18 discover
ミナに言われるがまま、桃太郎の屋敷に向かった。道中で理由を尋ねたが、意味深な笑みを浮かべるだけで、何も教えてくれなかった。
牛舎に揺られてほどなく、桃太郎の屋敷に付いた。以前(不法に)入った時は夜だったからあまり思わなかったが、こうしてみると立派な屋敷だ。
屋敷の使用人に桃太郎と合わせるようお願いすると、あっさり応接間へ案内された。
応接間には、既に桃太郎が座って待っていた。俺たちに気付くと、立ち上がり軽く頭を下げる。
こうしてみると、なかなか二枚目だ。服の上からでも分かる、仕上がった体。目つきが少々鋭いが、素朴で男前な顔つき。黒幕のイメージが強かったからか思わなかったが、『自分、不器用なんて』とか言いそうな、硬派なナイスガイだ。
「簡素なもてなしで失礼。多忙故、単刀直入にお尋ねします。ご用件はなんでしょう?」
俺たちが座布団に腰かけると、すぐさま話を始めた。
「竜宮城の離れが燃えた件の真相について、私の愚考を聞いていただきたいと思いまして」
ミナはそう言って、ゆっくりとお茶を啜る。まるで物語に登場する名探偵のようで、ちょっと鼻につく。
しかし、火事の件についてはもう犯人が捕まっているはずだ。今更掘り返す事なんて───
そう考えて、俺ははっと息を呑む。
犬が犯人なのは、あくまで浦島太郎の毒殺未遂に関してだ。勝手に火事と毒殺未遂を関連付けていたので、毒殺未遂と火事の犯人が同じである根拠はない。
だが狗が火事の犯人でないとして、真犯人は誰か。ミナがここに来たということは、真犯人は明白だ。
「桃太郎さん。火事の犯人は、あなた達ですよね?」
ミナの発言に、桃太郎は眉間に深い深い皺を作る。
「冒険者の方。世の中には、言ってはならない冗談もあります」
「質問を変えましょう。2人をどこに匿っているんですか?やっぱり、あの物置小屋ですか?」
『2人』『匿う』『物置小屋』。突飛なワードが飛び出てきて、クエスチョンマークが脳内で大量生産される。どこかに、俺のクエスチョンマークを買い取ってくれる人はいないだろうか?
ミナの質問を聞いた桃太郎は、顔を下に向ける。そのせいで表情が読めない。
もしかしすると、ミナの発言の意味が分からず、AIがフリーズしているのかもしれない。顔を上げたら、どこぞの人工知能のように、『すみません。よくわかりません』と無機質な口調で言い出すんじゃないのか?
そんな俺の心配は、杞憂だった。
「分かりました。部下の蛮行を諫めていただいた恩もございます。付いてきてください」
桃太郎はすっと立ち上がり、観念したと言った面持ちで告げる。その声調はいつもの硬い印象と比べて、随分と柔和なものだった。
歩き出す桃太郎に、俺は訳も分からぬままついていく。
移動の途中、「何がどうなってんの?」とミナに聞くも、「すぐわかる」の一点張りでお茶を濁された。
桃太郎が向かった先は、やはりというべきか、物置小屋だった。
桃太郎は見張りの兵士に二言三言話すと、扉を開けて物置小屋に足を踏み入れる。物置小屋には、日用品から武器まで、様々なものが取り揃えてあった。綺麗で手入れが行き届いていること以外、なんの変哲もない。
なんて思っていたら、桃太郎は置かれていた畳を一枚ずつ不規則に床に並べる。そして壁に描かれていた掛け軸をぐいっと引っ張る。
するとゴゴゴゴッと石が擦れる音がして床の一部がゆっくりスライドし、床だった場所から階段が現れる。
「地下室につながる、隠し通路です」
桃太郎は事も無げに言うと、現れた階段を下りていく。
「すげぇっ!!!!忍者屋敷みてぇ!!!!!俺、将来こんな家建てたい!!」
感動する俺に、ミナはまたしても水を差す。
「究極的金の無駄遣いね。なんのために、隠し地下室なんて作るのよ。アサルトライフルでも隠したいの?」
「俺は遵法意識が高い人間が、銃刀法違反なんてするわけないだろ。ちょっと脱税したお金を隠すだけだ」
「理由が生々しいし、バリバリ違法じゃない」
階段を下りると、石の壁で行き止まりとなっていた。しかし桃太郎が壁の前で色々な動作をしてから石の壁を押すと、ゴゴゴッと音を立ててスライドする。
「また隠し通路!慎重すぎるくらいに慎重だな」
「我の祖先は忍者の末裔らしく、万一の避難先としてこれを作ったそうです。ただ、この中にあるものを考えれば、このセキュリティでも物足りないくらいですが」
奥に入ると玄関があり、4足の草鞋が並べられていた。埃も溜まっておらず、生活臭が漂っている。コロナパンデミックも殆ど終息したというのに、こんな隔離された地下空間に誰が住んでいるんだろうか?
靴を脱ぎ、玄関を抜けると、10畳ほどの広々とした居間が広がっていた。今の中央には囲炉裏があった。その囲炉裏を挟んで、2人の男女が座っていた。
その男女を見て、俺と金太郎は絶句する。対照的に、ミナはしたり顔で頷く。
そこにいたのは、火事で焼死したはずの浦島太郎と乙姫であった。




