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「浦島さんは、本当に凄いお方なんでさぁ。強くて、優しくて、格好良くて」
「彼のファンは老若男女問わず、たくさんおる。おらかてその1人さ。ド田舎出身のおらにも気さくに接してくれるんじゃ」
「不思議な人でさぁ。彼と話すと、なんだか心が安らぐんでさぁ。最初は皆、異邦人だなんだと冷たく接しとったのに、今では国王様から信頼され、姫様から愛されてとる。こんな人たらし、他におらんさぁ」
浦島太郎の話になった途端、金太郎は鼻息を荒くして早口でまくし立てる。方言も全開。
早口と方言のダブルパンチで、会話についていくのも一苦労だ。
ついていったところで、発言の9割が『浦島太郎しか勝たん!!』で、生産性はあまりなかったが。
金太郎の発言から、重要そうな設定をピックアップすると、以下の通りだ。
浦島太郎は、数年前に浜辺でガキに虐められていた亀を助けたことで、この海底都市に招待された。以来ずっとここで暮らしている。
浦島太郎は海底都市のお姫様である乙姫と恋仲にある。しかし乙姫には桃太郎という許婚がいる。桃太郎の家系は海底都市を守る騎士団の長を代々務めており、2人が生まれた時から、桃太郎と乙姫が結婚することは決められていた。だから桃太郎の一派は、浦島太郎のことをよく思っていない。
乙姫の父親であり、都市長でもある花咲か爺は、娘の意思を尊重したいと考えてはいるものの、桃太郎一派への影響力から浦島太郎と乙姫の結婚を承諾できずにいる。
少女漫画に有りそうな設定だなーとぼんやり考えていると、いつの間にか龍宮城に到着していた。遠くからでもわかっていたことだが、近くで見た竜宮城はなお一層大きかった。
金太郎に案内され、大広間に通される。
大広間には、位の高そうな4人の男女と、10数名のモブっぽい連中が座って待っていた。
その中でも別格の貫禄がある、立派な白髭の好々爺が首を垂れる。
「ようこそおいてくださいました、冒険者の方。私はこの海底都市の長、花咲か爺と申します。長い船旅にお疲れのこととは存じますが、どうか歓迎の宴をお楽しみください」
花咲か爺に続き、他の者も一斉に頭を床にこすりつける。凄い丁重にもてなしてくれる。あまりに丁重すぎて、逆に圧迫感を感じるほどだ。
挨拶が終わると、料理が運ばれた。海沿いの老舗旅館で出されそうな、海鮮ずくしの料理。海老に雲丹に河豚に黒鮪。リアルで滅多に食べられない高級品ばかり。まぁこのゲームは味覚の再現度がイマイチだから、お世辞にも美味しいとは言えないのだが。
「そういえば、冒険者さん。今の陸地はどんな感じだ?なにせ俺は海底に来てから、2年?くらい経ってっからよ」
食事の途中、簡素な紺色の和服を着た陽気なイケメンが質問を投げてきた。金太郎の話と外見が一致する。こいつが浦島太郎か。
なんというか、陽キャオーラが凄い。それも、オタクに優しいタイプ。陽からも陰からも好かれる、人に好かれるために生まれてきた真性の陽キャだ。眩しさで溶けそう。
「浦島殿が此処に来たのは、3年と2ヶ月前からでございます」
浦島太郎の発言に、対面に座っていたちょんまげの男が口を挟む。如何にも武士らしい無骨な見た目。堅物そうな雰囲気。現状の登場人物的に、恐らくこいつが───
「そんなに経っとりますか!にしても、桃太郎さんは記憶力がいいですな」
「失敬。神経質な性分でして」
やっぱり、このちょんまげが桃太郎か。心なしか、浦島太郎に対して冷たい気がする。やはり許嫁が別の男に夢中というのは、面白くないのだろう。
「桃太郎様が神経質というか、浦島が雑過ぎるんですわ。3年を2年と間違えるなんて、あり得ませんよ!」
花咲か爺の隣に座っていた女が、会話に混ざる。
「いやぁー、乙姫さんと過ごす時間が楽しすぎるから、早く過ぎているように感じてしまうのですよ」
「ふふっ。相変わらず、口が上手ですね」
やはりこの女が乙姫か。お団子ヘアが特徴的な、和風の美女。少女漫画のヒロイン待遇も頷ける、整った容姿をしている。
クエストの内容は、浦島太郎と桃太郎と乙姫様の三角関係を主題に進行していくのだろうか?このゲームにしては、随分とロマンチックだな。
ただ俺は、三角関係やハーレム系のラブコメは、負けヒロインが可哀そうだから好きじゃない。主人公とヒロインが1対1のラブコメこそ至高。
このクエストストーリーは、あまり楽しめなさそうだ。
それから食事会はつつがなく進んだが、途中で浦島太郎が体調不良を申し出た。
「すみません。少々体調が優れないので、別室で休んできます」
「なら、私が付き添うわ。離れの”鯛の間”へ行きましょう」
浦島太郎に続くように、乙姫が言う。
そして2人は広間を去った。
浦島太郎は体調が悪そうには見えなかったが、ゲームだから細かいキャラの表情までは作りこんでないのだろうか?
それと気のせいかもしれないが、桃太郎の目が険しい。
どことなく違和感がくすぶる。
それから5分ほど経った時。城内が俄かに騒がしくなる。
どうしたのかと思ったら、冷や汗を浮かべた使用人が、大慌てで広間に入ってきた。
「今、客人をもてなしている。緊急の要件以外は控えろ」
桃太郎が低い声で使用人を窘める。
「申し訳ございません。しかし…鯛の間が燃えております!!」
使用人の言葉に、俺たちは目を見開く。
鯛の間は、先ほど乙姫と浦島太郎が休憩に行ったばかり。
押っ取り刀で鯛の間へ駆けつける。
俺たちが着いた時、鯛の間は文字通り火の海というべき惨状で、直視できないほど激しい炎が広がっていた。使用人たちが水を使って、懸命に消火を試みているが、焼け石に水。
すると金太郎が近くにあった池へ走り、背中に背負っていた鉞を水面に叩きつける。そして手で水を掬うように、鉞を器用に操り、燃える離れに水を撒く。金太郎の化け物じみた剛腕により、大量の水が離れに降り注ぎ、火の勢いが弱まる。
金太郎は必死の形相で、何度も鉞で水を屋敷へとかける。金太郎の貢献におかげで、火はみるみる勢いを弱まっていき、次第に鎮火する。
しかし金太郎による獅子奮迅の活躍は、徒労に終わった。
鎮火した離れには、黒焦げとなった2人の死体が転がっていた。
第12話『murder』
隙あらば自分語りしちゃう。




