19 give married couple flower
火事により焼死したはずの、浦島太郎と乙姫。2人が今、目の前に立っている。
衝撃的な展開に、情報を処理しきれず頭がクラクラする。
「浦島さんっっ!!!!!!」
立ち竦む俺を尻目に、金太郎は大粒の涙を零し、浦島へ抱き着く。乙姫のことは、見えていないご様子。恋は盲目とは、よく言ったものだ。金太郎は何か言葉を発しているが、号泣しているため、何を言っているのかまるで分からない。
浦島が金太郎をあやし終えた後、浦島と乙姫が事件の真相を明かした。
2人の話は少々長かったので(浦島と乙姫の馴れ初めとか、どうして好きになったとか、聞いてもいない惚気話が度々挟まれた)ここに事件の本筋のみをここに記す。
まず焼死したはずの浦島と乙姫が、なぜ生きているか?
火事現場で発見された2名の死体。状況から浦島と乙姫だと考えられていたが、実は死体安置所から盗んだ全く別人の遺体だったのだ。思えば、死体が誰か判別付かないほどに黒く焦げていたという時点で、生存フラグがたっていた。本物の浦島と乙姫は、離れが燃え始めた直後に、火事のどさくさに乗じてその場から逃げていたそうな。桃太郎の屋敷に向かった不審者2名は、なんと浦島と乙姫だったわけというだ。
屋敷に火を放ったのは、なんと浦島と乙姫自身。全ては、自分たちが火事により死んだと思わせるためだ。
2人は互いに深く愛し合い、将来を誓い合っていた。しかし、乙姫は桃太郎の許嫁。立場の柵により、結婚は夢物語。2人が添い遂げるためには、死んだことにするしかなかった。
2人は計画を立てると、桃太郎に協力を願い出た。
桃太郎は2人の協力者として、捜査を都合の良いように操り、2人が生きている証拠を隠滅して、この隠れ家を提供した。
浦島と乙姫は暫くはこの隠れ家に潜伏するが、ほとぼりが冷めたらノーチラス号に密航し、地上にある浦島太郎の故郷で暮らすらしい。
畢竟、このクエストは殺人に見せかけた、ただの茶番劇。俺たちは被害者のいない殺人事件を懸命に捜査して、間抜けた探偵役というわけだ。
まぁ、口止め料として桃太郎からは多額のコインが、浦島と乙姫からは”ポセイドンの勾玉”というアイテムを貰えたらから、それでいいのだが。
「それで、ミナはいつから気付いてたんだ?」
浦島と乙姫からアイテムを貰い、地下室から物置小屋へ戻る途中。俺はミナに尋ねる。
「最初に違和感を感じたのは、金太郎と団小屋で話している最中、桃太郎が来た時。あの時桃太郎は、浦島と乙姫が『逝去した』や『亡くなられた』ではなく、『いなくなった』って表現したじゃない?わざわざその表現にした理由が、ちょっと引っ掛かったのよ」
「そうだっけ?全然記憶にねぇわ」
「でも死んだと思ってた人が実は生きてました、なんてトリック、ミステリーじゃ使い古されているわ。だから可能性として追っていたの」
そんなに最初から気付いていたとは、教えてくれても良かったのに。俺に推理させる喜びを残そうとした、ミナなりの気遣いなのだろうが。
「でも分からないのが、桃太郎が浦島と乙姫に協力した動機。どんなメリットがあって、あれほど危ない橋を渡ったんですか?桃太郎さん」
ミナが尋ねると、桃太郎はフフッと笑い、失礼と一言添えてから語り始める。
「メリットなどないです。愛する者に、幸せであってほしいだけです」
桃太郎は、遠い目をしている。
本来、乙姫は桃太郎の許嫁だ。もし2人を手助けしていなければ、桃太郎は望み通り乙姫と結婚できていた。それなのに、己は失恋してまでも、好きな人の恋路を支えるとは...やはりこいつ、カッコ良すぎだろ。
「浦島殿が幸せでいるなら、私はそれ以上のことは望みません」
...うん。お前もBLかい。浦島、モテモテだな。
長く暗い階段を上り終え、物置小屋を出る。
桃太郎の肩の上に、一片の桜が乗っかる。
見上げれば、倉庫のすぐ近くに、1本の大きな桜の木があった。桜の木は何かを祝福しているかのように、見事な花を咲かせていた。
宙を舞う数百の花弁は、俺が宙に浮ける気分にさせる。俺はいつもクラス内で浮いているって?やかましいわ。
「どうしたんですかね?この枯れ木はすっかり老いて、何年も花を咲かせてないのですが」
物置小屋の警備をしていた兵士がぼやく。桃太郎は肩に落ちた桜の花びらを払い落とすと、意味ありげに呟く。
「枯れ木に花、か。あの御方らしいな」
あの御方って、だれだ?ポカンとする俺に、ミナがヒントをくれる。
「乙姫の父親が誰か、忘れた?」
ヒントというか、それは殆ど答えだ。
乙姫の父親は、花咲か爺。
確か、花咲か爺は浦島太郎と結婚したい乙姫の意図を尊重したいが、立場上それを許可できない、という設定のはず。
娘と義息子の企みには気づいていながら、敢えて見逃したということだろう。
ならばこの桜は、父親なりの結婚祝いということだろう。
最後に、「枯れ木に花」の意味を知っているだろうか?
基本的には、「一度は衰えてしまったものが、再び栄えたり、美しさや活力を取り戻す」という意味だ。
しかしややマイナーな語意として、「事実とは異なる嘘やつくりごとで人を騙す」と「望んでも不可能なことが、奇跡的に実現する」というのがあるそうだ。




