22 archer
1日目の夜、エルマさんは人狼に襲われていた。だから99%、エルマさんは真の占い師。そしてエルマさんがアルジャーノンを占ったところ、結果は市民。
故にアルジャーノンは市民陣営。
だというのに、アルジャーノンは背後から俺を刺してきた。うっかりとかではなく、明らかに故意に。
意味が分からず硬直している内に、又三郎が距離を詰めて、一閃。俺の体を垂直に斬る。
攻撃を受けたことで、今は眼前の敵2名への対処に集中すべきだと冷静になり、ポケットから取り出した煙玉を炸裂する。
煙で敵が俺を見失っている内に、黒い槍から体を抜き、遁走する。
三十六計逃げるに如かず。
相手は2人。先制攻撃も食らった。いくらなんでも分が悪い。
200秒経過して夜のターンになり、再びマップにランダム転送されるまで、生き残ることに全神経を注ぐ!
俺のステータスは、攻撃力と俊敏性に特化している。万全の状態なら、追いつかれるはずがない。
余計なことは頭から排除して、地面を蹴る。
だがしかし、俺は思考をリセットして冷静になれた気でいたが、その実しっかり動揺していた。だから普段なら絶対にしない、致命的なエラーをしてしまった。
又三郎とアルジャーノンは風魔法で煙を晴らし、逃げる俺を追いかける。
少し走ってから、敵とどのくらい距離が開いたか、振り向いて確認する。すると、僅か3,4m後ろに、又三郎が迫っていた。
「スキル発動。”風翼”!」
又三郎がスキルを発動すると、猛烈な追い風が吹き、急加速。瞬きの間にゼロ距離となったと同時に、又三郎は右足を鞭のようにしならせ、俺を蹴飛ばす。
右の脇腹に強い衝撃が走り、体は宙を舞う。
なんとか受け身を取ってダメージを抑え、すぐに立ち上がって次の攻撃に備える。
その時には、遅れてきたアルジャーノンが又三郎の横に立っていた。2人を注視しつつ、HPがどれだけ残っているか確認しようとHPバーを見て、俺は漸く己の失態に気付く。
HPバーの上に、[状態異常:防御力ダウン、敏捷性ダウン]と表示されていた。
状態異常によりスピードが落ちていたため、敵に追いつかれたのだ。いつもなら動作性の鈍さから気付けていたはず。冷静になり切れなかった俺の失態だ。
あとでゆっくり反省するとして、問題はこの状態異常が、「誰に」「どんな攻撃で」付与されたかだ。
これまで食らった攻撃は3回。1回目は、アルジャーノンに背中を刺された時。2回目は、又三郎に斬られた時。そして3回目が、又三郎に蹴られた時。
又三郎と戦ったエルマさんに状態異常が生じていなかったから、又三郎にデバフを与える攻撃はないだろう。消去法でアルジャーノンに槍で刺された時に、デバフを掛けれたと推察できる。
そうして見れば、アルジャーノンの不気味な装飾が施された黒い槍。いかにもデバフ効果が与えそうな見た目をしている。恐らくあの槍が、デバフの原因。
このデバフはかなり強力だ。これ以上あの槍を食らうことは、絶対に避けたい。
「スキル発動。”桜吹雪”」
場が落ち着いた矢先、アルジャーノンがスキルを発動する。
空中に桜の花びらが現れ、一斉に俺へ飛んできた。走ってそれを躱すと、走った先に回り込んできた又三郎が、雷が迸ったのかと思わせる程鋭く、剣を振り下ろす。俺は2刀のナイフを使って、なんとか剣を受け止める。そこにアルジャーノンが間髪入れず、俺の胴体を狙って刺突。俺は左手のナイフで又三郎の剣を受け流しながら、右手のナイフでアルジャーノンの槍を弾く。
そして即座にバックステップをして、再び距離を取る。
「おぉ、テクい!やるねぇ」
俺の動きを見た又三郎は、感心した風に言う。
俺は謙虚な人間だが、回避能力を褒められたら時は、鼻を高くせずにはいられない。
中学受験の面接で長所を聞かれた際、『回避能力です!』と元気よく答えた。喋る犬を見たような面接官の顔は、今でも鮮明に覚えている。受験は不合格だった。
…というのは、流石に冗談だ。面接はちゃんと受け答えしたし、受験は普通に落ちた。
回避能力には一家言あるが、今みたいに回避し続けるのは難しいだろう。
普段なら2対1だろうと、100秒でも200秒でも回避しきる自信がある。だが今は状態異常により、その普段通りが発揮できない。
プレイヤースキルで誤魔化してきたが、ステータスを考えれば俺の耐久性能はカス。なにせ影魔法の呪詛により、防御力が0なのだから。それの上、ステータスは攻撃力と敏捷性に特化しており、HPも低い。タフさに関していては、スライムといい勝負だ。
昼のターンが終わるまで、時間はたっぷり残っている。
結構、いや非常にピンチだ。
又三郎とアルジャーノンは、俺を前後で挟みながら攻撃を仕掛けてくる。
相手の連携は洗練されており、1人を視界に収めれば、必ずもう1人が死角に入るよう動いている。積極的に攻めてくるが、不用意に飛び込んでくることもない。
出会ったばかりの2人とは思えないほど、卓越したコンビネーション。
奮戦するが、劣勢を覆すには至らない。
徐々に徐々にHPを削られ、気づけばあと一撃でデスする崖っぷち。
「スキル発動”大鎌風!」
又三郎がトドメを刺そうと、スキルの発動を試みたその時。
ヒュー
風を斬る高く心地よい音が、どこからともなく空気を震わせる。
かと思った次の瞬間、矢が又三郎の肩を貫いた。
俺たちに驚く暇を与えずに、2投目の矢が、今度はアルジャーノンの腹に刺さる。
「ちぃっ!なんだぁっ!どっから狙ってきやがった!」
攻撃されてスキルの発動をキャンセルされた又三郎が、怒声を上げる。
何が起きたのか分からず、誰もが硬直していると、矢が飛んできた方向から、鈴を思わせる透き通った声で、名前を呼ばれる。
「リクさん!こっちです!」
声の主は、エルマさんだった。
襲われている俺に、助け舟を出してくれたのだ。
絶体絶命の暗闇に差して、一筋の光。考えるよりも早く、足が動いた。
俺が逃げ出してのを見て、アルジャーノンと又三郎は俺を追いかけようとする。しかしエルマさんがすかさず矢を射て、牽制する。
十分距離が離れたら、エルマさんが煙玉を使用し、俺たちは茂みの中へ逃げ延びた。
茂みに身を潜め、敵が追ってきたないかを念のためチェックする。
安全を確認したら、徒労感から大きなため息が出た。
「ふぅ、危ない所だった。にしても、助かりました。ありがとうございます」
頭を下げると、エルマさんは慌てた様子で言う。
「いえいえ、私も先ほどは助けてもらえましたし、お互い様です」
1日目の夜、人狼の又三郎に襲われていたエルマさんを、俺が助けた。もし気付くのが遅れて助けるのが間に合っていなかったら、エルマさんの援護射撃はなく、俺はデスするしかなかっただろう。
情けは人の為ならずというが、ここまで早く恩を返されるとは思ってもいなかった。
「それより、どうしてアルジャーノンと又三郎の2人から襲われていたんです?アルジャーノンは市民で、又三郎は人狼のはずですよね」
エルマさんに尋ねられ、肩を竦める。そんなこと、俺がを聞きたいくらいだ。
色々な可能性が浮かび上がるも、そのどれにも納得がいかない。
考えを纏める間もなく、昼のターンから200秒が経過。
またしても、恐ろしい夜がやってきた。




