16 GAME OVER?
「……ねぇ。そろそろ出よ」
どのくらい時間が経ったのだろうか。
ミナに夢中になっていて気が付かなかったが、既にNPCは部屋から出ていた。
転がる様にして机の下から脱出し、絡まった四肢を解く。
「……………」
「……………」
あれだけ密着した後だから、気まずい沈黙が流れる。
なんとか雰囲気を変えられないかと、話題を考える。
「あっ、そう言えば、入ってきたNPCの奴、火事の証拠隠滅とか言ってたよな。これで、桃太郎が犯人なのは間違いないな」
我ながら白々しい物言いだが、ミナはその話に乗ってくれた。
「そうね。推理小説好きとしては、どんでん返しを期待しちゃったけど、流石にこの展開から黒幕が桃太郎じゃなくなるのはなさそうね」
この時の俺たちは、先ほどの出来事で完全に平静を失っていた。そのせいで、気づけたはずの近づく足音に、気が付くことが出来なかった。
突然、トントンと襖がノックされる。
血が凍る、そんな感覚があった。隠れないと!!脳がそう指示をするが、間に合うわけがない。
襖が右にずれるのが、スローモーションで見えた。
「失礼します………曲者ーーーぉ!!!!」
襖を開けたNPCは、俺たちを見ると、一泊置いて叫ぶ。チューバのような野太い大声が、屋敷に響き渡る。
俺たちはそのNPCを殴り倒して、全速力で逃げる。
外に出ると、騒ぎを聞きつけた兵士たちが早くも庭に集まっていた。迅速な警備だ。正面突破は無謀。
ミナが懐から取り出した煙玉を地面に叩きつけ、一帯が煙に包まれる。
「スキル発動”影武者”」
すかさず俺はスキルを発動し、分身を生む出す。更に俺とミナは警備員たちの衣装に早着替えする。警備員の服装は、万が一に備えるため、事前のミッションで入手した。まさか使うとは思わなかったが。
分身を警備員たちに突っ込ませて兵士たちを引き付けている間に、変装した俺たちは悠々と反対側から逃走する。
夜の暗闇では、顔までは分からない。服装だけで簡単に騙せる。そうして俺たちは、難なく屋敷から脱出できた。
「上手くいきましたか?」
金太郎は俺たちが戻ってきたことに安堵しつつ、不安げに聞いてくる。
「えぇ。目的は達成しました。色々ありましたが」
ミナがアイテムボックスから、ハンコの押された紙を取り出す。
色々の内容を思い出してか、少し顔が赤い。
「ありがとうございます。おらは忍び込むなんてこと、とてもできねぇんで。それでは明日の昼、”ブチコロ草”を管理する施設に向かい、証拠を見つけましょう」
翌日。まぁ、宿屋のベットで3秒寝たら日が経ったから、一切待ってはいないが。
浦島太郎の毒殺未遂に使われた証拠を見つけるため、ブチコロ草を管理している場所に向かった。
「ここを調査しに来た。今すぐ入らせてくれ」
正門にいた兵士2人に金太郎が告げる。
「ここは部外者禁止だ」
兵士が調査を拒否すると、金太郎はすかさず捜査令状を見せつける。
「これは桃太郎からの特命だ。まさか、主に盾突くともりか?」
兵士は金太郎がつきつけた紙を注視し、それが捜査令状であると分かると、態度が一転して軟化する。
「こ、これは…!!すぐに上に確認してきます」
暫くすると、ドーベルマンの頭をした男がやって来た。こいつが桃太郎の部下である、”狗”なのだろう。
「今すぐ調査させろ。これは桃太郎様からの命令だ」
金太郎が強硬な態度で捜査令状を見せつけると、狗は異様なほどに狼狽える。
「本物の令状だと!!…だがこちらには、なんの報告も届いてない。調査に応じることは出来ない!」
「緊急の案件だから、報告がまだなのだろう。すぐに案内せよ」
「し、しかし…部外者を招くことは固く禁じられている。調査の内容はなんだ?私が調査しておこう」
「桃太郎様から命を下されたのは、この金太郎だ!まさか、主の命令に背くつもりではあるまいな!?」
金太郎は語気を強めるが、狗も負けじと食い下がる。
「桃太郎様の配下でもない貴様が、俺を差し置いて調査を任せられるなど、納得がいかん!!」
「くどい!!この捜査令状が、目に入らぬか!!!」
江戸時代にて世直し行う快男子さながら、金太郎がぴしゃりと言い放つ。
それでも尚ごねようとする狗を押しのけて、施設に侵入しようとすると、後ろから声がかけられる。
「何を騒いでおる。狗、金太郎殿」
後方を振り返ると、大量の家来を引き連れた桃太郎がいた。
一瞬、地面がひっくり返った気がした。
なんでここに、こいつがいる!!
この捜査令状は、桃太郎の屋敷に侵入してまで作成した。見た目そのものは本物だが、実際に桃太郎が許可を出したものではない。
桃太郎が確認すれば、この捜査令状が偽物であるとバレる。そうなれば、苦労が水の泡だ。
「桃太郎様!この施設を調査するとは、一体どういうことですか!??」
狗が声を荒げる。
「ここを調査??何故、そのようなことになっている」
「浦島さんの毒殺未遂に関する調査です。ここに捜査令状もございますが」
金太郎は捜査令状を見せて、しらばっくれる。大した度胸だが、額には冷や汗が浮かんでいる。
桃太郎は捜査令状を一瞥し、疑義の念を抱いた様子で言う。
「このような捜査令状に許可を出した覚えはない。だが、ハンコも押されている。我の記憶違いか?…いや、昨晩我の部屋に泥棒が入った。何も取られていなかったため、珍妙な泥棒もいるものだと思ったが…まさかハンコを押すための!言われてみれば、泥棒に入った2人組の特徴が、冒険者の2人と共通しているな」
俺たちのを、桃太郎は即座に看破した。最早、逆転の余地はない。
桃太郎はただでさえ鋭い目を一際尖らせる。
「どういうことか説明してもらおうか、金太郎殿」




