとは違い、これはナイフの間合い。優位は断然俺にある。

手を止めることなく、流れるように2撃目、3撃目を叩きこむ。この調子で攻め倒せれば、キルするのに時間はかからない。

だがしかし、それで済むほど簡単な相手ではない。

「スキル発動”拒絶する世界”」

ガープがスキルを発動する。するとまるで磁石のN極同士が反発するが如く、俺はガープから弾き飛ばされる。

折角近距離戦に持ち込めたというのに、また振り出し。けれども、これはしょうがない。初見でこれに対抗する方が無理だ。それに、ガープの戦闘スタイルが凡そ把握できた。

得意の中距離で戦い、距離を詰められたら今のスキルで遠ざける。

ベタベタの中距離特化プレイヤー。中距離なら歯が立たないが、近距離戦に持ち込めれば、勝ち目はある。

勝算は立てられた。問題は時間だ。タイマーを横目で見ると、3日目の昼が始まってから2分半が過ぎようとしていた。昼と夜は200秒で入れ替わるので、残された時間は50秒。

もしこれが通常の戦闘なら、俺は相手のMP切れを狙って、相手の攻め手が緩むまで回避に徹し、確実に勝つ。だがそんな悠長な真似は出来ない。

50秒以内にこいつを倒す。ウルトラCのタイムアタックだ。策を練る暇などない。ぶっつけ本番の特攻にワンチャンを賭ける!!


俺が動き出したのと同時に、ガープもモーニングスターを振るう。

互いに間合いの全く異なる武器を得意とするプレイヤー同士の戦い。

どちらが自分の有利な間合いの押し付け合えるかが、勝負の肝だ。

俺は自由自在に空中を飛び回る棘鉄球を躱しながら、タイミングを見計らってスキルを使う。

「スキル発動”陽炎”」

幻影を創り出し、それを囮にしてガープに忍び寄ろうとする。しかし、ガープにかなり接近した時。

「そこだ!!!」

ガープは幻覚を見破り、忍び足で近づいていた俺を見つける。ガープはすぐさまモーニングスターを引っ張って、棘鉄球を加速させる。

このままでは俺はまたしても棘鉄球にぶつかってしまう。

だがこいつが幻覚を見抜くことは、想定済みだ。


ガープの左肩に、落下してきてたナイフが突き刺さる。

「っつ!!なんっだよ!!」

”陽炎”は初見殺しの手品。ガープならきっと2度目は通じない。

だから俺は”陽炎”を発動した直後、右手のナイフを上を投げた。ガープの右腕に刺さったナイフは、俺が接近する前に上へ投擲したナイフが、放物線の軌道を描き、落ちてきたもの。狙い通り命中するかは賭けだったが、結果は俺の期待通り。勝利の女神が、俺に勝てと言っている!

想定外の攻撃に動揺したガープは、手を滑らせてモーニングスターの操作を誤り、棘鉄球はてんで的外れな方向に通過する。

しかしガープは動揺しつつも、冷静さを完全に失っていなかった。迫る俺を遠ざけようと、スキルを発動しようとする。

弾き飛ばす攻撃が来ることを肌で感じ取った俺は、ガープより一瞬早くスキルを発動する。

「スキル発動”影武者”」

「スキル発動”拒絶する世界”」

”拒絶する世界”により、俺は後方へと弾き返される。

恐らく”拒絶する世界”は、ガープの近くにいるプレイヤーやアイテムにかかる重力ベクトルを、ガープの反対方向にする効果。その斥力に抗うことは難しいだろう。

しかし”影武者”なら、抗える。

”影武者”を発動してから、影が分身へと変身する約1秒の無敵時間が存在する。

その間なら、”拒絶する世界”の効果を受けないかもしれない。


そんな俺の目論見は、大正解だった。

分身へと変身していく俺の影は、”拒絶する世界”の効果を受けることなく、その場に留まる。


完全に変身を完了した俺の分身は、跳ぶように地面を蹴ると、驚愕するガープを斬りつける。

ガープは体術でなんとか対抗しようとしているが、流石に狼狽えているのか、動きは精彩を欠いている。自慢のスキルを突破され、聞いたこともない分身を作り出すスキルを目の当たりにしたのだから無理もない。

そしてこの状況で”拒絶する世界”を再び使用しないということは、やはり”拒絶する世界”はそれなりクールタイムが必要なのだろう。クールタイムがないのならぶっ壊れスキルだから、流石にあるとは思っていた。


やっと来た、絶好の好機。

分身に続いて、本体である俺も攻撃に参加する。

俺と分身の連撃によってガープのHPはどんどん減少し、0が目前となる

だがここで、スキルのクールタイムが終わる。

「スキル発動”拒絶する世界”」

横向きの重力に逆らうことが出来ず、俺も分身も弾き飛ばされる。

残り時間を確認すると、あと20秒後。それを過ぎれば、昼のターンが終了し、九分九厘負ける。対してガープのHPは、2回攻撃を与えたらキルできるくらいにまで減らせた。あと一押しだ。

「スキル解除 ”影武者”。スキル発動”陽炎”」

”拒絶する世界”への対策のために、”影武者”を解除して温存。

再び”陽炎”で幻影を創り出し、死角を突こうとガープの右に移動する。

だがしかしガープは、まるで空から動きを見ているかのように、モーニングスターを操って俺に棘鉄球をぶつける。


「焦ってるな?でも足音たてちゃあ、幻影も無意味だぞ!!」

焦りから忍び足を忘れてしまい、足音から位置がバレてしまったのだ。

痛恨のミスだが、今は反省する時間も惜しい。


巨大な鉄の塊は、俺を宙へと軽々吹き飛ばす。なんとか受け身を取り、時間を確認する。

残り12秒。

回り道をする余裕はない。最短距離を駆けなければ間に合わない。

だがそうすれば、間違いなくモーニングスターの餌食。勘が当たれば1回だけなら鉄球を避けらえるかもしれないが、2回連続の回避は無理。


万事休す。

冷めた頭はそう囁くが、不思議と諦めようとは思わなかった。

この時の俺は、ガープがチーミングをしていることや、これがミニゲームの勝敗を決める大一番であることを、完全に忘れていた。

特別な理由などない。ただただガープというボスを、是が非でも攻略したくてたまらない!!

どうにかこの絶望を打開できないかと考えを巡らせた時。

神様が告口してくれたのか、1つのアイデアが浮かんだ。

このアイデアが成功するかどうかは、やってみないと分からない。もしかすると、全くの思い過ごしかもしれない。

だが試さなければ、勝率は0%。

俺は地面を蹴り上げ、勢いよくスタートダッシュを決める。


残り時間は、9秒。

全力疾走する俺に、ガープはモーニングスターで攻撃してくる。

まずこれを躱せないと話にならない。

棘鉄球をギリギリまで引き付け、スライディングで躱す。

だが体勢を崩したこの状態では、次に一撃は避けきれない。だから───

「スキル発動“影踏(かげふみ)“」

”影踏”は、影を踏んだものの動きを5秒間停止させるスキル。

今までは相手プレイヤーの動きを止めて、その間に一方的にこちらが攻撃する使い方しかしてこなかった。それしか頭になかった。

だが俺が今踏んでいる影は。モーニングスターの鎖の影。

俺は”影踏み”の効果対象がプレイヤーだけではなく、アイテムにまで適用されることに賭けたのだ。

俺の朧げな記憶によれば、影踏みは『影を踏んだ()の動きを、5秒間停止させる』だった気がする。

”影踏”のスキル説明文をゆっくりと読む暇も、実際に試してみる暇もなかった。だからぶっつけ本番の一か八か。俺の記憶と推測が正しいことに賭ける!

果たして、”人狼デッドウォー”そのものの勝敗に大きく関わる大博打は、最高の結果を引き当てた。

「なっ!…どういうっ!!」

”影踏み”発動と同時に、モーニングスターはピタリと動きを止める。慣性の法則を完全に無視した現象に、ガープは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

俺はスキル発動から2秒ほど間を開けて、鎖の影を踏んでいた足を上げる。すると止まっていたモーニングスターは、停止する前の動きを再開する。

しかしその2秒間()止まっていた武器が急に動きを取り戻したとしたら、例えそうなると分かっていたとしても、対応するのは不可能。それもフレイル型モーニングスターという扱いの難しい武器なら尚更だ。


俺は影から足を離して”影踏”を解除すると同時に、全身の力を込めて地面を思い切り蹴る。

残り4秒。

”影踏み”のお陰でガープは俺に攻撃する余裕はない。一心不乱に足を回して、ガープに近づく。2m、1mと距離はドンドン縮まり、ついにナイフの間合いに入る。

残り1秒。

大きく一歩を踏み込み、両手のナイフを振り抜く。


残り0秒。



昼のターン開始から200秒が経過し、夜のターンとなる。

同時に、俺はマップ上にランダム転送された。

俺は周囲に敵がいないか見渡した後、地面にへたり込む。興奮から疲労からか、手がブルブルと震えている。

転送される直前の一瞬。俺は確かに目撃した。

ガープのHPバーが縮み、底を尽きたのを。

つまり。つまりだ。俺は間に合った。

昼のターン中に、ガープを殺しきれた!!

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