25 dancer
2日目のの夜。ミナとの話し合いで、又三郎とアルジャーノンとガープがチーミングを行っているであろうことを突き止めた。同時に、3日目の昼に狐であるガープをキルできなければ、負けが濃厚であることも発覚した。
そして2日目の夜が終わり、3日目の昼が始まる。
このターンが、狐を殺す最後のチャンス。
マップ上にランダム転送されると同時に、まずスキル”蜻蛉”を発動し、索敵を開始する。MP温存のため、これまではスキルをあまり使ってこなかったが、出し惜しみしている余裕はない。
すぐにガープは見つかった。幸い、さほど離れてはいない。即座にガープの元へ全速力で向かう。今回は時間との勝負。1秒たりとも無駄には出来ない。
数十秒走り続けて、やっと俺の瞳にガープが写る。
ガープも俺に気付くと、ただならぬ形相から危機を感じ取ったのか、柄と棘付き鉄球が鎖で繋がれたフレイル型のモーニングスターを即座に構える。モーニングスター使いとは珍しい。
棘鉄球の部分が俺の頭より遥かに大きい。あれだけ大きければ、重量は相当なもののはず。使いこなすのは難しいなんてもんじゃない。俺も一度その武器を試したことがあるから分かる。
もしかして、実用性度外視で使いたい武器を使うエンジョイ勢か?チーミングなんて狡い手を使う癖に?
そんなことを考えていると、ガープがスキルを発動する。
「スキル発動”踊り狂う世界”」
ガープの持つモーニングスターが、黒い光で覆われる。武器に何かしらのバフを与えるタイプのスキルだろうか?
ガープは柄と鎖を引っ張り、ブンブンと棘鉄球を高速で回す。
十分に加速したところで、俺に棘鉄球を投げつける。その速さ、さながら大砲だ。しかし軌道は直線的。タイミングを見計らってジャンプし、難なく躱す。
そして丸腰になったガープへ走り、一気に距離を詰める。
あと数センチでで俺のナイフがガープの喉元に引き裂きそうな所で、背中に凄まじい衝撃が走る。完全に不意を突かれ、気が付けば地面から足が離れていた。車にぶつかったらこんな感じなんだろうな、という凡庸な感想が頭に浮かんで、地面に叩きつけられる。
人1人をあれほど吹っ飛ばせる武器は、モーニングスターの棘鉄球以外にない。だがガープは鉄球を引っ張って戻す動作はしていなかった。慣性の法則が無くならない限り、鉄球を俺にぶつけることは不可能なはず。
なにかタネがある。
分析する暇を与えることなく、ガープは追撃を行う。
モーニングスターを巧みに操り、再び棘鉄球を俺に目掛けて真っすぐ放る。俺は咄嗟に右に跳んで棘鉄球の軌道線上から外れる。
回避できたと安心したのも瞬間。棘鉄球はぐいぃと不自然に曲がり、俺に吸い込まれるようにしてぶつかってきた。
暴力的な質量と速さを兼ね備えた棘鉄球は、俺を野球ボールのように弾き飛ばす。
「よく飛ぶな。体重軽めに設定してる?そういや、明らかに敵意剥き出しだったからつい先制攻撃しちゃったけど、敵でいいんだよね?」
ガープは鎖を引っ張って棘鉄球を手元に戻しながら、質問を投げかけてくる。余裕からか、その口元が憎たらしいほど吊り上がっている。
「あんた、狐なんだろ?」
「あぁ、バレてんのね」
「それと、”又三郎”と”アルジャーノン”と組んでいるんだろ?」
余裕の笑みを浮かべていたガープは、俺の発言を聞いた途端顔色を変える。
「……なんのこと?」
「その意味深な沈黙から白を切るのは、流石に無理があるって」
「だよなぁ。俺も途中で思った。よくそのことが分かったな」
「ついでにもう一つ見抜いておこうか。お前の魔法属性、重力魔法だな?」
最初に棘鉄球を当てられた時点から、重力魔法ではないかと疑ってはいた。
確信したのは、2回目の攻撃。追撃を避けたはずの棘鉄球が、別の力が加わったかのように軌道が変化した。
離れた物体をあそこまで自在に操れるのは、重力魔法の他にない。
「正解。ま、こっちは別に隠しているつもりはないだけど。でも重力魔法ってかなりレアだし、炎とか雷みたいに視覚的な効果がないから、初見が相手だと結構バレないんだよ。よく気付いたね」
こいつが使った”踊り狂う世界”とかいうスキルは、鉄球にかかる重力の向きや強弱を操る効果なのだろう。だから鎖で操るまでもなく、鉄球が縦横無尽に動く。
「重力操れれば、モーニングスターも簡単に使えるじゃんって思うでしょ?意外と難しいんだな、これが。結構練習したんだぜ?」
ガープはそう言うとモーニングスターを操り、戦闘を再開させる。鎖で棘鉄球を操作し、重力操作によって軌道に変化を加える。
凶悪な組み合わせだ。ガープはまるで鉄球自身が意志を持っているかのように、モーニングスターを巧みに動かす。それだけならなんとか軌道を予測して躱せるがが、重力操作のせいでその予測が裏切られる。
こいつ、かなり強い。
重力操作のタイミングも絶妙だし、動きの随所に工夫がみられる。そ
ガープだけじゃない。又三郎もアルジャーノンも的確に連携できていたし、個々のプレイヤースキルも高かった。チーミングをしている3人は、ちゃんとした実力を持っている。
その点で、初心者狩りの3人組やチーターのジャバタスとは一線を画する。あいつらはズルするから強い奴らだが、この3人は強い上にズルもする奴。
厄介度は段違い。コイキングとギャラドスぐらい違う。
特にガープは、あまりいない戦闘スタイルで、戦いずらい。棘鉄球を避けるのが精一杯で、攻撃に転じられない。
だが一介のゲーマーとして、チーミングしている奴に負けるわけにはいかない。
攻撃を躱しながら、敵を分析する。
俺が一方的に嬲られているのは、敵が遠いからだ。
ガープの武器は、フレイル型のモーニングスター。ナイフを使うゴリゴリの近接アタッカーである俺では、どう抗っても中距離戦では勝ち目がない。逆に距離を詰めることさえできれば、俺の間合い。
問題は、距離の詰め方。
中距離では俺に打つ手がないことは、ガープも気づいている。だから徹底して近づけさせないようにしている。
しかし丁度良いことに、中距離相手にお誂え向きのスキルがある。
「スキル発動。”陽炎”」
スキルを発動し、ガープに特攻する。
その動きを見たガープは、棘鉄球を高く宙へ上げてから、棘鉄球を俺の頭上に落とす。重力魔法により、鉄球にかかる重力を数倍にしているのだろう。棘鉄球は小さな隕石となって、俺の頭に振り落ちる。
ガープの視点からは、そう見えていたことだろう。
鉄球が落ちた場所には、俺の影すらなかった。
ガープの物知り顔が、一瞬で青ざめる。
”陽炎”は幻影を見せるスキル。
MP消費が大きい上、発動条件に一定時間の攻撃力低下デバフが付くから、なかなか発動しずらい。しかも作り出した幻影は、ちゃんと見れば幻影だと分かる完成度。しかしガープはある程度距離が離れており、初見ならまず気付かない。
ガープが攻撃したのは、”陽炎”で創り出した虚像。本物の俺は、幻影に隠れて、既にガープの死角に移動していた。
俺は死角から迷いなく飛び出し、ガープとの距離を一気に詰める。
これで俺の間合い。倍返しの時間だ。




