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75/84

75:レシピ


よく晴れた日だ。

その日、マルシアに連れられ城の庭に出ていた。庭といっても乾燥地帯にあるこの城の王都のためさほど広くはない。

貴重な川から水を引き、丁寧に育て上げられているその庭の花々は随分と綺麗だった。


「リオンさん、これ何かしら?」


マルシアに聞かれ顔をそちらに向ける。


「ああ、これハーブね。料理にたまに使われてますよ」


「そうなんですね。本当、リオンさん色々と詳しくって感心しちゃいます」


そう言われ嬉しくなりふふっとリオンは笑った。


ちょうどそのマルシアが立ち止まったエリアはたくさんのハーブが植えられていた。

食用になるのだろうそれらはどれも香りがあって、一つずつリオンはその香りを楽しんでいった。


しかし4つほど香りをかいだ瞬間、リオンはそのハーブの香りに思わず後退りしてしまった。


(あの、クッキーだ……)


香りを楽しむ前に思い出せばよかったと後悔した。

あの人の母親が作ってくれたクッキーに使われていたハーブだ。

思わず眉を寄せそこに立ちすくむリオンを、マルシアは不思議そうに見て声をかけた。


「リオンさん、何かおかしなものでも?」


「いいえ………ねぇ、マルシア様、お料理は得意?いえ、お料理でなくて……お菓子作りは得意かしら?」



「え?……ある程度は自分でできるように教えられましたけれど、リオンさんは……元からの王女は流石にやらないですよね」


そうマルシアが笑う。



「ええ。私はさっぱりで。でもひとつだけ教えてもらったことのあるレシピがあるんですけれど、一緒に作るの手伝ってくださらない?」



その誘いにマルシアは、もちろんと答え無理を言ってその日の午後に城の厨房を使わせてもらった。


あの夏休みの日以来、あの人の家に行ってはいなかったが、レシピを紙に書いて送ってもらっていた。

その紙すらリオンはハンザにくるときに捨ててきていたが、何度も何度も頭の中の想像で作っていたので作り方は頭の中にある。



(このくらい、良いよね)



穏やかな毎日が続いていた。

きっとその穏やかさにリオンの張っていた気が少しだけ緩んだのだろう。


リオンは頭の中にあるレシピを紙にすらすらと書いてマルシアに見せた。



2人の王女が急に厨房を使わせてくれと言ったため、厨房の中は大混乱だった。

そもそも普段王族が入ることなどない場所、入ったとしても自らが作るなどあり得ない場所に一気に2人も、しかも次期国王の妻2人だ。

料理長は材料の量を必要なものより3倍集めてしまい、使用人たちは2人の着るドレスが汚れないようにと2人の周りを忙しなくウロウロとしていた。


アクセントになる胡桃を砕く作業をする時の2人の普段見ないほどの必死さに周りの人間は思わず目を覆ったくらいだ。


***


優しいクッキーの焼ける香りが城中に漂う。


出来上がったクッキーは初めて作ったわりに上出来だ。

その日は随分と天気がよかったため、即席で小さなお茶会が庭に準備され、リオンとマルシアは出来上がったクッキーとお茶を楽しんでいた。


「これ、すごく美味しいですね。ハーブの香りと、胡桃の香ばしさが素晴らしい」


「でしょう?初めて作ったけれど、マルシア様が手伝ってくださったおかげで失敗せずにすみました」


そうリオンは笑ってクッキーを一つ口に運んだ。


(これだ……でもやっぱりもう一息、何かが足りないなぁ)


そう思い、空を見上げた。



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