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15 teenagers

 『桃太郎の屋敷に忍び込んで、ハンコを入手する』

課されたミッションは、俺が想定していたよりずっと大変なものだった。

まず屋敷の警備体制を調べるため、屋敷の使用人の1人と交渉。使用人は情報の対価として、ダンジョンの奥に眠る秘宝、”瑠璃色の真珠”を要求してきやがった。なんとかダンジョンを攻略し、”瑠璃色の真珠”を使用人に渡して、警備の穴を把握。続いて、桃太郎の屋敷の見取り図を得るため、建築士に協力を仰ぐ。そしたら、客を連れてきたら見取り図をやるとか言いだしてきた。ゲーム対して無粋なツッコミだが、宝石や儲けのために客の個人情報を売るとか、プライバシーへの意識が低すぎないか?なんとか家を建てようとしている人を見つけたはいいけど、家の建築を依頼する代わりに財布を落としたから探してほしいとか抜かしやがった。3時間かけて海底都市を歩き回り、結局財布は上着の裏面のポケットにしまっていたというオチ。ブチギレて、財布を探させたNPCに顔面パンチしてやった(そのNPCに攻撃判定がなかったので、無意味な攻撃であった)。

そもそも屋敷の構造や警備体制は、影魔法のスキル”蜉蝣”で屋敷を探索すれば済む話なのだが、RPGにおいてストーリーの流れは絶対。どんれだけ合理的な意見を言おうと、耳を貸してはくれないのだ。

それらのミッション(省略しただけで、上記以外にもミッションがあった)をクリアして、晴れて桃太郎の屋敷に忍び入り、ハンコを盗む段階までこぎつけた。


 日が沈み、月が輝き始めた頃。俺とミナは桃太郎の屋敷のすぐ外にいた。

「なぁ、今から俺らがすることって、泥棒に片足突っ込んでるよな??」

「片足どころか、肩までずぶずぶよ」

俺が確認を取ると、ミナは何を今更と言った風に俺を見る。まぁ、ゲーム内なら犯罪も犯罪じゃないしな。かの勇者だって、人の家に勝手に入っては壺を割るものだ。

「とはいっても、俺みたいに倫理観がちゃんとしている模範的優等生には、ちょっとハードルが高いなぁ」

「御託はいいから、ささっとミッションクリアするわよ」

駄々をこねる俺に置いて、ミナは縄を使ってヒョイと塀を超える。嘘つきは泥棒の始まりというが、あの格言はやはり的を得ている。嘘つき(ミナ)は泥棒の手際が良い。

ゴチャゴチャ言ってないではよ来い。という、無言の圧を掛けられたので、俺も仕方なく塀を超える。

警備員に見つからないよう、体勢は低く、足音を出来る限り抑える。

事前に決めたルートを辿り、警備の薄い所を縫うようにして、桃太郎の私室を目指す。

入念な下調べの甲斐もあり、順調に目的地へと近づいていく。かと思ったら、俺の前を歩いていたミナが、急に止まる。何かと思えば、少し離れた物置小屋を指さした。

「見て頂戴。あの物置小屋に、2人も警備がいるわ」

ミナの言う通り、屋敷から少し離れた場所にある物置小屋を、槍を構えた2人の男が不動明王のように守っている。

「物置小屋って、要するにただの物置よね?どうしてただの物置に警備員を2人も配置させるのかしら?」

「重要なお宝を置いているって設定なんじゃね。んなことより、さっさと進まねぇとミッション失敗するぞ」

ミナは釈然としない顔で、渋々歩み始める。


 その後は警備員に一度も見つかることも無く、スムーズに桃太郎の私室にたどり着いた。下調べで、桃太郎はこの時間は公務でいないことは把握済み。

無人の部屋で、目当てのハンコを探す。これは少し手間取ったが、それでも見つけるまで3分もかからなかった。

「この紙のここに、ハンコを押せばいいのよね」

ミナがアイテムボックスから紙を取り出し、ポンとハンコを紙に強く押し付ける。

「これで、ミッションコンプリートだよな。後は帰るだけか。意外とチョロかったな」

「ちょっと。それ、フラグ───」

ミナが言い終わるより早く、フラグは回収される。

タン、タン、タン、タン、タン、タン。

廊下から、誰かが歩いてくる。足音が小さく鳴り響く度に、心臓が大きく脈を打つ。

トントン。部屋の襖がノックされる。

「桃太郎様、失礼します」

ズズッといいながら襖を横にスライドし、無個性な顔のNPCが部屋へと入ってくる。

「…あれ?居ない!声が聞こえたけど、空耳か?火事の件について、証拠隠滅が完了したことを報告しようと思ったんだけど…」

NPCは頭を掻き、首を捻る。


男が入室する直前、俺とミナは書斎机の下に体をねじ込み、何とか身を隠した。

あと1秒隠れるのが遅れていたら、見つかっていただろう。

しかし時間が無かったとはいえ、どちらかは他の場所に隠れるべきだった。人2人が隠れるには、机の下は少々狭隘(きょうあい)だ。

「ち、近くない?」

「無茶ゆーな」

俺とミナの体は複雑に絡まり、ミナの顔が文字通り目と鼻の先。やろうと思えば、キスだってできる。


まずいまずいまずい!!!


ただでさえ女子に対する免疫がないというのに、意中の相手とゼロ距離。こんなの、耐えきれない。

触れる肌が柔らかい感触が走る。頬にかかる吐息が温かい。

恐怖により激しくなっていた鼓動が、今度は別の要因により鳴り響く。

ミナの瞳を見る。いつも何かを見定めるような瞳が、その瞬間は稚児のような無垢さを秘めていた。

ミナの瞳に映る俺を見る。瞳に映る俺は、林檎みたいに頬を赤く染めていた。


ふと、自分で思っていたより、俺は最低じゃないかったと思った。

俺は面食いで、ミナに惚れたのもその容姿が好きになったからだと思った。絹のような滑らかな黒髪。知性を感じさせる顔立ち。けれど意外と子供っぽい、屈託のない笑顔。

包み隠さず言えば、ミナのことを気になったきっかけは、間違いなく外見だ。

そのことを悪いこととは思っていないが、外見だけで恋に落ちることが、なんとなく不純な気でいた。

でも、容姿はきっかけに過ぎなかった。

手段を選ばぬ貪欲さ。俺では逆立ちしたって思いつかない奇想天外な作戦を組み立てる賢さ。影魔法がカンストしておらず、雑魚同然だった俺とも、フレンドになってくれた優しさ。

一緒の時間を過ごすうちに、外見も内面も、良い所も悪い所も好きになっていた。

だから風貌の違うゲームのアバターにさえ、こんなにドキドキしてしまう。

心臓がもちやしないけど、この時間が永遠に続いてほしかった。

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